第51話(そんなセンサー早く切って)
(レイ、戦闘支援プロトコルを起動します。吸血コウモリは無視して、スケルトンは向かってきたものだけ倒しましょう)
(了解!)
「吸血コウモリは無視…吸血コウモリは無視…!」
もう、失敗はしたくない。
そう思いながら、レイは荷車を押して回廊へ突入した。
目の前にスケルトンが一体。動きは鈍い。
レイは剣すら抜かず、踏み込みざまに蹴りを叩き込んだ。
ガシャッ! バラバラと骨が砕け散る。
「魔石拾ったら、次行くよ!」
駆け寄って魔石と財布をつかみ、荷車へ投げ入れる。
「お、古銀貨二枚。期待してないと出るんだな」
再び荷車を引き、先へと進む。
だがその後はスケルトンの姿が見えないまま、あっさりエントランスに到達してしまった。
「じゃ、次はソルジャーとアーチャーとマジシャンか」
荷車を壁際に止めて、レイは剣を肩に担ぎながら様子をうかがう。
「この間、三人組がやってた方法で集めてみるかな?」
まずはアーチャーを発見。
レイはすかさず駆け込み、振り下ろした一撃でズバッと真っ二つにした。
「よし、次はソルジャーね」
剣を背に戻し、今度は素手で殴りに行く。
「顔面パンチ!」
バキッ! ゴロゴロと頭が転がり、本体はふらつくが倒れきらない。
「なら、とどめ!」と横薙ぎ一閃で粉砕。
そのとき、マジシャンが闇の魔法を詠唱し始めた。
レイはひらりと回避し、ソルジャーを巻き込ませる形で誘導する。
魔法に当たったソルジャーは、骨をガタガタ震わせ――
急に手足をばたばたと動かし、奇妙な踊りを始めた。
「えっ、なにあれ……」
(何だったのでしょう?)とアルも困惑気味だ。
スケルトンソルジャーは、最後に優雅なジャンプを決めると、ふわりと着地し、そのままバラバラと
崩れていった。
「闇魔法って……あんなにヤバかったんだな。さすがに自分から食らう気にはならないよ」
レイは小さく息をつきながら、マジシャンに向かって駆け出した。
魔法を放とうとする相手の手元を見極め、タイミングよく横へステップ。懐に飛び込み、背中の剣を引き抜いて一気に振り抜く。
鋭い一撃を受けたマジシャンは、呻きもせずその場に倒れ伏した。
見回すと、残っていたのは後ろから追ってきたスケルトンソルジャーが二体だけだった。
「今日は少ないのかな」
レイは肩の力を抜き、冷静に二体を斬り伏せる。骨の山が崩れる音を聞きながら、地面に落ちた魔石を拾っていく。
戦闘支援プロトコルの補正は、自然に身体に馴染んでいた。
剣の振り下ろしや踏み込みは、以前なら迷ったり大振りになったりして隙だらけだったが、今は必要最小限の動きで正確に相手を打ち倒す。アルの解析と補正によって、まるで『エリューシア剣術古訓』を体現しているかのように、動きが滑らかに決まる。
(……なるほど、こういう感覚か)
高揚感と手応えが胸に残り、戦闘の緊張はほどよく抑えられ、レイは次の戦いに自然と集中できていた。
「お、また財布発見!」
思わず顔がほころぶ。思ったよりツイている。中身は……古い銀貨。
だが今のレイにとっては、十分ありがたい戦利品だった。
(やはり物欲センサーが働くとドロップ品が出なくなるんですね)
「アル、そのセンサー、切ってよ」
(使ってるのはレイですよ)
「えぇ?そうなの?じゃあさ、お宝発見モードに切り替えできない?」
(大規模アップデートで金貨十枚ですね)
「高いって!」
結果、魔石は七個、古銀貨三枚。順調な滑り出しだ。
レイは荷車に戻ると、地図を取り出して確認した。
(右回りでも左回りでもキラーアントの巣には行けますが、左にはゾンビがいます)
「ゾンビは依頼にもなってなかったし……やめとこう。余計なことをやって、失敗したくないし」
右回りで行くことに決めると、レイは荷車を押して再び歩き出した。
回廊の途中では、スケルトンソルジャーが立ちはだかるが、問題なく撃破した。
進んでいくうちに、左側に大きな部屋が見えてきた。
左へ進めばキラーアントの巣、まっすぐ進めばラージラットの隠れ家がある。
レイはひとまず左に曲がり、様子をうかがった。
キラーアントの巣の前では、「紅薔薇の剣士」と「ドラゴンファング」、二つのパーティが巣穴を占拠していた。
モンスターが出てくるたび、両者が睨み合いながら先に狩ろう争っている。
「うわ、これは関わりたくないタイプだな」
(無理そうですね。先に進みましょう)
キラーアントを諦め、レイは引き返して回廊を直進。突き当たりを右に、その先でもう一度右に曲がれば
目的地に着く。
道中、吸血コウモリが数匹、頭上を飛び回っていたが、レイは無視して進んだ。しばらく歩いたところで、
ようやく目指す場所が視界に入る。
「……ああ、鉱山で着てたラット革チュニックを思い出すなあ」
(銅貨三十五枚でしたね)
「うん、そうだった。地味に高かった気がする」
レイは肩の力を抜き、深呼吸して前を見た。
「まあいいや。今は稼ぐことに集中しよう」
目の前には、暗く広がるラージラットの隠れ家。
荷車を引き直しながら、レイは静かに歩を進めていったのだった。
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