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第377話(神殿内部)

神殿の中に入ると、空気が普通にある状態だったため、レイは体を魚型から元に戻した。

背中の盾を外して手に持ち、微かに響く共鳴の大きさを確かめる。奥に進めば良さそうだと判断し、慎重に歩き始めた。


裸足で床を踏む音が神殿内に響く。

広い空間には大きな柱が規則正しく並び、乳白色の壁が静かに光を反射していた。薄暗い中、壁面の模様や柱の彫刻までは見えないが、掌から出した魔力鞭の光がわずかに周囲を照らすたび、古代文明の精巧な造りが浮かび上がる。


光に照らされた柱の陰影が交錯し、天井の高さや空間の奥行きがわずかずつ実感されていく。

レイは呼吸を整え、盾を手にしながら、一歩ずつ奥へと進んだ。


レイが神殿の奥へと歩を進めると、掌から出した魔力鞭の光に反応するかのように、盾の共鳴が徐々に大きくなった。光が柱や壁面に反射するたびに、振動が微かに強くなり、進む方向を示しているようだった。


やがて、広間の中央に祭壇のような大きな台座が見えてきた。

その中心に置かれている盾は、台座の規模に対してあまりにも小さく、まるで場違いなほどだった。


「……あれ、何も無し? 台座に乗ったら氷人形とかが襲ってくるとか思ったんだけど……」

思わず声に出して呟く。


(レイ、そもそもここに生身の人間が来られること自体、奇跡です。ここまで来るのに、深度は百メルをゆうに超えていますから)

アルの声が脳内に届く。


(生身ねぇ…)

レイは小さく息をつき、盾の位置を確認してから、慎重に台座の前に歩み寄った。

いつの間にか、盾の共鳴音も消えていた。


水の盾というだけあって、透き通った水色をしているが、大きさはこれまでの盾より小さかった。

一番大きなものが物理の盾だとすると、次に大きいのが火の盾と土の盾だ。水の盾は、それらの盾より一回り細い。


レイは水の盾を手に取り、物理の盾と重ねるようにして背中に括り付けた。

その後、魔力鞭の光で神殿内部を照らす。柱や乳白色の壁が光に反射して、広い空間の輪郭が浮かび上がる。

どうやら祭壇の奥に、更に道が続いているようだ。


レイは祭壇を降り、回り込むようにして慎重に奥へ進んだ。

そしてついに、祭壇の先に続く道の入り口までたどり着いた。


奥の道に入ると、ガラスでできた海底トンネルのような通路が現れた。外の青白い海底光がわずかに差し込み、周囲を淡く照らしているだけで、先は暗く、静寂が支配していた。


レイは掌から魔力鞭を伸ばし、微かな光で周囲を照らしながら慎重に進む。通路の両脇には水圧に耐えたガラスが並び、海底の闇がゆらりと映っている。進むごとに、胸の奥がわずかにざわつくのを感じた。


やがて突き当たりに出ると、壁にはレバーのような装置が取り付けられていた。レイは息を整え、指先で触れようとする。


「これを下げると中に入れるのかな……」


レイは脳内でアルに尋ねた。


「分かりません。以前、浮かんでいた球体都市に入った時は聖水をかけましたから、中に入るには聖水が必要だと思います」


「じゃあ、これは……何のスイッチなんだろう?」


「それを確かめるためにも、他に何か無いか探すしかありません」


レイは少し後ろに下がり、トンネルのガラス越しに球体都市の入り口を覗き込む。内部に繋がっているとしか思えなかったが、どこも踏み込めそうな場所はない。柱と祭壇以外、手掛かりは何もない。


「やっぱり、入口のスイッチじゃない?」


(そうかもしれませんが何が起こるか分かりません慎重に行動してください)


レイは突き当たりのレバーに手をかけ、ゆっくりと下げた。目の前の壁面が微かに震え、隠れていた小さな扉が姿を現す。


(……何かの操作部屋のようですね)

アルが脳内で告げる。


レイは息を整え、慎重にその部屋へ入る。内部は古代文明の技術を思わせる装置が並び、中央には両手の形を模したパネルが床に埋め込まれていた。


(両手……ここに置けってことか?)


レイは半信半疑で手を置いたが、反応はなかった。


(魔力を流す……?)


アルが警告する。

(レイ、慎重に……)


迷いながらも、レイは掌から魔力を流した。


床のグリップのような装置が静かにせり上がり、壁面には計器が次々と輝き出す。壁面に並ぶ複数の透明スクリーンやホログラムパネルが青白く光り、ちらつきながら別々の視点の映像を映し出す。

青白い文字列が揺らぎ、古代語で「×αηεx」と表示された。


直後、神殿全体に低い振動が走る。

足元から重いものが動き始める感触が伝わり、空気がわずかに押される。


(レイ、内部機構が起動しました。計器と思われるパネルを見ると浮力制御装置が上昇方向に調整されています)

アルの声が鋭くなる。

(このまま行くと……神殿が浮き上がります)


レイは息をのんだ。


「えっ? それ拙いよ! 上に船が!」


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