第414話 送られた調査隊の謎
ファートリア最南端のゴーグがいる拠点では、敵に対しアナミスの幻覚で軍の主力がいるよう見せかけている。それに連動し各拠点へ兵員及び兵器の配備を行って、あとは敵の動きを待つだけだった。
先行してファートリアの内地に潜入していた俺達は、次の村への接触を行わず森に拠点を設営して様子を見ていた。
「敵さんはどう動きますかね?」
グレースは虹色の髪の毛の少女に見えるが、精神はれっきとしたおっさんだ。
「わざわざ偵察隊を送ってよこしたんだ、何らかの反応はあるはずだよな。」
「ですよね。」
「で、ラウル。いつまで待つ?」
オージェは相変わらず世紀末の武術の達人のような雰囲気で、長髪と髭を伸ばしイ○ス様のようにも見える。水の上を歩きそうな勢いだ。間違いなく悟りを開いている。
その神様2人に聞かれて俺が答える。
「俺達の行動ってことか。」
「ああ。」
「3日待ってみる。敵が軍勢を送るにしてもそれくらいはかかるだろ。」
「なるほどな。」
敵の偵察隊には幻覚を見せつつ村に足止めをしているが、そのブラフに敵が乗れば必ず動くはずだった。既にファートリア南端の拠点からも内地に調査部隊を送ったので、敵が動けば連絡が来る手はずになっている。
「もし動きが何も無かった場合どうするんです?」
「敵がこちらの動きにまったく気づく気配がないのなら、そこの村に接触してまた情報を探ってみる。敵が軍隊を動かすなら、俺達は村々はスルーして一気に聖都へと向かう。」
「それ危なくないですか?」
「確かにグレースの言う通りだけど、首都の状況を見れば次の動きが見えて来るだろ。もし危険そうなら、そのままリュート王国側まで抜けようと考えている。」
「ラウル。とするとピンポイントで狙うのか?」
オージェが俺の考えに気が付いたようだ。
「そういう事だな。」
「その前に何もなかったとして、村を調査してもなにも出なかったら?」
「村からは情報が出ない確率のほうが高いだろうね。それなら西部ラインを上げてみる。」
「それならさすがに敵は動くでしょうね。」
「ああグレース。とにかくこちらから動かなければ敵が動かないなら動くしかない。それで聖都が手薄になってくれれば俺達が裏から探り、大神官とやらの居場所を突き止め願わくば暗殺したいが、逆に守りを固めるようなら俺は首都に空爆を試みるつもりだ。それと同時に大規模侵攻を開始する。」
「空爆?首都の民はどうするつもりだ?」
オージェは眉間にしわを寄せて怪訝そうに言う。
「俺の予測では既にデモンに殲滅されているんじゃないかと考えてる。デモンが群をなしていれば無条件で攻撃するし、一般市民がいたとしても大神官の存在が確認できた段階で爆撃する。」
「そうか。」
「オージェは反対か?」
「いや、これは戦争だからな。一般市民の被害をゼロにするなんて事は無理だろうさ。」
やはりオージェは人道主義者だからな、無実の人間が死ぬ事を簡単によしとしないか。
「俺とグレースが見たカオスドラゴンや、それ以上の脅威が潜んでいる可能性がある。この人数で首都に直接攻撃をかけるのはさすがに危険すぎるんだよ。もともと調査目的だからな。」
「やるとすればなんだ?」
「サーモバリックとクラスターでの爆撃だ。それも俺とシャーミリアだけでやる、ヒットアンドアウェイだな。」
「そうか…。なら一般人がいればひとたまりもないな。」
「まあなるべく一般市民に被害が出ないようにはするつもりだがな。オージェは望まないかもしれないが、俺達の勢力に被害が出るのは避けたいんだ。」
「わかっている。」
俺だってやらなくていいのならそんなことはしない。だがこれまでデモンと戦闘した経緯を踏まえると、手を抜いていい相手じゃないのは確かだ。
俺たちは敵がどう動くのかじっくり観察するため森に拠点を作り腰を据える。しかし、連絡は3日を待たずに別のところから来たのだった。
《ラウル様》
俺たちが様子見をしようと拠点を作った日の夕方、念話をつないできたのはギレザムだった。
《どうした?ギル。》
《南と同じようにここにも敵調査隊が来ました。》
《敵部隊の規模は?》
《魔獣を含めた人間の騎士が30です。》
《そいつらはどうした?》
《部隊を差し向け捕縛し収容所へ》
《わかった連絡をまて。》
《はい。》
中央の拠点にも調査隊が来た?敵は中央の村も確認しに来たってのか?と言う事は軍は動かさないとみていいのかな?
「みんな…。」
俺がそのことを皆に話そうとして、全員がこちらを振り向いた時だった。
《ラウル様。》
ガザムからの念話がはいる。
「あ、ちょっと待って。」
皆が俺を見たまま止まる。
《どうした?》
《敵調査隊を捕虜しました。》
《そっちでもか?》
《は、先程のギルとの念話を我も傍受しておりましたが同じ状況です、魔獣を含めた騎士の数は30、これは何らかの罠ではないでしょうか?》
《それもあり得るな、連絡を待て。》
《は!》
ガザムの言う通りかも知れない。だが何のために?
俺は直ぐにアナミスに念話を繋ぐ。
《アナミス。》
《はい、ラウル様。》
《幻覚を見せた騎士連中の様子は?》
《現れた我々の本隊の幻影とにらめっこが続いています。》
《わかった。まだ手をだすな。》
《は!》
《アナミス。ミノスは到着しているか?》
《はい。既にファートリア南の駐屯地におります。》
《待機を伝えろ。》
《ラウル様、聞こえております。》
ミノスとの念話が繋がる。
《ミノス!状況が変わった。待機してくれ。》
《は!》
なるほど、南の拠点には変化は起きていないようだ。とりあえずミノスがいるなら安心だ。
《ゴーグ。》
《はい、ラウル様。》
《急いで調査隊を呼び戻せ。》
《わかりました。》
ゴーグに調査隊を呼び戻させる指示をした。いったい敵のやろうとしていることは何だ?
「みんなちょっといいか。」
目の前の魔人以外に語りかける。
「どうした?ラウル。」
「どうしました?」
「はい。」
「何でしょうか?」
オージェとグレース、カトリーヌ、カーライルが返事をする。魔人達は既に俺の念話が共有されており状況はわかっていた。
「どうやら敵は俺たちが思うに動いてはいないようだ。」
「何かあったのか?」
「ああ、中央の拠点にも北の拠点にも敵の調査隊がきたらしい。」
「敵本体が動いたわけでは無いんですね?」
「そのようだ。」
「どういう事だ?」
「わからん。しかしこちらの目論見どおりでない事だけは確かだ。」
「だな。」
「ですね。」
オージェもグレースも考えこんでしまう。
「すみません。私の浅はかな策が失敗だったのではないでしょうか?」
カトリーヌが申し訳なさそうに言う。
「いや、カティが悪いんじゃない、俺の推察が違っただけだ。」
「私が差し出がましいマネをしたから。」
うん、これはまずいぞ。カトリーヌはまったく悪くないのに、自分を責め始めている。萎縮して何も発言しなくなったら困る。
「カティ、そもそも作戦と言うものはそういうものだ。状況と共に臨機応変に変えなければならないんだよ。そしてまだカティの案は生きてる、ただ今は情報収集が先決だ。」
「わかりました。」
「カティの意見は貴重なんだよ。」
「はい。」
さてと…とにかく各拠点に来た調査兵の状況を調べるしかないか?いつのまに来たのか?こちら側の街道を誰かが通った形跡はなかった。いきなり現れたとなればやはり転移か?何か手がかりはない物だろうか?
「ラウルさん。そういえば気になる事があるんですが。」
「なんだいグレース。」
「僕らの基地の事を、バケモノが住み着いたと流布している者がいるって話でしたよね?」
「そうだな。村に来てそれを吹聴した女がいるとか。知らんうちに消えてしまったらしい。」
「それ、めっちゃ怪しいですよね?」
「ああ、目的も分からんしな。その女は、この戒厳令のファートリアを自由に動き回ってる事になる。」
「ええ、だとすれば普通の国民ではないと思うんです。」
「敵の組織の者ということか?」
「そう考えるのが妥当ですよね?」
グレースの言うとおりだ。俺達が最初の村で入手した情報の中ではそれが一番怪しい。。
「そいつをとっ捕まえる事が出来たらいいんだがな。」
オージェが言う。
「どんな奴か顔も分からんし、特徴も何も分からないから難しいな。」
「そうですよね。」
よく考えるとかなりの有力情報を握っている可能性がある。しかしこの世界には写真なんて言う物は無いからな、村人たちの記憶もあいまいで特徴もなにも分からなかった。
「しかし既に敵がアクションを起こしてきているからな。女を探している暇はないかもしれない。」
「うーん。」
「だな。」
今は顔も知らない謎の人物を探すという、途方もない事をしている余裕はなかった。
「せめて特徴が分かるなら良いのでしょうが。」
カーライルが言う。
「そうなんだけどね。それを嗅ぎまわるわけにはいかない、もしかするとこちらが尻尾を掴まれる可能性がある。」
「確かにそうですね。」
「どうするよ?ラウル、俺はどっちに転んでも先に進むことを進めるが。残して来た部隊はやわな魔人達じゃないし、常に念話で話す事が出来るのなら、逐一連絡をもらうようにしておいたらいいんじゃないか?それまでは当初の計画を遂行する方向で。」
「ちょっと待ってください、オージェさん。僕はそれとは違う考えです。」
「グレースはどう考える?」
「なんとなくですが、今置かれた状況はとても危険だと思うんです。オージェさんやラウルさん、そして配下の人たちなら何とか切り抜けられると思うのですが、カトリーヌさんとマリアさんそしてカーライルさんとオンジも、そんな不安要素がある中を進むのはやめた方が良いと思います。」
「グレースは戻った方が良いと?」
「もしくは、これまでの道のりにデモンなどの脅威は無かった。カーライルさんとオンジの力があれば帰れると思います。人間の彼らは前線基地に戻した方が良いのでは?」
「いえ。私はラウル様と共に!」
「私もです。ラウル様のお役に立つために来たのです。この身尽き果てようともついてまいります。」
カトリーヌとマリアがグレースの意見に反対するが、しかしグレースの意見はもっともだった。もしかするとこちらの動きに、敵が気が付いているかもしれないと分かった今、人間の彼らの身を守りきれるかどうか分からない。
「グレース様。我も御身を守るために付き従っているのです。グレース様が戻られるのならば戻りますが、我だけがおめおめと戻る事など命令でもお断りします。」
「オンジ…。」
「皆さんが戻らぬのなら私が戻る事は無いでしょう。もちろん人間だけで戻れと言うのであれば私が責任をもって前線基地まで護衛いたしますが。」
カーライルが言う。
「と言う事は…進むか戻るかか…。」
「どうする?」
「どうします?」
「‥‥。」
「お前が軍の総帥だ。どうするかはラウル次第だぞ。」
「ああ、わかってる。少し待ってくれ。」
どうすべきか?ここまでは安全マージンを取って動いて来た。しかし俺達が既に奥深くに潜入している事を敵は知らないと踏んでいる。俺達は敵の獅子身中の虫となってアドバンテージになる。だが我が軍に被害が無い今なら、戻って作戦行動の見直しを図る事で、部下たちが危険にさらされる確率が減るだろう。
「今回、各拠点に送られて来た騎士の数なんだが、どこも同じ数なんだ。それに何らかの意味があると思うか?」
「敵の1個小隊の基準とかじゃないですか?」
「俺も特に意味があるとは思えんのだが。」
「例えば被害を最小に抑えるため?情報を取るための捨て駒にする予定だった?そのほかに何か理由がないかな?」
「‥‥。」
「どうだろう…。」
二人はまた考え込んだ。
「ガザムは罠じゃないかと言っていた。」
「罠…ですか。」
「ああ。」
すると沈黙していたカトリーヌが言う。
「また、すみません。」
「どうした?」
「私がモーリス先生に教わったのは、発想を変えろと言う事なのですが。」
「発想を変える?」
「はい、とにかく当たり前のことを当たり前に考えないと言う事。」
「それで何か思いついたのか?」
「送られて来た騎士たち自体が罠と言う事はないでしょうか?」
「!」
「!?」
「そ・・」
「「「それだ!」」」
俺達3人がカトリーヌの言う事に声をそろえる。
そう、俺は過去にそんな罠にかかった事があった。それはフラスリア領の地下牢での出来事。ケイシー神父に設置された転移罠により砂漠に飛ばされたのだった。
アナミスが調べた結果、騎士たちはデモンの干渉を受けていると言う事だった。もしかすると彼ら自身が何らかの罠の可能性がある。
俺は直ぐに3つの拠点へと念話を飛ばすのだった。
次話:第415話 死体の光柱
お読みいただきありがとうございます。
期待できる!と思っていただけたらブックマークを!
★★★★★の評価もお願いします!
★★★★★の評価もおねがいします!




