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第375話 第十三章(海底神殿へ)

最後まで描き切れるか不安ですが十三章スタートします。

カルタルの港に、ガレオ、チアゴ、ディナの三人が船を目指してやってきた。港の波打ち際で、ガレオが少し緊張した面持ちで問いかける。


「本当に乗っていいのか?」


レイは肩をすくめて答えた。

「まだ言ってるんですか? 昔、オレを助けてくれたんですから、今回はそのお返しですよ」


「いや、まあそう言われるとそうなんだが……」


「それに、物資を積み込んでしまったので、船室は一つしか空けられませんでした。三人でそこに入ってもらうことになりますが、大丈夫ですか?」


「問題ないよ」

ディナは笑って肩をすくめる。


「知らない仲じゃないから、それは大丈夫だ」

チアゴも気にしていない様子だった。


ガレオは魔石の確認に話を切り替える。

「で、とりあえず魔石は交換でいいのか?」


「はい。大きな魔石は燃料として優秀です。ひかりイカの魔石は、ランタンにちょうどいい大きさですから、カルタルで使ってください。」


「分かった、じゃあありがたく交換させてもらうよ」

「はい、こちらこそ」


そのとき、船の甲板では作業が始まっていた。

船員たちがひかりイカの魔石が入った樽を慎重に降ろし、代わりにカルタルで溜め込んでいた魔石を積み込んでいく。樽が甲板に置かれるたび、木のきしむ音と、カランと小さく響く魔石の音が混ざり合った。


「よし、これで燃料も確保できたわい!」

ボルグルが樽を叩きながら声を上げた。


ガレオは港の外にいる見送りの人たちに向かって大声を上げた。

「じゃあ、行ってくる! ちゃんと船を揃えられたら戻ってくるから、大人しく待っとけよ!」


「お前こそちゃんと戻ってこいよ!」

「また遭難するんじゃねぇぞ!」


笑い声と掛け声が飛び交う中、三人は船に乗り込み、船はカルタルの港をゆっくりと離れていった。手を振り続けていた見送りの人たちが小さくなり、港の建物も遠ざかっていく。海風が頬を撫で、船体の振動が甲板に伝わる。


チアゴが甲板の縁に手をかけ、船の動きを見て驚きの声を上げた。

「話には聞いたけど、本当に帆を張らなくても船が進むんだな」


ボルグルが胸を張りながら答える。

「蒸気タービンじゃわい。船の下についてるスクリューで進むんじゃぞい」


「これなら凪も関係ないわね」とディナが笑った。


ボルグルは甲板に並んだ樽を軽く叩きながら付け加えた。

「その為に魔石を交換したんじゃわい。ランクの高い魔石の方がトルクも上がるんじゃぞい」


甲板の端でガレオがレイに声をかける。

「で、次は海の底にある神殿って言ってたけど、どうやって探すんだ?」


レイは胸元の物理の盾をしっかり手に持ちながら答えた。

「それはこの盾が教えてくれます」


ガレオは眉をひそめ、半信半疑の表情でレイを見た。

「はぁ?それがか?」


「この盾なんですが、全部で五枚あるらしいんです。こうして近くにある場合は何も起きませんが、離れた場所にある盾が近づき始めると、仲間を見つけたように共鳴を始めるんです」


「ふーん。なんだか分からんが、カルタルにもそれで来たっていうなら信じるけどよ」


「はい、共鳴し始めたら教えますので、それまではのんびりしてください」


「いや、前も言ったが、ちゃんと仕事はするぞ。俺は見張り、チアゴは機関室、ディナは食堂でいいんだろ?」


「はい、交代でお願いします


そんなやり取りをしながら、船は静かに、神殿があるであろう方向へと進んでいった。


ガレオ達三人を新たに迎えたレイ達は、海底神殿があるであろう海域に向かって進んで行った。


船は南西に向かってゆっくりと進む。少し斜めの風に帆を揺らされ、海面に小さな波が立つ。出港から四日が経ち、そろそろ球体都市があった地点から真南になる頃合いだ。


甲板の上、レイは盾に手を置き、微かな振動を確かめる。


「そろそろ、球体都市があったところから真南になると思うんだけど、反応してる?」


(いえ、まだですね)

アルの声は小さい。聴覚強化を使っても、盾はほとんど静止している。


レイは眉を寄せた。微かな振動すら感じ取れないのは、神殿までの距離がまだあるからだろう。


「わかった。じゃあ南に進むよう、船長に進言しよう」


ルーク船長は頷き、舵を少し左に切った。船はゆっくりと真南へ向きを変え、南西の風を斜めに受けながら進む。


そして二日が経った頃、レイは盾の微かな振動に気付いた。


(……! やっと……か……)


アルの聴覚強化がなければ聞き取れない程度だが、確かに盾がかすかに共鳴を始めている。海底神殿の存在を告げる、ほんの小さな音だ。


レイは胸元の盾を握り、かすかな振動を手に感じ取った。微かな震えが、海底の何かを確かに指している。


「……やっぱり、この下か。神殿は海の底にあるってことだよな」


(はい。反応は下方向です。ただ、深度は不明です)

アルが隣で静かに告げると、周囲の仲間たちも自然と集まってきた。


フィオナが盾を手に取り、耳を近づける。

「……音は確かにあるが、微妙だな。どこが一番強いのだろうか?」


リリーも近寄り、盾を手にして振動を確かめる。

「ここより、少しあっちの方が……? でもわずかね」


セリアは盾を軽く傾け、共鳴の方向を探る。

「少し船をずらしてみましょう。共鳴が強くなる方向を探るの」


ルークは船の舵を握り、ゆっくりと進路を変える。盾の微かな振動に集中する。

「右に少し寄せる……。うん、反応がちょっと強くなった」


アルが聴覚を強化し、さらに微細な共鳴を拾う。

(盾の震えがわずかに増しています。船を少しずつ動かす必要があります)


船は南西へ進みながら、少しずつ南に向きを変える。仲間たちは盾を順番に手に取り、音の強さを比較する。

「こっちの方が響くニャ」

「いや、こっちも負けてないぞ」

「ああ、微妙……でもやっぱり少しずつ差がある」


何度も舵を微調整し、波や風の影響を受けながら、盾の共鳴が最も強くなる地点を探す。

レイは額に汗を浮かべながら、集中を途切れさせずに仲間と声を掛け合った。

「まだ少しずつしか変わらない……でも、確かに下方向だ」


丸出一日ほどかけて船を動かし続け、やっと盾の震えがはっきりと増す瞬間が訪れた。

(……ここですね。ここが神殿の真上です)

アルの声が小さく告げ、仲間たちの表情にも安堵が浮かぶ。


「やっと……分かったか」

レイは胸元の盾を握り締め、海底神殿の位置を確かめた。


ボルグルが海面をのぞき込みながら言った。


「こんな何も無いところの下に神殿があるのかのう?これじゃ普通の者じゃ見つけられんわい」


リリーは眉を寄せた。

「でも、どうやって潜るの?」


レイは答える。

「アルが海中でも呼吸できるようにしてくれるそうです。だから、ちょっと潜ってみます」


セリアが心配そうに言った。

「気をつけてね」


「はい。行ってきます」


盾をしっかり握り、薄手の服に身を包む。手足の指は水かきに変形させ、潜行の準備は万端だ。


レイは甲板から前傾姿勢で身を乗り出し、海へと飛び込んだ。水面に触れる瞬間、身体はすっと水に沈み、抵抗なく潜行を始める。


レイは息を整え、ゆっくりと潜っていった。呼吸はアルが制御してくれるため問題ない。水は冷たいが、視界はまだある。


しかし、潜るほどに胸の奥がきしむように重くなる。皮膚の内側に配置されたナノボットが支えてくれているものの、水圧は明確に増していた。


「……まだ底が見えないのかよ。どんだけ深いんだ、これ」


(レイ、体表の圧力が限界に近づいています。このままの構造では危険です)


アルの声音は落ち着いていたが、警告そのものだった。レイはさらに数メートル潜ろうとしたが、肋骨の外側を押しつぶされるような感覚が走る。


(くっ……苦しい……。それに、盾が邪魔だな。片手じゃ思ったほど前に進めない)


レイは進むのをやめ、体を反転させた。水かきに変形させた指を使って、ゆっくりと上昇する。浮上するほど、胸の圧迫がすっと消えていく。


浮上を続ける途中、レイの耳の奥でアルの声が静かに響いた。

(レイ、前方。少し右下に動体反応。確認を)


促されるまま視線を向けると、一匹の魚が悠々と泳いでいた。銀色の鱗が微かな光を拾い、水の中を抵抗なく滑っていく。さっきより息が楽になったのを感じながら、レイはしばらくその姿を見つめる。


泳ぐ速度も、身体の使い方も、人間とはまるで違っていた。流線型の体に水流が沿っていくのが、目で追えるようだった。


海面に顔を出し、レイは深く息をついた。


「……はぁ。対策しないと、到底たどり着けないやつだな」


(おそらく深度は五十以上。水圧に耐える構造を再検討する必要があります)


「だよな。アル、相談しよう。何か方法はあるはずだ」


レイは手の中の盾を一度見つめた。その微かな震えは、海底のどこかで神殿が呼んでいる証だった。


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