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第379話(片付け)

レイは光の差す出口から海面へ身を乗り出し、そのまま迷わず飛び込んだ。


(船まで二十メル……いける)


浮上した神殿がまだ海流を乱しているせいで、水面は荒れていたが、レイは波に合わせて呼吸を整えながら前へ進んだ。船腹に近づくと、甲板の縁に複数の影が見えた。


プリクエルと船員たちが、船側面の穴から次々とバケツで海水を掻き出している。潮と汗の匂いが混じり、みんな必死の表情だった。


「おい、レイか!? 無事か!」

「うん、なんとか。そっちは?」


「見ての通りだぜ! で……おいおい、アレは何なんだぜ?」

プリクエルは背後の巨大建造物を指差し、目を丸くした。


レイは立ち泳ぎしながら、短く状況を返した。

「海底に沈んでた神殿です。浮上させちゃいました」


船員たちは一瞬ぽかんとし、そのあと同時に深いため息をついた。


「と、とにかく上がれ! ロープを寄こす!」

プリクエルの声が飛び、数名の船員が滑車を回す。レイはロープを体に回し、ぐっと持ち上げられた。


甲板に降り立つと、そこは完全な戦場後の混乱だった。

セリア、フィオナ、リリー、サラ、イーサン、ボルグル、ガレオ、ディナ、そしてルーク船長が、散乱した荷物を片付けながら忙しく動き回っていた。


「レイっ!」

フィオナがほっとした顔で駆け寄り、セリア、サラ、リリーも続く。


セリアが周囲を見回しながら言った。

「人の被害はなかったわ。ただ、上陸用のテントとか箱類は全部、海に落ちたみたい。拾うのは無理ね」


ボルグルが腕を組んでため息をついた。

「船腹に穴が空いちまったぞい。応急処置はするが、すぐには動かせんわい。直す部材も足りとらんぞい」


レイは濡れた服を絞りながら、頷いて状況確認を続けた。

「こっちは……神殿の中に入って、水の盾は無事に見つけることができたんですが…」


仲間たちの表情が少しだけ明るくなる。しかし、レイの言い淀む気配に、不安がじわりと戻っていく。


レイは苦笑して頭をかいた。

「それで、探してる途中で操作室みたいな場所を見つけたんです。壁に手の形をしたくぼみがあって、試しに手を置いて魔力を流したら……たぶん、それで神殿を浮かせちゃったみたいです」


リリーが額に手を当てた。

「つまり、誤操作ってことね」


「うん。本当にごめん。狙ってやったわけじゃないんだ」


互いの状況をひと通り確認し終えたところで、レイは思い出したように言葉を継いだ。

「それと……神殿の中は見たけど、あの球体都市の部分はまだ確認してない。球体の入口と思って入ったところが操作室だったんだ」


その瞬間、頭の中にアルの声が響いた。

(レイ、あの球体ですが、土の盾を見つけた時の球体より若干小さいです。一回りほど)


「ええ? じゃあ、前に見たのとは別物ってこと?」

レイは思わず声を上げた。


(はい。内部の構造も異なると思われます)


レイは仲間たちの方を見て、その内容を伝えた。


だが、ガレオが眉をひそめて手を挙げた。

「なぁ、ちょっと待ってくれ。帰る前に盾を探すって話は聞いていたが……球体だの神殿だの、話が急にでかくなりすぎて付いて行けんぞ」


ディナも腕を組んで渋い顔をした。

「同感よ。そんなとんでもない代物が海底にあったなんて、聞いてないわ」


レイは苦笑いを浮かべ、濡れた髪をかき上げた。

「うん……正直、古代遺跡ってこと以外、オレも良くわかってないんだ」


仲間たちは顔を見合わせ、荒れた甲板に波の音だけがしばし響いた。


その静けさを破るように、セリアが口を開いた。

「とにかく、次にやることを決めないと。あの球体都市……前と同じく聖水で中に入れるのかしら?」


レイはアルに意識を向けた。

(アル、どう思う? 前と同じ方法で通れる?)


(可能性は高いです。中の構造は違うようですが、外壁の素材は類似しています)


「球体都市を覆っているガラスのような素材は類似してるみたい。聖水を使えば何とかなるかもしれない」


イーサンが頷いた。

「レイ様、私も行きます。あれの内部構造が類似してるなら、中に土人形とかいるかもしれません」


セリアもすぐに続いた。

「私も行くわ。内部の構造を見ないことには、次の危険も判断できないし」


レイは二人を見て頷いた。

「分かった。球体都市は、オレとセリアさんとイーサンで行こう」


するとリリーが手を挙げた。

「じゃあ、こっちは甲板の片付けをするわね。散乱した荷物の整理もしないと」


「私も食堂の片付けをやるニャ。すり身スティックが心配だニャ!」

サラが周囲を見回しながら言う。


フィオナも掃除道具をかき集めながら続いた。

「道具が海に落ちた分、使えるやつから集める必要があるだろうな」


ガレオが肩を回しつつため息をついた。

「ま、動ける奴は働くしかないな。ああ、分かったよ、片付け組だろ?」


ディナも頷く。

「こっちの混乱を整えないと、何が起きたのか把握もできないものね」


船腹の方では、ボルグルが大穴を覗き込みながら叫んだ。

「チアゴ、船底から木材持って来てくれんかのう! まず枠組みから直すぞい!」


チアゴが工具箱を抱えて走ってくる。

「分かった! でも部材が足りないと思うぞ!」


「ある分でやるんじゃぞい! やらんよりマシじゃわい!」


ルーク船長は片膝をつき、リストを広げていた。

「こっちは船員と一緒に食料や物資の確認だ。無くなった物資が多いほど、この先の行動に響く。急いで洗い出すぞ」


それぞれが持ち場へ散っていき、荒れた甲板が少しずつ慌ただしく動き始めた。


レイは深く息を吸い、視線を海上の球体都市へ向けた。

「あそこに、何があるかな……」


セリアが隣に立ち、同じ方向を見つめた。

「行く準備をしましょう。あの巨大構造物が何なのか、確かめる必要があるわ」


イーサンも頷き、シルバーを連れて歩み寄る。

「レイ様、シルバーも連れて行きましょう」


レイは二人を見て微笑んだ。

「よし。じゃあ球体都市の調査に向けて動こう」


海の上、神殿と球体都市は静かに浮かび続けていた。

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