第445話 搦め手でいってみよう
地面から生えてくる土の槍はかなりの脅威だった。あらかじめ仕掛けてあった物なのか、敵が目視で確認した場所に自由に出せる物なのかもわからない。距離をとっている今は攻撃をしてこないところを見ると、遠方には届かないのかもしれない。とにかくいかに魔人と言えどアレを喰らったらただでは済まない。
《とすればあれは目視で確認した場所に出せる魔法ということか?》
あと石弾に関しては頭に直撃を受けなければ、魔人ならエリクサーかポーションで対応できる。しかし持久戦になってしまえば、手持ちの回復薬だけでは足りないかもしれなかった。
《アナミス。あの石槍の攻撃の前に、敵の騎士を調達しておいてよかったな。》
アナミスとゴーグが連れて来たやつらは、ホウジョウマコのスキルを使用してこちらの兵隊にしてしまった。一般の村人たちであれほどの体術とコンビネーションで戦えるなら、騎士たちを強化すればどうなるのか。
《そうですね。ただホウジョウマコを手中に収めているからといって、魔法使い以外が攻撃してくる可能性もあるかと思われます。》
《ああアナミス。敵はあまり合意が取れていないようだからな、次に見つかったら剣士か剣闘士が仕掛けてくるかもしれん。》
《剣士か剣闘士なら我やミノスが対応できそうですが。》
《ああギレザム。お前達なら余裕だと思うが、今までの敵とは根本が違うからな。とくに気になっているのは透明なドラゴンが未だに出てきていないと言う事だ。デモンの存在も確認できていない。あいつら日本人にそれらが加わると厄介だ。》
《打つ手は限られていますね。》
《そう言う事だ。》
俺達は敵の危険な石槍魔法攻撃を前に撤退を余儀なくされた。さらに敵が他の罠を用意しているかも分からない為、こちらも打つ手がかなり限られている。しかしながらあまり時間が無いのも事実だった。
《ご主人様。》
《なんだ?》
《私奴は最後の手榴弾の攻撃で手ごたえが無かったことが気になります。》
《確かにな。確実に至近距離で爆発したと思うんだけどな。》
《はい。》
シャーミリアの言うとおりだ。泥棒髭と河童が最後に投げた手榴弾に対して、敵に被害が出なかったように思える。あれが何を意味するものなのか?もしかすると土壁の遮蔽物などで守られたのか?木の陰になって状況を確認できなかった為、次の攻撃がどこまで通用するのかも分からなかった。
《ここに魔法に詳しい者がいればな。》
《恩師様ですか?》
《ああ、モーリス先生なら申し分ない。》
俺が次の行動に移るために試行錯誤しているが、敵の情報が少なすぎて対応が出来ない。俺本人がここにいるのであれば、榴弾砲などの大砲を召喚して連結LV3でガンガンやるところだ。しかし俺やシャーミリアがいま聖都を離れるわけにはいかないので、ここにいる兵だけで何とか打開しなければならなかった。
《とにかく石弾と石槍を回避して敵の死角からの攻撃を仕掛けねばならないか。》
《鏡面薬を使いますか?》
巨大狼ゴーグが言う。
《いやゴーグ、乱戦になれば同士討ちになるかもしれない。あれは銃火器ではなく白兵戦の時じゃないと使えないんじゃないかな。》
《…そうですね。》
《確かに。我とゴーグ、ミノス、アナミス、ルピアに限って言えば魔人の同士討ちはあり得ませんが、1次進化に満たない者達ではそこまでは無理ですね。》
《だよな。》
じゃあ…せっかく調達したばかりの、ホウジョウマコの私兵たちを使ってみるとしようかね。アナミスが覚醒させない限り、俺達を味方だと思い続けるだろうし、下手をすると相手も騎士が裏切るなんて思わないだろう。
《よし。アナミス!ホウジョウマコを起こし洗脳騎士たちを敵陣に戻させ、日本人の魔法使いを討ち取らせるように指示を出させろ。》
《はい!》
アナミスがホウジョウマコを再び起こして騎士たちの人心掌握をしたうえで、更に細かい指示を出している。洗脳されている人がさらに洗脳をしているというシュールな絵面だ。
《そしてシャーミリア!俺達が拳闘士の相手をしよう。最悪は囮になって敵をひきつける。》
《かしこまりました。》
《ギルは部隊の指揮を執り敵に波状攻撃をかけろ。危険を察知したら撤退をくりかえせ。》
《は!》
《アナミスとゴーグはホウジョウマコを盾にしつつ、敵を一人づつさらって後退し眠らせてをくりかえしてくれ。なるべく洗脳要員を補充できるように頼む。危険を感じたらすぐにやめて後方に戻ってくれ。》
《はい!》
《わかりましたー!》
《ミノスとルピアは攻撃を仕掛けつつ、剣士を警戒していてくれ。剣士が拳闘士と離れて一人になった時に仕留めてもらいたい。》
《命令とあらば。》
《もちろんです。》
《くれぐれも無理は禁物だ。》
《《は!》》
アナミスが再びホウジョウマコを眠らせた。騎士たちには既に詳細な戦闘指示をだした後らしい。
《では!次の作戦に移る!》
《《《《《は!》》》》》
《ラウル様、敵にも動きがあるようです。こちらに進軍しつつあります。》
《わかったギレザム。地面から出て来る土の槍に気を付けてくれ!》
《《《《《は!》》》》》
俺の指示と共に再び部隊が散開していく。
日本人はデモンのように強大な力と物量で押しまくるスタイルではないようだが、知恵を使って戦術にバリエーションがある分対応が難しかった。デモンなら既に撤退していた。後方からこちらに向かっているラーズの部隊に合流して力で応酬したところだ。だが今は時間が欲しい。
《じゃあシャーミリア、敵の拳闘士をさがすとしよう。》
《は!》
しばらく進むと敵の気配が強まったようでシャーミリアが念話で伝えて来た。
《来たか。》
《はい。》
《相変わらず木に隠れて移動しているようだな。》
《そのようです。》
パラララララ
パラララララ
森のサイドから自動小銃の音が聞こえて来た。ギレザムの部隊が攻撃を開始したらしい、しかしすぐに銃声は止んで魔人が森の中に逃げて行く気配がする。恐らくまた土の槍が生えてきたんだろう。指示通りに動いてくれているようだ。
《行くぞ》
《は!》
敵には今の攻撃と撤退で少しの隙ができたようだった。その一瞬のスキを突いて俺とシャーミリアが敵の懐に飛び込んでみる事にする。すると先ほど戦闘があったと思われた部分にまた土の槍が生えていた。先ほどと違うのは敵兵が犠牲になっていない事だった。
《敵もこちらと似たような事をしているな。》
《はい。敵襲と共に兵を引いて魔法を行使したようです。》
《ギルの隊がすぐに引いたのはそのためか。》
泥棒髭と河童は、敵の目と鼻の先の木に隠れていた。既に敵に気が付かれているとは思うが、こいつらはどこを撃ち抜かれても即死する事はない。既に死んでるし。
さてと…
《ラウル様。》
撤退したギレザムから念話が入る。
《どうしたギル!》
《今、完全に確認はできませんでしたが、銃火器の攻撃が効かないかもしれません。》
《敵兵にか?》
《はい。》
《やはりな。俺達の手榴弾も効かなかったんだ。となると銃火器での攻撃は連結LV3に上げないと無理かもしれんな…》
《いかがなさいましょう?》
《うーん、聖都の攻撃を目前に控えているし、魔力消費の激しい連結LV3を今使うわけにはいかない。》
《一度引きますか?》
《ちょっとまて。》
《は!》
敵は何らかの方法で俺達の攻撃を防いでいるらしい。もしかしたらこの世界の魔法士が使うより強力な結界が作れるとか?それ以外に何か方法があるのか?
《ミノス!ルピア!一旦敵の剣士を探すのをやめて、戦闘区域から離脱しろ!》
《《は!》》
俺はミノスとルピアも下がらせて思考する。
《5人の騎士はまだ日本人の魔法使いの所にたどり着かないのかな?》
《もうしわけございません。敵と全く同じ気配なので読むことができません。》
シャーミリアが答える。
ホウジョウマコなら分かるんだろうか?
《アナミス。》
《はい。》
《今はどこに?》
《敵部隊の側面から攫える人間を見繕っておりました。》
《お前たちも戦闘区域を離脱してくれ。》
《かしこまりました。》
とりあえず俺とシャーミリアのハイグール以外は戦闘区域から離脱させた。完全に囮になる事を選んでみる。
しばらくすると敵の部隊が再び押しあがって来た。俺達だけを残して部隊が下がってしまったので、様子を見に来たのかもしれない。
すると…
「おいおい!おまえらゾンビは見捨てられたんじゃねえのか?」
日本人の馬鹿にするような声が聞こえた。
リョウジと呼ばれていた拳闘士のようだ。
「やっぱゾンビの仲間ってキモいしな。」
今度は少し離れた所からハルトと呼ばれた日本人剣士が現れる。
「ハルト!リョウジ!不用意に近づくな!」
奥からキリヤとかいう日本人魔法使いの声が聞こえる。
「お前が攻撃軽減のスキルを使ってくれたんだから大丈夫だろ?」
「はは、違いない。」
「それだって万能とは限らない!」
「さっき敵の攻撃を防いだじゃねえか?」
「それはそうだが。」
「しかし敵のあれは何だ?布にくるまった棒みたいなのを、銃のように構えていたみたいだが?」
「ゾンビさーん、教えてくれよー。」
ハルトとリョウジが舐めた口をきいて来る。
「やはり大神官が言うのが正しかったんじゃないのか?」
キリヤが言う。
「悪魔が銃を使うってやつか…。」
「この世界はどうなっていやがるんだ?なんでRPG序盤のザコキャラが銃なんてもってんだよ。」
「そんなこと俺に聞かれても分からん、捕えて拷問すれば答えてくれるんじゃないの? 」
「はあ?相手はゾンビだぞ?」
「まあ無理か…。」
「無理だろ。」
なるほどなるほど。
どうやら俺の予想通り敵の大神官とやらは、俺の現代兵器を見たってわけだ。しかもどうやらそれが”銃”だと言う事も分かっているらしい。とすればおのずと敵のボスの素性もなんとなくわかってきそうだが。
とりあえず喋っている隙をついて…
コロコロコロ
敵の足元に手榴弾を放ってみる。
「こ!」
剣士のハルトが気が付くより早く手榴弾が破裂する。
バン!
「あぶねえな!」
「やっぱ魔法じゃねえぞ!」
ハルトとリョウジが叫ぶ。
しかし‥‥
その瞬間に俺が見たものは、何らかのベールに包まれたハルトとリョウジ、そして騎士たちの姿だった。見えない何かで手榴弾の破裂を防いでいた。
なるほど。見た感じは結界のようだ。
《ギル、位置についているか?》
《合図をお待ちしておりました。》
《全部隊で撃ち込んでくれ。》
パララララララララ
パララララララララ
パララララララララ
「うお!」
「キリヤ!これ大丈夫なんだよな!」
「防げてるがいつまで持つか分からない!少し引いてくれ。」
「わーったよ。」
「つかえねーなー!」
ぼやきながら相手が下がるのを見計らって、俺とシャーミリアのハイグール2体が後方に全力ダッシュする。すると逆にそれを見計らったようにあの石弾が飛んで来て俺の喉元を貫いた。
もちろん何事もなかったように突っ走る。
それに合わせて再び魔人軍が奥へと全力で撤退し始めた。
だが今回の撤退は意図してやったものだ、さっきまでとは全く違う情報を入手する事が出来た。そして一番大きかったものは…
キリヤと呼ばれる魔法使いのかなり後方に、ホウジョウマコ親衛隊が立っているのが見えたのだった。泥棒髭と河童に気を取られているうちに、知らんぷりして敵の中に潜り込んだようだ。
さてと、首尾は上々ってところだな。
これからこれから。
次話:第446話 拠点攻略作戦失敗
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