表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

380/396

第368話(私が大将)

左右の道で両方のチームがぶつかり合っていたその頃、

ガレオは砦を出て、林の真ん中。踏み固められてもいない、まさに“道なき道”を進んでいた。


大将がアリーナから退出させられたら負け。

そんなルールの中で、自ら動くのはいかにも無謀だ。

だが、ガレオはそういう男だった。


「林ステージなんて、いつぶりだ?」


ぼそりとつぶやくガレオに、後ろを歩くマルムスが肩をすくめる。

「さぁな。俺も記録は見てねぇ」


隣のジハルドも苦笑して手のひらを返した。

「俺も。地形が変わるステージって一度も来てねぇし」


そんなやり取りの最中、遠くから実況の声が木々の間を抜けて響く。

「二人目、ヴァルドも消えたぁーっ!」


マルムスが口笛を吹きかけて、途中で止める。

「……っと。二人目って、おいおい、もうかよ」


ジハルドは頭をかきつつも、眉をひそめる。

「あらま。冗談にしては早すぎねぇか? うちら、もう三人やられちまったなぁ」


笑っているというより、乾いた声の軽口だった。

木々を分け、ガレオたちは“道なき道”を急ぎ足で進む。


「決まった! リリー、見事な一撃でアレハンドを撃破! 泥濘みに足を取られた瞬間を逃さなかった!」


マルムスが枝を払いながらぼやく。

「四人目……おい、マジでやべぇぞ。急がねぇと挟まれんじゃないか?」


ジハルドが即座に突っ込むが、その声にも焦りが混じっていた。

「でもさ、このルート選んだのガレオだろ?」


ガレオは面倒くさそうに肩を回しながら答えた。

「いやいや、大将は普通、砦で控えてるもんだろ。だから道を使って来る連中は、あっちの四人に足止めを任せればいいかなって思ったんだけどな」


マルムスが呆れ顔で笑う。

「ここに“砦に控えてない大将”がいるけどな」


ジハルドも苦笑してうなずいた。

「うん、当てにならねぇ!」


そんな軽口を交わしながら進むうちに、木々の向こうに反対側の砦が見えてきた。


ガレオが目を細める。

「お、砦の前に居た。やっとだな」


腰の剣に手をかけながら振り返る。

「二人は取り巻きを頼む。俺は、あっちの大将と戦ってくる」


マルムスがニヤリと笑う。

「出たよ、“動く大将”!」


「じゃ、一気に行くぜ。マルムス、左を頼む。ジハルドは右な」

「分かった!」


号令と同時に、三人は林を抜け出た。

枝葉をかき分ける音とともに、視界が開ける。


開けた先、砦の前に、三人を迎えるように立つ男がいた。

丸盾を構え、ショートソードを引き抜く。


「よう、あんたが大将か?」


挑発気味にガレオが声をかける。

真ん中で剣と盾を持っている男、イーサンはわずかに目を細めた。


「私が大将だったら、なんですか?」


その口調は落ち着いていて、むしろ余裕すら感じさせる。

イーサンは盾を前に出し、低く構えた。


「ボルグルさん、左の男をお願いします。そっちの右の方は任せます」


「ちょ、ちょっと待っ!」


「右をお願いします」

イーサンはレイに向かって短く言い切る。

「相手は、待ってくれないみたいですから」


言葉の終わりと同時に、ガレオたちの足元を風がかすめた。

空気が一気に張り詰める。


左では、棒術使いのマルムスに、盾と斧を構えたボルグルが立ちはだかる。金属がぶつかる前のような、静かな緊張が走った。


一方、投擲斧を構えたジハルドの前には、なぜかレイが立つことになっていた。


(……オレ、大将なんだけどな)


思わず内心でぼやきつつも、レイは仕方なく黒い刃の両手剣を抜く。

光を吸い込むような漆黒の刀身が、わずかに空気を震わせた。


「まあいい、やるしかないか」


低くつぶやき、レイは腰を落として構えを取る。


そして中央では、ガレオとイーサンがすでに間合いを測り合っていた。

剣と盾。力と技。

二人の視線がぶつかり、空気が一瞬、重くなる。


その緊張を裂くように、実況の声が響いた。

「おっとー! 砦の前で大将同士が激突か!?」


観客席がどよめき、ざわめきが林の方まで届く。

ガレオが口の端を上げた。


「さぁ、派手にいくか」


イーサンも静かに盾を前へ押し出す。

互いの足元の土が、きゅっと鳴った。


相手側の三人が、ほぼ同時に動いた。


ガレオが地を蹴る。

「行くぞッ!」


その踏み込みと同時に、左のマルムスも棒を回転させながらボルグルの横へ回り込む。

ジハルドは両手に投擲用の斧を二本握り、じりじりと間合いを詰めてきた。


最初にぶつかったのは、中央のガレオとイーサンだった。


ガレオの剣が上段から振り下ろされる。

鋭い金属音が響き、イーサンの盾がそれを受け止めた。

衝撃で地面がわずかにえぐれ、イーサンの膝が地に触れそうになる。


「っ……重い! でも見える!」


その横で、マルムスの棒が風を切って横一閃に振り抜かれる。

だがボルグルは、厚い盾をわずかに傾けて受け流した。

「悪いな、そんな攻撃は効かんぞい!」


一方、ジハルドは二本の斧を構えたままレイへ切りかかってくる。

レイは一歩下がり、刃の軌道を冷静に見切った。


「近いな……」


空を切った斧が、勢いそのままにジハルドの手でぐるりと回転し、再び投げられる。

ヒュッと空気を裂く音。


レイは落ち着いた動作で黒い剣を横に払う。

金属が弾ける音とともに、投げ斧は軌道を逸れて地面に突き刺さった。


「やるな……!」


ジハルドは舌打ちしながら、腰のホルダーから同じ形状の斧を引き抜く。

再び両手に斧を構え、低く姿勢を取った。


空気が再び、張り詰める。


イーサンは盾で受け止めたガレオの剣を、力を込めて横にずらした。

そのまま反撃と同時に、ショートソードを突き出す。


ガレオはわずかに体をひねり、剣でそれを受け止めた。

火花が散り、金属音が響く。


「ぬぅっ!」


ガレオが力任せに剣を押し返すと、イーサンの体が後方へ弾かれた。

たまらず一歩、地面を蹴って後退した。


その一瞬を狙ったように、左側からマルムスが棒を回転させて突っ込んでくる。

「はぁっ!」


回転の勢いを乗せた一撃が、イーサンへ向かって飛んだ。


「やらせんぞい!」


その瞬間、ジハルドが動いた。

盾でイーサンをかばうボルグル、二人が並んだその位置を狙い、

両手の斧を立て続けに投げ放つ。


「いけぇっ!」


同時に、ガレオも盾のない側へ回り込み、剣を振り下ろしてきた。


だが、レイはすでにその動きを見切っていた。


コロッセオに入る前、アルが彼の神経活動を同期させていた。

――いわゆる“ゾーン”状態。

思考と反応が限界まで研ぎ澄まされている。


レイは右手に剣を構えたまま、左手を下から払うように動かす。

指先から、五本の魔力の鞭がしなやかに伸びた。


「……捕まえた」


その鞭が、飛来する投擲斧に絡みつく。

ギュッ、と空気が鳴り、斧の軌道が強引にずらされた。


方向を変えた斧は、逆にガレオへと向かう。


「なっ!?」


ガレオがとっさに盾を引き上げる。

斧が当たる瞬間、空気がわずかに揺れ、スピードが急激に落ちた。


カンッ!


軽い音を立てて斧が盾に当たり、地面に転がる。


物理防御の盾はまだ起動していない。

それなのに、まるで磁石が反発するように、斧の勢いが殺されていた。


「……今の、斧の軌道は、なんだ?それも魔法か?」

ガレオがわずかに眉をひそめる。


レイの周囲に淡い光がゆらめき、空気が静かに脈動していた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直な評価をして頂けると嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ