第291話 神聖国攻略準備
フラスリアの宰相と文官達にトラメルの事を話す。
トラメルがニカルス大森林基地で強力な配下の保護下に居る事と、フラスリア領の民の心配をしていた事を。
「領主をお救いくださりありがとうございます!」
宰相から涙ながらに感謝されてしまう。
「作戦の過程で今すぐにとはまいりませんが、必ずフラスリアにお連れします。」
宰相や事務官達が俺に深々と頭を下げた。
《こんなに領民に思われているなんて、トラメルはただのツンデレ領主じゃないんだな。》
「この度の作戦ではフラスリア領も助力させていただきたく思います。」
宰相が言う。
「まあ出来れば炊き出しを継続してお願いしたいですね。戦力的には魔人軍の部隊で十分ですので支援していただけるだけでありがたいです。」
「それではよろしくありません。物資はどちらかというとルタン町やグラドラムからの支援が多くなっておりますし、魔人様達が獲ってきていただける食肉も相当な量です。当領といたしましては料理のお手伝いだけでは不十分ではないかと思うのです。」
「いえ十分ですよ。作戦行動に集中できますし、うまい料理を食べたほうが兵士のやる気も出ますし。」
「そう言っていただけるのはありがたいのですが、もし必要とあらば土木作業の支援だけでも。」
「いえ。魔人と一緒に土木作業をするのは大変危険です。彼らは丸太を片手で投げるのですよ。本当にお気持ちだけで結構です。」
「わかりました。何か頼みごとがありましたら、是非気兼ねなくおっしゃってください。」
「その時はよろしくお願いします。」
とりあえずフラスリアの宰相と文官達には炊き出しのお願いだけをする。
「ではこれより魔人軍との作戦会議がありますので。」
「はい。それでは昼食の時間になりましたらお声がけください。」
「ありがとうございます。そうさせていただきます。」
俺はフラスリア領主館を出る。
領主館を出たらシャーミリアが待っていた。そして定番の俺について周るファントム。
《グラドラムからこのかた、ずっとこいつに付いて周られてたから、やっぱ金魚の糞みたいについてくるファントムがしっくりくるわ。いつもどっか見てるけど。》
「シャーミリア。」
「はいご主人様。」
「魔人はもう集まっているのか?」
「はい、すでにティラが集合をかけております。」
《ティラもすっかり伝達統制がうまくなっている。もしかしたら指揮官向きなのかもしれない。》
「行こうか。」
「はい。」
「・・・・・」
俺達はフラスリア近郊に出来上がった魔人軍基地に向かった。
「お待ちしておりました。」
「ああ、ティラありがとう。」
「こちらです。」
俺が広場に行くと魔人達3000名がすでに待っていた。
「みんな!心配かけて申し訳なかった!敵の罠にかかり戻ってくるのに時間がかかってしまった。」
サッ
皆が膝をついており頭を下げる。
「「「「「「ラウル様!よくぞご無事でお戻りくださいました!」」」」」」
「ありがとう。皆の顔が見れて嬉しいよ。」
「「「「「「ありがたき幸せ!」」」」」」
「まああまり力まないで聞いて欲しい。楽にしていいよ。」
俺が言うと魔人達が立ち上がって足を肩の幅に広げ手を腰の位置に組んで立つ。
《おお!ずいぶんよく仕込まれてるけど、俺教えたつもりないんだけどな。》
「基地の建設もだいぶ進んだようで、前線基地として機能するまでよく仕上げてくれた!ここを拠点として敵の本陣と目されるファートリア神聖国に進撃する予定である。皆の力を俺に貸してもらいたい。」
「「「「「「おー!」」」」」」
「だが忘れてはならないのが自分を犠牲にしてはならない事。戦況が不利とみれば逃げる事も必要だと覚えておいてほしい。最善を尽くすのは大事だが、俺は一人として大事な仲間の命を失いたくない。そのための準備をするつもりだ。」
「「「「「「は!」」」」」」
「それでは仲間の中から選出された60名の隊長は前に出てきてくれ。」
「「「「「「はい!」」」」」」
ザッ
60名の部隊長がそろう。
《…というかなんでこんなに統率がとれてるんだ?》
俺が魔人の誰ともなく念話で聞いてみる。
《それが。オージェ様がすべての魔人に対して戦闘の隊列や、こういった式典などの時の動きをお教えくださいました。》
カララが教えてくれた。
《オージェがか。そういえば彼はシュラーデンでも兵士に仕込んでたな。こういうのが得意なのかもしれないな。》
《そのように思います。》
《俺がいない時に教えてくれていたという事か。》
《はい。シャーミリアとファントムそしてマキーナを我々が封印しているあいだ、暇だからという事でお教えしてくださったみたいです。》
《暇だから?あっそ…》
「では60名の隊長と俺の直属の配下はこれから会議を行う。会議室に移るので他の者は日常作業に戻ってよろしい!決定事項はおって隊長達から聞くように!」
俺が魔人達に号令をかける。
「「「「「「は!」」」」」」
ザザザザッ
一斉にいなくなってしまった。
《すごっ!》
物凄く統率がとれていてびっくりする。
「ではこちらです。」
俺はティラに導かれるままに歩いて行く。
すると…
「でっかいな。なんだこの建物。」
「はい!司令官用の施設という事です。」
「そうなんだ。しかしこんなにデカくする必要あったのかな。」
「私にはよくわかりません。」
ティラに連れられてきたのは三角形の塔のような建物だった。あっという間にこんなの建てちゃって二カルス基地よりだいぶ迫力がある。
ガチャ
ドアを開けて中に入るとたくさんの部屋があるようだった。廊下をどんどん中に入っていくと、奥には他の部屋よりだいぶ大きな観音開きの扉があった。
「こちらです。」
中に入るとめっちゃクソ広い体育館のような場所に出た。
「ここは?」
「集会場です。」
「うーん。ティラ…ここはちょっと広すぎて落ち着かないな。会議室がいいんだが。」
「わかりました。ではこちらです。」
そしてまたティラについてぞろぞろと歩いて行く。
「こちらです。」
ギイッ
扉を開けるとかなり広いが100名くらいが入れそうな部屋だった。
「ああ、このくらいならいいや。」
「それではこちらで。」
ぞろぞろとみんなが中に入る。
「じゃあ隊長格の人たちは適当にその辺に座ってくれ。俺の直属は俺の周りに集まるように。」
「かしこまりました。」
そして俺は早速、ニカルス基地で話し合った内容を話す。
「それじゃあこれから細かい話をする。理解できない時はそのつど質問してくれ。」
「「「「「「は!」」」」」」
ファートリア神聖国をどうやって攻略するか優先順位は何か。今まではかなり無謀な作戦でもまかり通ってきたが、すでに敵も外部から兵が戻らぬ異常事態に気がついていて、十分な準備をして待ち構えている可能性が高い事。そのためにやらなければならない事。
大まかな事を全て話した。
そこでこれからの方向を決めるための会議だった。
「今までは奇襲作戦で上手くいった部分はある。しかし今回の俺の転移騒ぎで敵に時間的猶予を与えてしまった。おそらくは準備して待ち構えているだろう。」
「はい。」
「ここが一番ファートリア神聖国に近い為ここから大部隊を送る事になるが、迂闊に動いてはかなり危険だと推測される。」
皆が静かに聞いているのでそのまま話を続ける。
「それほど時間は掛けられないが、十分に情報を収集してから相手の本丸を叩こうという事になった。こちらもそれなりの準備をしなければならない。」
「「「「「「は!」」」」」」
「戦闘訓練はもちろんだが、情報収集活動を強化し戦略をかため、それをふまえた上で戦術に落とし込み、各部隊が責任を持って遂行しなければならない。」
するとミノスが質問してくる。
「ラウル様!」
「はいミノス。」
「それでは先に情報収集の為の部隊を、ファートリア神聖国に潜り込ませるという事ですか?」
「いやそれはかなり危険だ。恐らく先行部隊が無事に帰って来れる可能性が低い。」
「それではどのように?」
「うん。一旦敵の事より自分たちの潜在能力の洗い出しをしなければならない。」
「自分たちの?」
「そうだ。俺達の能力や特性、各国で用意できる資源、そして真の敵と思われるものを特定するための情報収集だ。」
「真の敵とは?ファートリア神聖国ではないのですか?」
「虹蛇様のお告げでは、どうやら人間は何らかの駒として動いている可能性が高いんだ。」
「裏で操っている者がいると?」
「推測だがな。」
するとカララが聞いてくる。
「もしかするとですが、その一部を知るのはルゼミア王かもしれません。」
「母さんが?」
「はい。ルゼミア王はかなりの年月を生きておられます。もしかしたら何らかの事情を知っているものかと。」
「なるほど、それも一理あるな。」
魔人達と一緒に来ていたカトリーヌが言う。
「あの、それでしたらこのお話にはエミル様とオージェ様もご参加いただくべきかと。」
「彼らにはあとで決定事項をつたえるのじゃだめか?」
「むしろなにかをご存じなのではないかと思われるためです。」
《カトリーヌは彼らから何かを感じ取っているのかもしれないな。》
「わかった、では彼らも参加してもらう事にしよう。ルフラ呼んできてくれ。」
「かしこまりました。」
ルフラが二人を呼びに出て行った。
「それでは一度情報を整理してから会議をした方が良さそうだな。」
「そのようです。」
セイラが答える。
「わかった。それではみんな!一旦会議を中断する。再度準備が整い次第招集をかける!その時にまた集まってくれ!」
「「「「「は!!」」」」」
ザザザザ
魔人達は自分達がするべき作業に戻る為部屋を出て行った。
「凄い統制がとれているな。」
「はい。オージェ様がこのように指導してくださったのです。」
「オージェさんにはお礼を言っておかないとな。」
コンコン!
ドアがノックされた。
「入れ!」
するとすぐにルフラが1人で戻って来た。
「どうした?エミルとオージェさんは?」
「それが…ラウル様に部屋まで来てほしいとの事で、出来ればお一人で来ていただけると助かるとの事でした。」
「ん?そうなの?わかった。」
「ではご主人様!私奴だけでもお側に。」
「いやいい俺が1人で話をしてくる。いったい何の話だかは分からないけど、きっとなにか考えがあるんだろう。」
「ですが…」
「大丈夫。もうお前たちの前から消えてしまうようなへまはしないよ。そしてエミルは特に大丈夫だ、だから皆自分たちのやるべきことをやって待っていてくれ。」
「わかりました。」
そして俺は入り口に向かった。
「エミルとオージェが二人で俺に用があるなんていったい何だろう?」
ガチャ
入り口のドアを開けて気が付いた。
「ルフラ、二人がどこにいるか分かんない。」
「あ!それではそこまでお連れ致します。」
俺はルフラの後ろをついて二人が待つ部屋に向かうのだった。




