第438話 黒髪の女と護衛人
最後のゴーレム2体を破壊されてしまった後、敵をやりすごした俺たちが操る泥棒髭と河童は、ギレザム隊と合流するべく森を西へ進む。
ふと隣の河童をみてみると頭陀袋を背負ってガラの悪いサンタのようだ。まあこっちの泥棒髭も同じように見えているだろうけど。とにかくさっきより多少速度が上がってきた。傷んだ泥棒髭を操っているうちに、俺の魔力で回復したらしく身体能力が上がったようだ。
《ギル!》
《は!》
《場所は?》
《洞窟を降りて東に30キロと言ったところです。》
《まもなく俺たちと接触するだろう。目印は泥棒髭と禿げだ。》
《かしこまりました。》
ギレザムの先行部隊は近くまで来ているらしい。この2体の出来損ないのハイグールはこの後、ギレザムの隊に任せるとしよう。
《ご主人様!何か近づいて来ます!》
《さっきの3人組か?》
《いえ、北東からです。人間の気配で6人。》
《隠れよう。》
《はい。》
俺たちが操るハイグールは一気に木の上に駆け登った。息を潜めていると森の奥から人間がやって来る。
「あー、疲れたあ!」
集団のうち1人が女で5人が男だ。その女がひとり愚痴を吐いていた。しかし男たちはそれに答える事はしなかった。ただ黙々と女について歩いている。
《ご主人様。黒髪の女です。》
《ああ、こんなところにいたのか。おそらくガザムの言ってた奴だろうな。》
この世界では黒髪は珍しく、シン国にはいたが北の大陸で見かける事は無い。
《そのようですが、お供の男達が支配下にあるようです。》
《支配下?》
《私奴の眷属化ともアナミスの洗脳とも違うようです。》
《なんだろう?》
《わかりませんが、男達には強化も施されております。》
5人の男達の見た目は、騎士では無い一般市民の様な出立ちだ。鎧をつけているわけでもなく、ユークリットに集まった冒険者の様なオーラもない。それぞれに不揃いの剣を持っているが、こんな森の奥を突破してこれるような雰囲気ではなかった。
《強化の種類は分かるか?》
《申しわけありません。見たことがございません。》
シャーミリアが見たこと無いとなれば、既存の術の類いではないかも知れなかった。不用意に手を出しても良いものだろうか悩む。
《捕獲してみるか。》
俺はそいつらの不意をついて女を捕まえる事にした。こっちはハイグール2体、女を攫ってギレザムの隊に合流出来ればどうにかなりそうだが…。
《では挟み込みましょう。》
《だな。》
その集団が少しづつ近づいてくる。木の真下に差し掛かったところで、俺たちの2体のハイグールは音もなく木の枝から降下していく。
ガシ
「きゃあ!」
女が叫ぶがお構いなしに頭陀袋を持っていない方の腕で抱きしめた。
「ゔごぐな!このおんなが、えっ?」
剣を持った男達が女に構わずに斬りつけてきた。
《あぶな!》
女を抱いたまま咄嗟によけるが、肩を少し斬られてしまった。まあそのくらいではハイグールはびくともしない!と思っていたらいつのまにか背中に回っていた男が背中を剣でついてくる。
「ごら!女がしっ」
俺が言い終わる前に右斜めからまた突きが入ってきた。
ガギン
その剣をシャーミリア河童が頭陀袋を振り回して叩き落とす。しかし今度は河童に対して斬りつけて来た。強い攻撃では無いのだが絶妙なコンビネーションに翻弄される。
「逃げっ」
スパッ
鋭い剣の攻撃を慌ててスウェイでかわすが、顎髭を斬られてしまった。
おい!自慢の顎髭を斬りやがったな!
なんて盗賊のころのコイツなら言ったかもしれないな。
男たちは泥棒髭と河童の逃げ道を塞ぐように回って、女を奪われないようにしていた。どこをどう見ても鍛えていない市民風の人間だが、バルギウスの小隊長並みの動きをしているようだ。
《殺しますか?》
《いや、たぶんこの男達は敵じゃない。》
《では、私が押さえますので突破を》
《分かった!》
シャーミリア河童が捨て身で男達を制圧し始めた。その隙に泥棒髭の俺が男達を突破する。
「は、離せえ!臭い、キモい!」
肩に担いだ黒髪の女が喚いて腕に爪を立ててくるが、痛くも痒くも無い。その腕、俺のじゃ無いし。
ゴウと風切音を立てて西へと走る。
《ギル!黒髪の女を捕獲した。まもなく合流するぞ!》
《かしこまりました。》
それから猛スピードで走る事10分、ようやくギレザム達の隊が見えてきた。ゴーグ、ミノス、アナミス、ルピアと、精鋭の魔人達も勢揃いしていた。
「ギル!」
シワガレ声で話しかける。
「ラウル様!」
みんなが頭を下げた。
「えっえっ!イケメンじゃん!」
黒髪の女がギレザムを見て言った。
ドサ
「痛ったぁ…」
黒髪の女を下ろすと尻をさすりながら呻いた。しかしながらこの状況で危機感を抱いていないように見えるのは気のせいだろうか?あまりにも恐ろしくて状況が分かっていないのか?
「おまえ、なんで森に居た?」
女に聞く。
「なんか聞き取りづらいんだけど。」
泥棒髭の声がしゃがれすぎて良く聞こえないらしい。もう一度ゆっくりとした声でしゃべる。
「なんでこんなところにいる?」
「なんでって、帰るところにきまってんじゃないの。」
「どこにだ?」
「はあ?なんで見知らぬおっさんに答える必要があるのかなぁ?」
すると黒髪の女が立ち上がって俺の目を見つめてくる。正しくは俺が操る泥棒髭の目をだが。
「あんたがボス?」
「先にこちらの問いに答えろ。」
「ううん、そっちが先。だってだんだん私の質問に答えたくなってきたでしょう?」
いや、全然。
「とにかく、答えろ。」
「あれ‥‥。」
「なんだ?」
「あんたがボスなのか、聞いてるんだけど。」
「そうだと言ったら?」
「ふふっ、じゃあそこのカッコイイお兄さん。なんかこの髭を殺したくなってきたんじゃなぁい?」
黒髪の女がギレザムに甘ったるい声で声をかけた。
「いや。なぜだ?」
「ん?あれ?そ、そこの‥そこのボウヤ!この髭ヅラをぶっ殺したいでしょぉ?」
ジーっとゴーグの目を見つめて、優しく誘うように話しかけているがその内容は物騒だ。
「なんで?」
「えっ!殺したいよね?ね?」
「なんか嫌い。おまえ。」
女がギレザムに続いてゴーグにも拒否される。そりゃそうだいきなり仲間を殺せとか言われたって、嫌悪感を抱くに決まっている。
「あ、あの!そこの!デカくておっかないおっさん!コイツらを蹴散らしたいでしょぉ!見てるとムカついてくるでしょぉ?」
「いや、お前はさっきから何を言っておるのだ?」
世紀末の拳法家の王様みたいなおっさんにもささやくように言うが、ミノスには何のことか分からないようだ。とにかく女が慌てているのが伝わってくる。
すると黒髪の女の顔がみるみる青くなってきた。
「おい。」
俺が操る泥棒髭が女の肩に手を当てると、極端にガタガタと震えていた。
「たすっ!」
トン
ギレザムが黒髪の女の意識を刈り取った。
「あっ。」
「すみません。叫ばれそうだったのでつい。」
「いや…いいんだ。面倒なことにならなくて良かった。」
とりあえず黒髪の女の手足を縛りあげて、猿轡をくわえさせる。
「よし!」
「ラウル様。この者は何故あんなに落ち着いていたのでしょうね?」
「うーん。分からないんだけど、何か仕掛けて来たみたいな気はする。」
寝かせた女を見つめながら皆で考える。
「ラウル様。恐らくは精神を操ろうとしていたようですが。」
アナミスが言う。
「そうなのか?」
「恐らくは…その力はあまり強くないようですが。」
「アナミスがやるような奴か?」
「いいえ、全く違うようです。」
「そうか。」
やっぱりこの女は俺達に何かを仕掛けようとしていたようだ。しかし女の思惑通りにならずに恐怖におびえてしまったらしい。
「とにかくこの先で、シャーミリアが操るハイグールが人間達と戦っているんだ。救出をおねがいしたい。」
「はい!」
ゴーグがさっそうと走り去っていった。俺達はゴーグの後を追うように進み、黒髪の女はギレザムが肩に担いで持っていくことにした。先ほど俺と人間達が戦っていたところに着くと、すでにゴーグがすべての人間を制圧していた。人間達は死んではいないが意識を刈り取られてしまったらしい。
「うわ、シャーミリア!」
河童が破損してしまったようだった。腕が取れて隻腕になってしまっていた、更に片目が潰されザンバラの河童頭と相まって落ち武者のようになっている。
「申し訳ございません。ご主人様。」
「いや、なんかだいぶ傷んでいたしな、養分も与えていないからしかたないさ。」
「再び補強するには人間が必要です。」
「とりあえず仕方ないそれは後で考えよう。」
「してこの者たちは。」
「ここに倒れてる人たちはたぶん普通の人間だった人だよ。この中の誰かはガザムが聞いた女の人の旦那さんかもしれない。」
「やはり支配系の何かが?」
シャーミリアがアナミスに聞く。
「ええ、間違いないと思うわ。私達には一切効果はなかったけど。」
「そう…。」
「アナミス。」
「はい。」
「彼らを目覚めさせられるか?もちろん支配も全てだ。」
「問題ございません。」
そしてアナミスが男たちに近づいて行く。すると赤紫の霧のような物が現れ、彼らの耳元で何かをささやいていた。
「ん?」
「あれ?」
「ここは?」
「なんだ?」
「いててて。」
5人の男たちはおもむろに目を覚まして、周りを見渡している。
「あっなんだ?」
「あなた方は?」
「おれはどうしてこんなところに?」
「森?」
「どういうことだ。」
立ち上がって騒ぎ始めた。恐らく記憶がおかしくなっているのかもしれない。もしかしたら黒髪の女に何かされてからの記憶が無いのかもしれなかった。
「おちづいてぐだざい。」
物凄いしゃがれ声の顔色の悪い髭の盗賊に言われ、男たちは凍り付く。どう考えても普通じゃないから仕方がない。
「いったいここは?あなた達は?」
《ギル。俺じゃ怖がってダメだ。》
《はい。》
とりあえず俺は尋問をギレザムにバトンタッチした。
「あなた達はどうやら魔法によって操られていたようなのです。」
ギレザムが冷静に言う。
「魔法で…」
するとギレザムが肩に背負って気を失っている女を見つける。
「あ、その女は村に来た…そして…なんだったか?」
「この者の魔法によって操られて連れて来られたようです。」
「こんな森の中に?」
「はい。」
《ギル。5人の関係性を聞いてくれ。》
「あなた方は何かの団体ですか?」
「いえ。誰も知りません。」
「俺も。」
「自分も。」
「私も。」
「知らねえやつらだ。」
どうやら5人とも全く面識が無いらしい。全く面識が無いのに、河童をズタズタに出来るほどのコンビネーション攻撃が出来たのか?それはそれで凄いがそれもこの女の力なのかもしれない。
「とにかくあなた方は村に戻らねばなりませんね。」
「ここはどこなんです?」
「ファートリア国の中心部に近い森です。」
「はぇ?俺達はそんな遠くまで来たってのか?」
「どうやらそのようです。」
5人とも狐につままれたような顔になって呆けている。
そりゃそうだ。知らない間に深い森の中で訳の分からない集団に囲まれているのだ。突然の事に我を失ってしまっても仕方がない。
《ラウル様どうします?》
《うーん。敵に引き渡したら殺されるか生贄にされるか、きっとろくなことにならないよな。》
《かと思われます。》
《ラーズの車両部隊が来たら身柄を引き渡して、魔人が手分けして村に送り届けるしかないだろうな。》
《ではそれまで行動を共にするしかないですね。》
《気の毒だが仕方がない。》
《はい。》
「じゃあ、アナミス。作戦前にこいつに尋問するかね。」
俺が黒髪の女を見る。
「かしこまりました。」
ギレザムが女を地面に降ろして、アナミスが耳元で何かをささやくのだった。
次話:第439話 異世界人召喚
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