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第373話(決着)

レイは一歩後ろに下がった。


だが、ガレオはすでに次の攻撃の動作に入っていた。

鋭く踏み込み、剣先が閃光のように走り、斜め上から振り下ろされる。


レイもそれに剣を合わせるが、鍔で弾かれ、続けて剣の柄が頬をかすめる。写し身から淡い光の粒が舞った。


(上手い……見切れてはいるけど、避けきれない!)


ギィンッ! ガキィンッ!

ガレオが剣の腹で自分の剣を回すようにして弾き返す。剣が跳ね上がり、レイの防御が一瞬緩んだところを狙って突きを放つ。

肩や腕、太ももをかすめる刃先に、淡い光の尾が舞った。レイは咄嗟に体をひねり、ぎりぎりで致命傷を避ける。


それだけではなく、ガレオが剣を横に構えると腰を回転させながら横薙ぎを振るう。レイは剣を合わせるが、右に大きく弾かれ、左側ががら空きになる。


「もう避けきれねぇぞ!」


振り抜かれた剣を見たレイは、瞬時に判断し、左手だけを柄から離す。


バチッ!

空気が弾ける音とともに、掌から見えない魔力の鞭が走り、ガレオの剣に絡む。金属がわずかに軋み、刃はわずかに逸れる。

頬をかすめる刃の軌道に沿って、細い光の筋が走った。


ガレオは目を細め、低く呟く。

「……今のは?」


(風でも衝撃でもない……さっきの斧の時と同じか)


「さっきの投擲斧の軌道も、それで変えたな。魔法か?」

レイは短く息を吐き、首の汗を拭いながら答える。

「……そんなようなものです」


再び砂が舞い、二人の間に目に見えない緊張が張り詰める。


(あぶな……今のでやっと逸らせた。でも、この使い方じゃ長く持たない……魔力がごっそり削れた感じだ。なるほど、アルが“放出系魔法は指先だけ”って言った意味がわかった)


レイは剣を構え直し、呼吸を整える。

(このままでは魔力切れで負ける。ここぞという時だけ速さを見せ、緩急をつけないと……)


踏み込みの瞬間だけ魔力循環を加速し、剣を振るタイミングで力の流れをピークに合わせる。

全力で回すよりも効率的に身体の力を伝えられる。


レイがゆったりと踏み込み、剣を振る。

ガレオは一瞬、眉をひそめた。

「動きが妙にゆっくりになったな……」


しかし直後、鋭い速度で剣が振り下ろされる。

思わず体を引き、金属が擦れる音が鳴る。


(あのタイミングでこの振りの速さ……どんな力だよ!)


金属が軋み、紙一重で剣を受け流すガレオ。

レイは手応えの軽さに目を細める。

(くっ、遅すぎ……魔力の流れと腕の動きが噛み合っていない)


足元の土がわずかに沈む。

再び踏み込み、呼吸のタイミングを変える。

体内の魔力の流れと腕の重さが一瞬重なり、動きが研ぎ澄まされる。


剣が滑るように走り、ガレオの腕に衝撃が走る。

辛うじて受け流すも、手が痺れるほどの重さだ。


二度目の衝突。

互いの剣が擦れ、閃光が散る。

金属の匂いと焦げたような熱気が鼻を刺す。


「まだだ!」

ガレオが踏み込み、渾身の三撃目を叩き込む。


レイは一瞬遅れて反応。

脚から腕へ魔力を通し、剣を押し返す。

ギィンッ!

金属が軋み、火花が散る。


互いの剣が弾かれ、砂塵が舞う。

呼吸を荒げながら、一歩も引かぬ二人。


「なんだ? 本気を隠してやがったか?」

「いいえ、力任せをやめただけです」


レイは息を整えつつ相手を注視する。

魔力循環と身体の動きはようやく噛み合ってきた。

剣速だけで言えば、合わせるのに苦労しているのは相手だ。


だがまだ完全には崩せていない。

時間をかければ魔力の消耗で自分が先に限界を迎える。


(なんとかして……ひっくり返さないと)


次の瞬間、ガレオが動いた。

踏み込んでからの、斬り上げ。さっきと同じ動きだ。


レイは剣を合わせ、軌道を読んで腕を動かす。

だが、刃は途中でわずかに角度を変えた。


(フェイントッ!)

狙いは頭ではなく、剣を振り出した左腕。

咄嗟に剣を下げて受ける。


ギィンッ!


金属が悲鳴を上げ、弾かれた剣が跳ね上がる。

胴ががら空きになった。


(まずい――!)


後ろへ下がろうとしたレイは足元につまずき、倒れ込んだ。

その瞬間、ガレオの剣が空を斬る。

刃が髪をかすめ、砂と髪の間に光の粒が舞った。


息を整え、すぐに身を起こして剣を構え直す。

今の一撃は、ほんの僅かな差で命を落とすところだった。

(力任せを止めたら、今度はフェイントか、厄介だ。でも、ここで引くわけにはいかない……)


足元を見ると、投擲斧が突き立っていた。

(これに……つまづいたのか)


「今のは斬られずに済んだな。でも次はそう上手くいかないぞ」

「ええ、今回は助かりましたし、ついでにアドバイスももらいました」

「アドバイス? なんだそれは…」

「ええ、反撃の方法です」

「そうかい、じゃあ見せてもらおうかな」



レイは剣を中段に構え、左手の人差し指だけを伸ばした。

ガレオも剣を中段に構え、出方をうかがっている。互いに動かず、目と目で間合いを探る。


砂を踏む足音だけがかすかに響く。息を整え、相手の微かな重心の変化を見つめて踏み込むタイミングを計った。

(そこだッ!)


踏み込みと同時に、左手の指先から魔法を放つ。


「ライズッ!」


左手から魔法を放ち、同時に踏み込み、剣を振り抜く。


そのとき、ガレオの足元から土の槍がせり上がった。真正面を突き上げる土槍を、ガレオは咄嗟に剣で斬り払う。


しかし、斬り払った刹那、隙を見逃さなかったレイの剣がガレオの右腕に突き刺さる。光の粒が飛び散り、腕から淡い光がこぼれた。


「チィッ!」

ガレオは後退し、剣を構え直す。

腕に熱が広がる。光の粒がぱらぱらと散っていた。


「そういや土魔法だな……お前、ダブル属性か?」

「ああ、ディナさんにはアクアを見せたんでしたね。得意なのは土なんです」

「くそ……剣は使えるし、魔法もダブルかよ!ランク詐欺だな!」


ガレオは剣を使い、肘で突き、横蹴りで距離を取りつつ接近する。レイは土の槍で迎撃し、剣を振り上げて突きを差し込む。ガレオは肘で弾き、横に転がりながら蹴りで距離を作る。


(速い……けれど焦らず……)

レイは踏み込みのタイミングに魔力循環を合わせ、右手で剣を振り下ろし、左手からライズを飛ばす。


土の槍がせり上がり、腰や肩をかすめる。火花と砂埃が舞い、緊張の静寂が二人を包む。


剣と魔法、蹴りと肘の応酬。手負いの二人の動きに、仲間も、アリーナの観客も息を飲んで見守る。小さな油断が致命傷につながることを、誰もが知っていた。


レイは呼吸を整え、魔力の残量を頭の片隅で計算する。もはや時間はない。最後の一手で勝負を決めるしかない。


(これで……決める……!)


左手の指先からライズを飛ばし、土の槍を次々とせり上げる。これでガレオの動きを制限する。ガレオは土槍を剣で斬り払い間合いを確保する。動きは徐々に制限される。土の槍が囲む中、間合いが狭まっていく。


レイは剣を握ったまま、両手の水を集めてアクアボールを生成する。剣の軌道に沿わせるように水を凝縮し、刃と魔法を一体化させた攻撃を準備する。


「これで……終わりだァ!」


剣を振り下ろしながら、両手のアクアボールをガレオに向けて放つ。水の球体が閃光のように飛び、ガレオの顔めがけて迫る。間合いを制限されたガレオは、必死に袈裟斬りでアクアボールを斬った。水の球体は寸断され、粒となってガレをに降り注ぐ。


だがその瞬間、レイはありったけの魔力を循環させて飛び込んだ。

二人の雄叫びが交差する。


「おおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」

「ぬぉおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


ガレオは飛び込んできたレイを斬り上げで対応しようとするが、剣の動きは間に合わず、レイの剣がガレオの肩から胴へ真っ直ぐに走った。


――ザシャッ――!


一瞬の静寂。

ガレオの体がわずかにのけぞり、淡い光が溢れ出す。

砂の上に光の粒がこぼれ、彼の姿が消えていく。

ほぼ同時に、レイの胸にも同じ光が走る。


「……っ」


レイは膝をつき、そのまま地面を転がって仰向けに倒れた。

視界が白く滲み、息を吸うのも苦しい。

砂埃の中、戦いの前にガレオが落とした盾が、いつの間にかレイのすぐそばに転がっている。


観客席が静まり返る。

その沈黙を破るように、実況の声が響いた。


「……相打ち、か!? いや、待て! 今、消えたのは……ガレオの方が先だ!」

「挑戦者、レイの勝利ですッ! 大将戦、決着ッ!」


歓声が一気に爆発する。

砂の上では、レイの体がゆっくりと光に包まれ、粒子となって空へ散っていった。


二人の光の粒が残り、戦いの余韻を静かに語っていた。



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