第66話(隠し通路)
side セリア&リリー
「リリ姉、その男、絶対怪しいって!」
セリアは目を大きく見開いて言った。
「そう、でも、角を曲がったらパッと消えちゃったから追いかけられなかったのよ」
「それってどこらへんなの?」
「行ってみる?」
「現場百回って言うしね」
セリアは頷き、少し興奮した様子だった。
二人は男が消えた場所までやってきた。
「この角よ」
と、言ってリリーが指をさすと、
「確かにこの角なの?」
セリアは首をかしげて不思議そうにした。
「間違いないわよ」
リリーは自信たっぷりに言った。
「あの先に宿屋が見えるでしょう?」
リリーがさらに指差すと、セリアは頷いた。
「あの宿屋の角を曲がったところから追いかけたんだけど、この道を左に曲がった、ここで見失ったの。」
リリーは真剣な表情だ。
「隠れるところなんて何も無いじゃない」
セリアは周囲を見回した。
角を曲がった先には、左に家の壁、右にはなだらかな丘が広がるだけで、隠れるような場所は見当たらなかった。
「じゃあこの家が怪しいのかしら?」
「もしかして、隠し扉とかがあるのかな?」
セリアは家の壁を調べながら言った。
「それもあり得るわね。壁を叩いてみて、音が違うところがあるか確認してみましょう」
リリーも興味を示し、手をかざして壁を軽く叩き始めた。
二人でしばらく壁を調べたが、特に異常は見つからなかった。
「何もないわね」
セリアは少し残念そうに言った。
「確かにここで消えたのよ。どこに隠れたのかしら……」
リリーは眉をひそめて考え込んだ。
「もしかして、他の場所に秘密があるのかも?」
「そうね。もう一度、道全体を見直してみましょう」
二人は再び辺りを調べ始めた。セリアは丘の方へ、リリーは反対側の家の周りへと別れて確認していく。
やがてセリアが立ち止まり、声を上げた。
「リリ姉、こっちを見て!」
「何かあったの?」
リリーは急いでセリアの元へ駆け寄った。
「その男を追った時、どれくらいの距離が離れてたの?」
「10メルもなかったわよ」
セリアは地面をじっと見つめたまま、
「じゃあ、何か見落としてるはずよ」
と呟いた。
「何か見つけたから呼んだんじゃないの?」
「いや、こんなに離れたところまで来れるわけないなって思って」
リリーが振り返ると、確かに道から50メルほども離れた場所だった。
「確かに、そんなに遠くには行けないわね。どこかに何かがあるはず」
二人は角から10メル以内の地面を細かく探し始めた。
道と丘の間を慎重に歩いていると、リリーの足が何かにぶつかった。
「痛っ……なんでこんなところに段差が?」
足元を確認すると、雑草に紛れて厚い木の板が隠れていた。
「ここに何かあるかもしれないわ」
リリーは地面の異変を見つけて指差した。
セリアがかがみ込み、じっと見つめる。
「確かに……これは、隠し通路の入り口かも」
リリーが慎重に木の板を持ち上げると、そこには人一人通れるかどうかという狭い隠し通路が現れた。
「見つけたわね」
二人は小さくハイタッチし、通路に入っていった。
通路は狭く、奥へ行くほど暗さが増していく。
「リリ姉、ちょっと狭すぎない?」
セリアが後ろから声をかけた。
「そうね。まさかこんなに狭いとは思わなかったわ」
リリーは壁を手探りしながら進んでいく。
「暗くて何も見えないわ……」
「確かに。このまま進むのは危険ね」
リリーは立ち止まり、考える。
「やっぱりランタンを取りに戻りましょう。これ以上進むのは無謀だわ」
「賛成。暗闇の中じゃ分かれ道があっても気付けないし」
二人は慎重に通路を引き返し、地上に戻った。
「家に戻ってランタンを持ってくるわ」
リリーはそう言い、二人は急ぎ足で戻っていく。
リリーの家に着くと、棚から魔石ランタンを取り出した。
「これでよし」
「準備完了ね」
セリアはランタンを見て親指を立てた。
再び通路に戻り、ランタンの光で道を照らしながら慎重に進み始めた。通路は相変わらず狭く、湿っぽかったが、光があることで二人の足取りには余裕が生まれていた。
「リリ姉、この隠し通路って、どの方向に向かってるのかな?」
「この方向だと、町に戻ってるのは確かね」
リリーは前方を照らしながら答えた。
二人はランタンの光を頼りに、再び通路を進み始めた。
光が通路の壁や足元を照らし、少しずつ進む道を明らかにしていった。
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