第472話 地下でオーブンの蒸し焼き
吹き抜けの空間をさらに下まで降りると床が見えて来た。
俺が念のため鏡面薬を投げ入れると、入れ物が床に落ちて割れる。しかし特に魔法陣の反応は無かった。どこに魔法陣が設置されているかも分からないので念入りにチェックする必要がある。
「魔法陣の罠は無いようだ。」
「そのようだな。あと、しもべたちの死骸も無いな。」
「恐らく消滅したんだと思う。」
「そういうものなのか?」
「そうだ。」
俺とオージェが話している。
「とにかく降りるぞ。」
「わかった。」
シャーミリアとアナミスは既に地下に降り立って俺達を待っていた。
「ここはいったい何だろうな?」
「祭壇のような物があります。」
アナミスが言う方向を見ると祭壇があった。
「祭壇か。秘密の儀式でもやろうって雰囲気だな。」
「そうだな。それほど不気味でもないが、こんなところにあるのは妙だ。」
「だな。それと…ここには出入口が無いぞ。」
俺達が周りを見渡すが、扉のような物がどこにも無かった。
「シャーミリア、カララ秘密の出口のような物が無いか壁を探れ。」
「「かしこまりました。」」
二人に壁を調べさせている間に俺達もあたりを探索してみる。日本人3人は不安そうにあたりを見渡すだけで、ファントムはただ突っ立っているだけだった。
「壁に松明がかけてあるぞ。」
「つけるか?」
オージェが言うので、俺は米軍支給のジッポーライターを召喚しオージェに投げ渡す。
「おお!ジッポー!これもらっていいか?」
「いくらでもやるよ。でも30日ルールがあるぞ。」
「…そうだった。」
オージェは残念そうにジッポーを眺めてから、壁際に行って松明に火を灯し始める。すると地下空間は松明の明かりに照らされて明るくなった。
「ご主人様。やはり扉らしきものはございません。」
シャーミリアが言う。
「そうか。」
「しかしラウル様、あの魔石はこの床のかなり下にあるのです。私の糸の感覚では水路を通って行けるようなのですが一度上に上がり、遠回りになるかもしれません。」
カララはどうやら他の水路からその巨大魔石を見つけたようだった。
「水路か。だがファートリア聖都のお偉いさんが水路を通っていくだろうか?」
「確かに。」
俺はこの部屋のどこかに隠し通路があると考えているが、そこに通ずる通路が見当たらない。
「あのー。」
「はい、カナデさん。」
俺はキチョウカナデを指さす。
「RPGつう向こうの世界のゲームの定番なんすが。」
うーん、可愛いめのギャルなのだが、こういう喋り方なんだコイツ。
「え?カナデさんゲームとかするの?」
こんな派手ななりをしたギャルギャルなのに、RPGをするって言うのは意外だった。
「は、はい!ゲームをしってんすか?」
「まあ、知ってるっちゃ知ってる。」
「そのゲームのヒントなんすが、こういう場合は祭壇に何か仕掛けがあるんじゃないかって。」
「なるほどなるほど。」
キチョウカナデが祭壇に歩いて行ってあちこち探り出す。
「えーっと…。」
「どうだ?」
「分かんないっす。」
一瞬期待をしたがそんなに簡単な物じゃなかったらしい。
「あとは呪文を唱えると開くとかあったっすけどね。」
「ほう。」
しかし…呪文なんて分かるはずがない。
「あなた達は何か聞いた事は無いのかしら?」
アナミスが聞く。
「は、はい。アナミス先輩!聞いた事無いっす!」
アナミス”せんぱい”?。確かにアナミスの見た目は超美人のギャルっぽいが、どう見ても人間の美の領域を超えてる。それを先輩とか言い始めたぞ。
「そう…。」
《ラウル様、深層にも記憶はないですね。》
《そうか。》
アナミスが質問をすると同時に彼らの心を読んだようだが、その記憶は無いようだった。
「ラウル様。ですが確かにこの祭壇の下に何かあります。」
カララが言う。
「オージェ!この祭壇取って!」
面倒なのでオージェに頼むことにする。
「ん?」
「下に通ずる通路あるかもしんないんだけど、どうしたらいいか分かんないんだよ。」
壁際で米軍ジッポーを眺めていたオージェがこっちを振り向く。よっぽどジッポーが気に入ったらしい。
「お、おお!わかった。」
そしてオージェが祭壇の所にやってきて、祭壇を眺める。
「なんか立派な大理石風の祭壇だけど、壊しちゃっていいもんかね?」
「うーん。じゃあ引っこ抜いて脇に置いてくれ。」
「了解。」
オージェがデカい祭壇の両脇をガシっと掴んだ。
「ふっ!」
バゴーン!
「あっ!」
祭壇が根元から取り外されたのはいいが、グイっと持ち上げた瞬間にバラバラになってしまった。
「この祭壇。削り出したわけじゃなくて複雑に組まれていたらしいな。」
「すまん壊した。」
「まあいいんじゃね?」
その光景を見ていた日本人3人はあっけに取られてオージェを見ていた。無理もない…この巨大な石の祭壇を持ち上げて粉々にしてしまったのだ。まるで世紀末の拳法家のように。
「あ、あの!オージェさん!凄いですね。」
ハルトが言う。
「いやあ…繊細さがなくてな。力加減を最小限にしたつもりが壊してしまった。」
「ちからかげんを最小限に?」
「ああ、壊さないようにそっとしたんだが、砕いてしまったよ。」
3人の日本人はさらに呆けたような症状をする。
すると…
「パねえっす!」
キチョウカナデが言う。
「本当ですね!」
ホウジョウマコも言う。
「凄すぎます。」
ナガセハルトも言う。
3人は羨望の眼差しでオージェを見ていた。
「あ、あの…腕触ってもいいですか?」
ホウジョウマコが言う。
「そりゃかまわんが。」
サスサス
「すごぉーい。とっても太くて力強いわぁ」
…あ、そういえばホウジョウマコは港区女子でパパ活してたんだっけ?どうやらオージェは逞しさに目を着けられたようだ。
「そ、そんなことより!とにかく地下に通ずる通路があるぞ!」
オージェが困ったような表情で言う。
石の祭壇がなくなった後にぽっかりと穴が開いていた。そこを覗くと下に続く階段がみえた。
「どうやらここから降りられるようだな。」
「そのようだ。」
「ファントム!」
ファントムが前に出る。
「先行しろ。」
ズンズン
ファントムが先に入って、シャーミリアとカララが後を追う。先に入って俺達の安全を確保するためだ。
「オージェが最後尾で頼む。」
「了解だ。」
俺と日本人たちが次に続いて、アナミス、オージェの順に地下へと続く階段を下りていく。
「下の部屋も魔石の明かりがあるようだな。」
「本当だ。」
階段は螺旋になっており、円柱系の内側に張り巡らされるように下へと続いていた。壁には緑色に光る魔石が埋め込まれており、足元が見えるように照らされていた。
「ラウル様!恐らく下層にデモンがいるようです。」
「なら既にこっちに気が付いているだろうな。」
「可能性は高いかと。」
カララが糸で下を確認したらしく、下層にはデモンがいるらしい。
「何体くらいいるかな?」
「1体と500くらいのしもべが。」
「まだ結構いるな。」
「そこは爆破していませんので、無傷であるかと思います。」
「なるほどな。」
「ご主人様…警戒が必要かと思われます。」
シャーミリアが言う。
「どうした?」
「今まで遭遇したデモンとは質が違います。ユークリット王都で遭遇したネビロスでも下等であると思われるほどです。」
「それほどか?」
「オージェ様と私奴、ファントムで同時攻撃を行う事を許可ください。」
「わかった。オージェいいか?」
「ああ了解だ。」
カララとアナミスからも緊張の気配が伝わってくる。どうやらそれほどの敵が下層にいるらしい。その表情から察して俺はある考えを言うためにみんなを止めた。
「みんな止まってくれ。」
「どうした?」
「ああオージェ。そんなに危険だったらさ…侵入するのやめて爆破しちゃおうかな。」
「どうしたんだ急に?」
「だってみんなに怪我されるのヤダし。」
「魔石に包まれた人間の調査をするんだろ?」
「でもみんなの命には代えられないよ。」
「ラウルよ。大丈夫だ、シャーミリアさんほどじゃないだろうが俺も気配が読める。自信過剰と思われるかもしれないが、恐らく問題ないと思うぞ。」
ああ…頼もしいわあ。コイツは前世の時からほんっとに頼もしくて、いざという時に何度助けられてきたことか。
「わかった。頼むぞ。」
「了解。」
「オージェさん、パねえっす!」
「本当に素敵だわぁ。」
「オージェ師匠!」
えっと日本人3人組のオージェの評価が爆上がりだ。キチョウカナデはキラキラした目でオージェを見ている。ホウジョウマコはめっちゃフェロモンだしてムンムンとしている。とくにナガセハルトはオージェの事を師匠と呼び出した。
オージェは苦笑いをしてとりあえず下層に向けて下りて行くのだった。
一番下に着く前に鏡面薬で床を調べるがここにも魔法陣は無かった。その部屋にはドアが一か所だけにある。
「カララ、この向こうか?」
「いえ、もう数部屋向こうかと。」
ドアを開けるとそこにはもう一つの部屋があった。
「まて、入るな。」
入ろうとするファントムを制する。そして俺は鏡面薬を取り出して部屋に投げ込んだ。
パリン
すると薄っすらと赤い魔法陣が床に浮き出る。
「インフェルノだ。」
隣の部屋の床には一面にインフェルノの魔法陣が敷いてあったのだった。
「どうするよ。」
「発動させる。」
《ファントム!》
ファントムが俺に近づいて来る。俺はファントムから魔石を取り出して魔力をこめた。
「カララ!俺が魔石を隣の部屋に投げ込んだらドアを閉めて、糸で防御壁を作ってくれ。」
「かしこまりました。」
ポイッ
パキン
バタン!
魔石を投げ入れるとドアが閉められ、カララが糸で壁一面にもう一枚の壁を作り出した。
ゴオオオオ
壁の向こうで業火が発生しているのが分かるくらい、こちらの部屋の温度も上がり始めた。
ちとヤバイな。
俺はその場にM1128 ストライカー装甲車を召喚する。
「お前たちは乗れ。」
「す、すご!」
「車?」
「自衛隊の?」
しきりに感動しながら、3人の日本人達は後部ハッチからストライカーへ乗り込む。ちなみにアメリカ軍のだが。
「アナミス!お前も乗れ。」
「はい。」
アナミスが中に乗るのを見て俺はハッチを閉めた。
隣の業火はまだ消えていないようで、部屋の温度はドンドン上昇していく。
《俺は全く暑くないんだが。》
《我が主。温度調節出来ておりますので温度は変わりません。》
《ほんっとに凄いなヴァルキリーって》
《それほどでもございません。》
一瞬ヴァルキリーがどや顔をしたように感じる。
シャーミリアとカララとファントムにも全く変化が無い、3人とも気温の上昇など無いように涼しい顔をしている。だがオージェが若干汗をにじませていた。
俺は氷手榴弾を取り出して、あたりにばら撒いた。
バシュバシュバシュバシュ
氷があたりに広がり部屋の温度が少し落ちる。俺はさらにストライカーに向けて氷手榴弾を投げつけた。
バシュ
パリパリ
ストライカーの表面が凍り付いて行く。これで中の温度も少しは落ちるだろう。
隣の部屋の炎が収まるまで30分以上待つことになった。何度かストライカーを凍らせてその場をしのぐ。
「火が消えたみたいだな。」
「物凄いな。」
「ああ、これでグラドラムは焼かれたんだよ。」
「酷いな。」
この部屋の温度も氷手榴弾によってだいぶ下げる事が出来ているが、それでもオージェの額からは汗がしたたり落ちている。
「ファントム!カララ!」
俺はファントムとカララを呼び寄せて指示をする。
「氷手榴弾をひと箱分、隣の部屋で炸裂させろ!ファントムが一瞬扉を開いてカララが糸で氷手榴弾を侵入させて破裂させてくれ。」
「はい!」
「‥‥」
ファントムが箱ごと氷手榴弾を腹部から取り出す。それをカララが糸で持ち上げて全部の中身を取り出した。
「ファントム!」
スッ
ファントムがドアを開けると強烈な熱風が入ってくる。すぐさまカララが糸で隣の部屋に氷手榴弾を忍び込ませてすぐにドアを閉めた。
少し経つと、どうやら部屋の温度が落ちてきたようだった。隣の部屋で大量に氷手榴弾を破裂させて凍らせたのが効いたらしい。
再び30分
「ファントム。開けろ。」
ドアを開けると先ほどの熱風は入り込まず、もやもやとした熱気が漂って来た。
「どうやら収まったようだな。」
オージェが言う。
「そのようだ。」
そして俺はストライカーの後部ハッチを開けて中を見る。
「な、なにかあったんですか?」
ナガセハルトがこちらを見て聞いて来る。
「お前たちが焼け死なないように閉じ込めさせてもらった。もう出てきていいぞ。」
アナミスを先頭に3人の日本人達が出て来た。
「あっつっう!」
「真夏みたい。」
「うわぁ。」
3人から一気に汗が噴き出て来た。
「ぬ、脱いでも良いでしょうか?」
「私もさすがに暑くて。」
「俺も。」
3人とも長袖を着ていたのでさすがに暑いようだ。
「どうぞ。」
キチョウカナデとホウジョウマコはかなり露出の高い恰好になった。どうやら上着の中がノースリーブだったり、短めの丈のシャツだったりしてへそが見え隠れする。ナガセハルトはタンクトップを着ているようだ。
「人間とは不便なものですね。」
シャーミリアが言う。
「まあ仕方がないさ。特に日本人はこんな過酷な環境には慣れていないものさ。」
「左様でございましたか!ご主人様のおかげで、また一つ知識を増やす事が出来ました!私奴は幸せにございます。」
シャーミリアはまた大袈裟に喜んでいる。
「とにかく先に進むぞ。」
「あの!これはどうするんです?」
ナガセハルトがストライカー装甲車を指さして言う。
「ああ、捨ててく。」
「捨てて?」
「気にするな。」
3人は部屋いっぱいにぎゅうぎゅうに詰まっているストライカー装甲車を見ている。
「必要ならまた出せばいいよ。」
「…マジで凄すぎ。」
「ラ、ラウル様。」
「贅沢すぎます。」
3人の日本人は今度は俺に尊敬のまなざしを向ける。
うーん、この3人の魂核の改変はちょっと失敗じゃないかな?俺はあまりにも従順で素直すぎる3人をみて苦笑いするのだった。まるで小学3年生を相手にしているようだ。
「じゃ、行くぞ。」
俺達はインフェルノが発動した部屋を突っ切り次のドアを開くのだった。
次話:第473話 アスモデウス
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