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第332話(疑念の広場)

レイたちは洞窟の場所をマツコ村長に伝えるため、しばらくピポピ村に滞在することになった。


ただし食糧難と聞いていたため、レイ達は自給自足が出来るように近くで獣を探しつつ、レイ、イーサン、ボルグルの三人は森を進んだ。女性陣は野草を集めるようだ。


(アル、近くに獣とかいないかな?)


(この近くには居ないようです。レイ、今日来た洞窟まで戻りましょう。明日、村長たちを案内するなら、余計な詮索をされる前に目印をつけておくべきです)


(余計な詮索?)


(レイならマッピングで洞窟の位置が分かりますが、普通の人間は目印がなければ、森の中の入り口すら分かりません)


(なるほどね)


落ち葉を踏む音が森に響き、木漏れ日が地面を照らす。時折、遠くで獣の気配がして、ボルグルは眉をひそめて警戒した。


レイは切り株や岩の位置を覚えつつ、ナイフで木に印をつけていく。


「レイよ、あの黒い板は何だ? あんなもの、見たこともないぞい」

ボルグルが周囲を警戒しながら尋ねる。イーサンも興味津々で頷いた。


「ランゲを知らなかったんですね。驚かせてすみません」

「ランゲ?」


レイはシルバーホルムの廃坑での事件を簡単に説明し、犯人から没収したアーティファクトだと伝えた。


「おそらくアーティファクトの一種です。ランドゲージと呼ばれていたので、略して『ランゲ』です」

「なるほどのぅ」


「さらに、手に持って回すと、この辺りの地図も作れるんですよ」

レイは端末内に作成された地図を二人に見せた。


「すごい…地図まで作れるのですか…!」

イーサンは感嘆し、ボルグルも深く頷いた。


レイは小さく息をついた。嘘はついていない。しかし、話していないことも多かった。胸の奥に、わずかな後ろめたさが残る。


その時、アルの声が届く。

(レイ、秘密を共有すれば仲間は支えられます。しかし、知ることで仲間も危険にさらされます。それでも伝えたいのなら、私は止めません)


(…少し考える時間がほしいな)


アルの声は静かに消えた。


森を進み、やがて今朝通った森の入り口がアルのマッピングの位置と重なった。


「ここが今日、出て来たところみたいですね」

「ふむ、全く分からんわい!」

「明日も迷わないように印をつけておきます」


そう言ってレイはハンカチを取り出し、太めの木の枝に結んだ。


「じゃあ洞窟の方に行ってみましょう」


三人は森を抜け、今朝見つけた洞窟へと足を向けた。


レイが魔法で作った階段はしっかり残っていた。それを使って降りていくと、洞窟の前にたどり着いた。波は随分と引いていて、奥に取り残された魚がぴちぴちと跳ねている。


「これは労せずして魚が手に入りますね」

そう言いながら、レイたちは次々と魚を拾い上げていった。


「こりゃ大漁じゃわい」

「これだけあれば村のみんなにも分けてあげられますね」


三人は手早く網代わりの布や袋を使って魚をすくい上げていった。


「これであの村の生活が楽になってくれると良いんだけどね」

レイもそう言いながら、袋いっぱいになった魚を見て安堵した。


三人が魚を抱えて村へ戻ると、広場にいた村人たちが一斉にざわめいた。


「こ、これは……魚じゃと!?」

「どうやってこんなに……」


驚きの声が次々に上がる。


レイは袋を下ろしながら答えた。

「洞窟で獲ってきたんです。明日、みなさんをご案内します」


「洞窟で?」

「じゃあ、この魚が毎日手に入るってことか?」


村人の一人が半ば信じられないように問いかける。


レイはうなずいた。

「はい。潮の加減もありますが、かなりの頻度で魚が残されます。村の食料事情は、きっと楽になるはずです」


その言葉に、広場は一気に明るい声で満たされた。

子供たちが跳ね回り、大人たちも互いに顔を見合わせて笑みをこぼす。


「ありがてえ……!」

「備えも尽きかけとったんだ。これで春まで持ちこたえられる」


そこへ、森に出ていたフィオナたちも戻ってきた。

手には香草の束や野鳥をぶら下げていて、こちらも食料の採取に成功したようだ。


「この付近で採れた香草と、野鳥が居たのでな」

フィオナが笑顔で差し出すと、村人たちの視線が一斉に集まった。


「魚に、鳥に、香草まで……」

「まるで祭りのご馳走じゃないか!」


賑やかな声が響く中、村長マツコが一歩前に出て手を上げた。

「皆の衆、静まってくれ」


その声に、広場の笑いがすっと途切れる。

人垣を割って、数人の男たちが姿を現した。見慣れぬ顔ぶれで、背後には険しい表情をした村人たちが数名従っている。


痩せた頬に影を落とした男が前に出て、声を張り上げた。

「わしはチャソリ村の村長、アイスケと申す。実は……海池に入ってきた奉魚が、何者かに盗まれたのじゃ」


一瞬、広場は静まり返った。

奉魚とは、神に捧げる特別なものであり、ただの食料ではない。

その供え物が奪われたと聞き、村人たちは顔色を失い、ざわめきが広がっていった。


アイスケは視線を走らせ、マツコを真っ直ぐに指さした。

「マツコ村長、おかしいではないか。この島で魚を手に入れるなら、海池以外からは考えられん。なのに、この村には魚がある。いったい、どこで手に入れたものなのだ?」


背後にいたチャソリ村の者たちも口々に叫ぶ。

「そうだ、生け簀の魚を盗んだに違いない!」

「神を欺く真似をして、ただで済むと思うな!」


二つの村の人々が互いに睨み合い、広場の空気は重苦しく張りつめていった。


「そ、それは……」

マツコは言葉を詰まらせ、視線を逸らした。


アイスケが指を突きつける。

「この魚、海池の生け簀から盗んだものだろう! 贄を奪うとは、神への冒涜じゃ。どう責任を取るつもりだ!」


村人たちの間に不安と憤りのざわめきが渦巻く。

そのとき、レイが一歩前に出た。


「待ってください。この魚は、洞窟の中で獲れたものです。その池とは無関係です」


アイスケが鋭い目を向ける。

「ほう……見ぬ顔だな。どこの馬の骨か分からん者が何を言う。証拠はあるのか?」


場の空気が一気に張り詰め、両村の人々が互いに疑わしげな視線を交わした。

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