第454話 兵站線上の光柱
車両部隊が1時間ほど北へ進むと、前線基地からリュート王国へと抜ける北の街道へと出る。そこで隊を止め有事に備えて待機させていた。
そして早くもドランから念話が来た。
《ラウル様。デモンは完全に沈黙、そして正面には数千の騎士の部隊がおります。》
《そうか。恐らくは圧倒的な殲滅戦になるだろうな。》
《それならば重火器の使用を止めますか?》
《いや…その部隊に、俺達が戦ったような日本人の召喚者がいる可能性もあるからな。一気に畳みかけてくれ。》
《は!》
俺が念話を切ってすぐに、遠くの方から砲撃の音が聞こえて来た。早速ドランの部隊が人間の兵を攻撃し始めたらしい。
「始まりましたね。」
「逃げて来た敵はここで仕留めればいい。」
「は!」
ギレザムに伝える。
南に出した斥候からの報告では、日本人魔法使いを含む部隊は追って来てはいないようだった。
「ここまでで車両の燃料は3分の1か、聖都までは届かんだろうしここに拠点を作ってもいいだろう。」
「分かりました。」
「北の街道の兵站線はこれできっちり繋がった、西のラインと北のラインは既に魔人国が抑えた形になる。」
俺とギレザムが話をしているところに、ミノスとラーズがモーリス先生を連れてやってきた。
「えーっとラウルじゃよな?」
「はい先生。」
「こ汚い髭のおっさんを、ラウルだと思いたくない心理が強いわい。」
「ははは、申し訳ありません。もうちょっと見栄えのいい奴にすればよかったですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ!そりゃわがままというやつじゃな。まあよい、わしが慣れてしまえば済むことじゃしの。」
「苦労かけます。」
「それで、これからどうするつもりじゃ?」
「はい先生。デモン及びドラゴンも討伐し、日本人召喚者は3人がこちらの手中にあります。脅威があるとすればカースドラゴンやそれに準ずるような敵ですが、こんな何の重要要素も無い場所に敵は戦力を注がないでしょう。よってここに第二の前線基地を構築いたします。」
「なるほどのう。西の戦線は押さえ、これで北の線も完全に掌握じゃな。」
「はい、ドラゴンや翼竜などの飛翔する魔獣で、再びグラドラムへと侵攻されても厄介ですからね。ここで見張る事にいたしましょう。それに南は今の所問題ないようですし。」
「そうですね。」
ミノスが話す。
「我々が南の二カルスに沿って東に進んだ限りでは、ほとんどの村が魔獣に襲われて壊滅しておりました。二カルス大森林の自然が勝手に防衛線を築いてくれております。」
「だな。となればあとは東のリュート王国との国境か。」
「ふむ。リュートがどうなっているか分からない今、そこまで手を伸ばさずともよいのではないかの。」
モーリス先生が言う。
「はい。救い出したリュートの王子と姫を連れて行きたいとは思っておりますが、今はまだ落ち着いておりませんので保留と言う事になりますね。」
「急いては事を仕損ずるじゃろう。まずは致し方ないのではなかろうか。」
「はい。」
「いずれにせよ、これでファートリア神聖国の包囲網は完成じゃの。ラウルの目論見通りかの?」
「まあ…ほぼ。ですがファートリア国内の数か所には、デモンに侵略されてしまった都市があります。そこはまだ解放していません。」
「デモンならラウルの銃火器でどうにかなるじゃろ?」
「警戒しているのはカースドラゴンです。」
「それを呼ぶ力を持ったデモンを警戒ということじゃな。」
「そう言う事です。」
「ふむ。あの光の柱も気になる所じゃしのう。」
「やはり先生に何か心当たりはございませんか。」
「残念ながらわしが生きて来たうちにあれを見たことがないのじゃ。」
「そうですか。」
どうやら、あの死体を苗床にした天まで届く光の柱をモーリス先生ですら見たことが無いらしい。
そんな話をしている時だった。
《ラウル様!》
少し慌てたようなドランの声が念話で響き渡る。
《どうしたドラン!何かあったか!》
《例の光の柱です!》
噂をすれば影だな。
《どこに?》
《人間の兵達を殲滅したところに、一気に光の柱が立ちました。》
《なんだって!》
俺が驚いた表情をしていると、モーリス先生が気が付く。
「何かあったのかの?」
「ええ、先生。敵を討ち果たしたところ、あの光の柱が多数立ち上ったそうです。」
「なんと。ということは…敵の進軍は罠かの?」
「可能性はあります。」
「いったい何のための柱じゃろ。」
「皆目見当がつきません。」
「ふむ。」
西部ラインに送られて来た騎士たちの死体からも生えていた光の柱。それがここに送られた騎士たちから立ち上ったとしてもおかしくはない。
昨日の戦いで、日本人と騎士たちを討ち果たしても光の柱は立ち上らなかった為、俺は少し油断をしてしまっていたらしい。
「油断しました。」
「じゃが仕方のない事であろうよ。」
「はい。」
「とにかく光の柱には迂闊に近寄らぬ方が良いじゃろうな。」
「はい。」
すぐにドランに念話を繋げる。
《ドラン!とにかく光の柱には近寄るな。逃げた敵は?》
《おりません。》
《全滅と言う事か?》
《はい。》
《光の柱の数は?》
《申し訳ございません。数千…としか言いようがございません。》
《わかった。そこから村まで下がり拠点の構築を、こちらには魔人兵をおくらなくてもいい。そのかわり光の柱を迂回するように森を伐採する必要がある。迂回路を作ってくれ。》
《かしこまりました。》
兵站線はどうやら光の柱で区切られてしまったらしい。迂回路が出来るまでは不用意に近づかない方が良いだろう。
「本来は西の部隊と合流して、ここに基地を設立し、主力の魔人を聖都に送るつもりだったのですが、そうもいかなくなってしまったようです。」
「そうか…。まったく不気味じゃの…あの光の柱は。」
「はい。」
更に…ここから西へ先生を帰還させるための部隊を編成しようとしたが、数千の光の柱が立つ場所へ先生を近づけさせるわけにはいかない。あと分断されてしまった以上、ここには強力な魔人を残す必要があった。
「ギル!ゴーグ!ミノス!アナミス!ルピア!ラーズ!」
俺は6人の主力メンバーを呼んだ。
皆が俺の前に集まって来る。
「お前たちはここに前線基地を作る任務を命ずる。モーリス先生の護衛には引き続きラーズが、更にゴーグも一緒に護衛につけ。」
「「はい!」」
「アナミスは日本人のコントロールを専任する必要がある。」
「はい。」
魔人達に指示を出していると、ホウジョウマコに操られていた5人のうちの一人の男がやってくる。
「あのう…。」
「なんです?」
「実は私の村がこのそばなんです。」
「なるほど、それでは魔人に護衛をさせて送り届けさせましょう。」
「いや…。」
「どうしました?」
「俺はあんたらに助けられた。村の連中には俺から話すから何か助けられることは無いか?」
えっと、助けられる事とか言っても田舎の村人じゃん。なんの助けにもならないって。
「はあ、それではお気持ちだけいただいておきます。とにかく辛い思いをされたのですから、そのままお戻りいただいて村で安全にすごされてはいかかでしょう。」
「いや!そう言うわけにはいかねえ。どうせあのままいたら俺らは使い捨てにされて殺されていただろう。」
「いやそうかもしれませんが、まあ。ついでだったんで。」
「ついででもなんでも、俺達は救われた。その事実は変わらねえ。」
「うーん。じゃあ国を取り返したら、うちに農産物でも卸してもらえますか。」
「ま、まあそんなことでいいのなら。でもそれだけじゃあ恩返しにならねえ。」
困ったな…どうしようかな。
「じゃあここに俺達が拠点を作るから、ここの拠点づくりに協力してもらえたらいいですね。」
「そうか!それならみんなを説得してみる。」
「まあ無理とはいわない。そして働いてもらったら見返りに魔獣の素材を提供します。」
「え!魔獣の?」
「ええ、肉とか毛皮とか。魔石や骨はこちらの拠点づくりにもらいますが、魔人達で食べる分を引いて提供します。」
「本当かい!なら絶対に村人を説得しなきゃならねえ。」
「あとは…」
俺はチラリと魔人達を見る。角が生えたオーガや牙の生えたオーク、毛むくじゃらのライカンがいる。
「ファートリア神聖国の人には無理なんじゃないかな?」
「そんなの関係ねえ。命の恩人は恩人だ、俺が何としても説得してみる。」
「わかりました。そこまで言うのなら何も言いません、ですが魔人達に差別的な事をするようならこの話は無しです。」
「もちろんだ!そんなことはさせない。」
「ルピア!オーガ2人とオークを2人連れて、この人を村まで送り届けてくれるか?」
「かしこまりました。」
天使のような可愛らしい容姿のルピアが来ると、男は照れたような表情になる。人間離れした美しさにやられてしまったようだ。もちろんルピアには男に対して何の感情も無い。
男は早速ルピアと一般兵の魔人4人を連れて出て行った。魔人達はウージ―サブマシンガンで武装させている。
「先生。」
「なんじゃ?」
「ファートリアの人はオーガとかオークを見てどう思うんでしょうね?」
「恐らくじゃが、獣人だと思うて下にみるじゃろうな。」
「ですよね。まああとは魔人達がどう思うかですが、少しでも魔人が嫌な思いをするなら村人達との交流はやめさせます。」
「ふむ。それでよかろう。わしも獣人たちを無下にするような奴らは好かん。」
「こちらが一寸も気を遣う気はないのです。」
「そうじゃな。魔人達に嫌な性格の者は一人もおらん。真面目で真摯に接してくる者ばかりじゃ。そして何よりわしにうんと優しくしてくれるのじゃな。こちらが気を遣う要素なぞ一寸もないじゃろ。」
モーリス先生がニッコリとゴーグを見た。
「だって恩師様、いろんなこと教えてくれるから面白いんだもん。」
ゴーグが言う。
「そうですな。我々もとても勉強になる事ばかりです。」
ラーズもなぜか誇らしげに言う。
やたらとゴーグとラーズがモーリス先生を絶賛している。
「おぬしたちが素直じゃからよ。わしの知識なぞ全てくれてやっても惜しくはない。ラウルは忙しいからのう、なかなかじっくり話をする機会も無いしのう。代わりにわしの話し相手になってくれるだけでもありがたいのじゃ。」
「我々は恩師様に深い歴史を学びました。これまでの旅路の中で魔人達もかなり成長したのです。」
ギレザムが言う。
そう言えば、ラーズもゴーグもギレザムも結構モーリス先生と行動を共にしてたな。やっぱりこの人の素晴らしさが魔人にもわかるらしい。
「モーリス先生は本当に凄い人です。」
俺がしみじみ言うと魔人達がうんうんと頷いている。
「大した事ありゃせん。ただ人より長く学びを得る機会があっただけよ。まあわしの趣味みたいなもんじゃな、ラウルのおかげで今もこうしていろんな学びの旅に連れ出してもろうとるしのう。」
「いえ先生。助けられているのはいつも私たちの方です。」
「まあ、もちつもたれつじゃな!」
「ですね。」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
先生のいつもの笑い声を聞くだけでみんなが安心するのが分かる。本当に不思議な人だった、この人に師事する冒険者がたくさんいるのが分かる。
《グラム父さんも恩師と呼んでいたしな…。》
目の前で魔人の部下達と談笑している先生を見て、とにかく心が満たされていくのだった。
とにもかくにも北部ラインは確保できたと言っていいだろう。
…光柱だけが不安要素となった。
次話:第455話 光柱の特異な性質
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