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第380話(新たなギア)

レイはシルバーに跨り、セリアとイーサンは船から小舟を降ろして乗り込み、三人は球体都市へと近づいていった。


レイは道具袋から聖水の瓶を取り出すと、球体都市のガラス状の外壁にそっと振り撒いた。


途端に、球体の表面に青い光の線が走り出した。

細い光の筋があちこちへはじけるように伸び、やがて複雑な軌跡を描きながら収束していく。

以前、土の盾が保管されていた球体と同じように、光は渦を巻いて魔法陣の形を浮かび上がらせ、中心へ集まった。


淡い轟音とともに、扉が開いていく。

「やはり、入り方は同じみたいですね」


セリアが周囲を見ながら小さく頷いた。

「でも、中は全く違うみたいだわ」


開いた入口の向こうに広がっていたのは、前の球体のような倉庫や工場区画ではなかった。そこには、まさに「都市」と呼べる構造が広がっていた。


石畳の通路。

民家のような建物や、店だったと思われる建物が規則的に並んでいる。

球体の中央部には、何かの紋章らしきものが取り付けられた教会風の大きな建物がそびえていた。


レイが一歩踏み込むと、シルバーは周囲を見回し、蹄の音を軽く鳴らしてから石畳を進み出した。

警戒しているのか、興味が勝っているのか、迷うことなく通路を選んでは走り、角を曲がり、時折振り返ってレイを確認してくる。


「シルバー、あんまり先に行きすぎないでね」


レイが声をかけると、シルバーは短く鼻を鳴らして返事をし、速度を少しだけ落とした。

それでも、その足取りは軽快で、未知の都市を確かめるように駆け回っていた。


「レイ様、あれを見てください」


イーサンが指さした方角を見ると、海沿いに明らかに“港”として設計された桟橋があった。


「……あれ、使えるんじゃないか?」


「ええ。あそこまで船を寄せられるなら、修理の効率は上がりそうです。船を呼んできます」


イーサンは言うと、小舟を漕いで再び船へと戻っていった。


セリアは、民家だと思われる建物に入り、すぐに戻ってきた。


「レイ君、ちょっと来て」


呼ばれたレイは、そのままの足取りでセリアの後を追った。


内部は、千年前のものとは思えないほど静かで整えられていた。

壁は金属とも石材ともつかない素材で作られており、触れると冷たく、僅かに魔力の気配が残っている。

埃はどこにも積もっておらず、まるで誰かがついさっきまで暮らしていたかのようだった。


ただし、灯りは沈黙したままだった。

灯りとなるような器具は見当たらず、窓から差し込む自然光だけが部屋の輪郭を淡く照らしていた。


家具は滑らかで、角のない不思議な形でまとめられている。

すべてが一人用で、机も椅子も最低限。整然としていて、生活に雑さのない人物が暮らしていた印象を受ける。


棚には、軽い金属製の皿や杯が一つずつ並べられていた。

用途がわからない棒状の器具や四角いキューブもあるが、それも一つだけ。

どれも傷ひとつなく、保存されていたというより“時間が進んでいない”ように見える。


台所にあたる区画も同様だった。

火を使った形跡はなく、金属と石を組み合わせた調理台が一台。

板状の部分には細い溝が走っているが、どのように使うのか見当がつかない。

洗い場のような場所もあったが、水は出てこない。

それでも腐敗臭や汚れは一切なく、清潔そのものだった。


寝室には、一人用のベッドが一つ。

薄い青色の布がかかったままで、触れると柔らかい反応が返ってくる。

枕元にも白い四角いキューブがおかれている。棚にあったものと同じもののようだ。

衣装棚には白い衣服が数着掛けられていたが、やはりどれも古びていなかった。


レイは寝室の枕元に置かれた小さな白いキューブを手に取った。

「何だろう……?」


まずは手のひらで転がして遊んでみる。くるくると指先で転がすうちに、ただの物体だったキューブに、かすかな反応が返ってくるのを感じた。


「……あれ?」


興味が湧いたレイは、魔力鞭を使ってキューブを空中に浮かせてみた。軽く魔力を注ぐように弾くと、キューブは微かに揺れながら、空中でくるくる回った。すると掌に伝わる自分の声に混じり、わずかにキューブからも同じ声が響くようになった。


レイは眉をひそめ、驚きと好奇心を混ぜた表情でキューブを見つめる。


アルが脳内で声を届けた。

(レイ、それは棚にもう一つあったキューブと対になっている可能性があります。棚の方も同じように魔力を通してみてください)


レイは指示に従い、棚のキューブにも魔力を流す。

二つのキューブが微かに振動し、互いに連動して音を伝えるようになった。


(これで、外部に声を届けられる状態になったはずです)


レイは小さなキューブをセリアに手渡した。

「握ってみて」


セリアが手にすると、キューブからアルの声が聞こえた。

「……な、何これ……?」


「おそらく骨伝導の技術を応用した通信装置みたいですね。体に触れていれば、音声が届くはずです」

アルの声が、キューブ越しに響いた。


「え……この声はアル?」


セリアは目を輝かせ、周囲を見渡した。

「ちょっと、大発見じゃない? もっと無いの、これ!」

小さな二セルほどの四角いキューブを握りしめ、次の探索が始まった。


セリアは小さなキューブを握り、目を輝かせながら周囲を見回した。


レイは肩越しに覗き込み、首をかしげる。

セリアはあちこちの棚や机を慎重に調べ、台所の調理台の隅と、入口のところに置かれていた小さな白いキューブを見つけた。


見つけたキューブを手に、セリアはレイに魔力を流すようお願いする。

「じゃあ他の家も探してくる」と言うと、そのまま軽やかに飛び出していった。


「セリアさん、何があるか分からないから気をつけて」

レイが独り言のように呟くと、キューブから小さく返事が返ってきた。

「大丈夫よ、人数分見つけたら戻るから」


こうして、レイ達はアルと直接話すだけでなく、仲間たちとの通信手段も手に入れた。


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