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第371話(一騎打ち)

イーサンとガレオの剣がぶつかり合い、火花が散る。レイの視線の先、砂煙を上げながらガレオの背後へと回り込む影があった。サラだ。


「サラさん!」

レイの声に、サラは振り返らず片手をひょいと上げる。

「間に合ったニャ!」


背中から迫る気配に気づいたガレオは、眉をひそめて小さく舌打ちした。

「……あらま、挟まれちまったか。いいところだったんだけどな」


その瞬間、観客席の上空に声が響く。

「カルタル最強の七人が、残り二人になったところで挑戦者側が戦場に集結し始めた! まさに絶体絶命のピンチだ!」


アナウンスに続くように、砦に繋がる通路からセリアが息を切らしながら戻ってくる。後ろからフィオナとリリーも走ってきて合流した。


マルムスはガレオと背中を合わせるように構え、苦笑いを浮かべながら言った。

「大将、絶体絶命ってやつだな。……本当は王国に帰りたかったんだけどな」


ガレオは息を整えながら、肩をすくめて返した。

「まったくだ。元Aランクばっかり集めた精鋭パーティのはずだったのにな。気づきゃ七人から二人……情けない話だ。現役を離れて同じ相手ばかりとやってたせいか、体も勘も鈍っちまってたらしい」


そこへ、実況席からアナウンサーの声が響くはずだったが、突然、声の調子が乱れた。

「えっ、ちょ、ここは関係者以外、…もがっ……!?」


観客席の視線が一斉に実況席へ向く。そこには、レイの姿、いや、レイの身体を借りた“アル”がアナウンサーの口を片手で押さえ、淡々とマイクを掴んでいた。


「試合を観覧中の皆様、失礼いたします。少々、お時間をいただきます」


場内がざわめく中、その声ははっきりと響く。

「レイ。確認しました。この“盾”は、現所有者と一対一で戦い、勝利した者のみが継承できる仕組みのようです。チームによる勝利では、譲渡は成立しません」


アリーナの中央で戦っていたレイ、イーサン、サラたちは、思わず顔を見合わせた。

(……アル?)


しかし、レイだけはすぐに表情を引き締め、ガレオへ歩み寄る。

「……聞いた通りです、ガレオさん。盾を手に入れるには、僕があなたと一騎打ちで勝たないといけないらしいです。だから大将同士の一騎打ち、受けてくれませんか?」


「おいおい、本気かよ!?」

マルムスが目をむく。


ガレオも驚いたように眉を上げた。

「こっちとしては多勢に無勢で押され始めてたし、渡りに船ってやつだが……本当にいいのか?」


レイはうなずいた。

「問題ありません」


ガレオは苦笑しながら剣を肩に担ぎイーサンの方を向いた。

「それと……今さらだけど、お前が“大将”じゃなかったんだな」


イーサンが構えを解かずに応じる。

「間違えたのは、そちらでは?」


「いやー、おかしいとは思ってたんだよな」

ガレオが肩をすくめる。

「情報じゃ“水魔法使い”って聞いてたのに、魔法を使う気配がないんだもんよ」


そのとき、再び実況席からアルの声が入る。

「情報の伝達は完了しましたので、私はこれで離脱します。レイ、身体強化魔法のブースト持続時間は約十五分です。ご武運を」


そう言い残し、アルはアナウンサーの口を離し、静かに実況席を去っていった。アナウンサーは混乱しつつも、何とか実況を再開しようとマイクを握り直す。


「えっ、えっと……今の、レイ選手……? いや、でもレイ選手は、まだアリーナの中央に……あれ? え、じゃあ今ここにいたのは、誰……?」


観客席にもざわめきが広がる。

「え、二人いるのか?」「幻術か?」「分身!?」そんな声が飛び交う。


アナウンサーは額の汗をぬぐいながら、何とか状況をまとめようと声を張る。

「と、とにかく! 詳しいことは分かりませんが、どうやら、ここからは“大将同士による一騎打ち”になるようです!」


場内の空気は一変し、全ての視線がレイとガレオの二人へと集中した。


レイは一歩進み出て、剣を構えながら口を開いた。

「戦う前に、ひとつ聞いてもいいですか?」


ガレオが眉を上げる。

「おお、なんだ?」


「リンド村って……ご存知ですか?」


「リンド村?」

ガレオは少し首をひねった。

「それってどこの村だ? 王国か? それとも小国家連合の方か?」


「王国の村です。セリンとファルコナーの間にあった、小さな村です」


「ああ……」とガレオは目を細め、思い出すように言った。

「気持ち悪いオークどもに襲われた村があったな。確か、そんな名前だったかもしれん」


レイは小さく息をのんでうなずく。

「やっぱり、あの時の冒険者のおじさんだったんですね。

あれからずっと、あなたの剣を思い出しながら鍛錬してきました」


「ん? おじさんは余計だが……」

ガレオが口の端を上げた。

「お前、まさかあの時の生き残りの坊主か?」


「はい、そうです。あの時は本当に、ありがとうございました」

レイは深く頭を下げた。


「そりゃ、すごい偶然だな」

ガレオは笑い、剣を軽く構え直す。

「でも、だからといって手を抜く気はないぞ、失礼になるからな」


レイは顔を上げ、剣を構え直す。

「はい、望むところです!」


ガレオがふと眉をひそめる。

「そういや、さっきの実況の声……途中でお前の声になってなかったか?」


「あれは仲間です」


「ふーん……まあいい。それと“やくじゅうごふん”ってのはなんだ?」


「ここではない国の時間の単位です」


「時間の単位?」


「はい。およそ、カップに入れた熱いお湯が冷めるくらいの時間です」


「ふん……妙な例えだが、つまりそれが全力を出せる時間ってわけだな」


「はい。なので、無駄にはできません」


ガレオは剣を肩に担ぎ直し、口元だけで笑った。

「面白い。じゃあ、その限られた時間で俺を倒してみろ」


「はい、じゃあ……参ります」


レイは深く息を吸い、瞼を閉じた。体の芯から魔力を巡らせる。血管の奥を温かな流れが駆け巡り、鼓動とともに脈動していった。

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