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第33話(続・シスターは男前)

在庫を抱えすぎたので3話分を一気に放出します…

ここでトマトゥルの栽培が出来なくなると、ブランドンの顔が近づいて来そうなので負ける訳にいかない。

意を決したレイは、反論を始める事にした。


「コホン、まず一つ目の、新しい作物が市場で受け入れられるかどうかなんですが……」

レイは軽く咳払いしてから言葉を続けた。


「今朝、そのトマトゥルの実を巡って大広場でちょっとした騒ぎが起きてました。露店の人やレストランの皆さんが『美味い』って食べてましたし、これはいけると思います!」


「ふむ」

シスター・ラウラは短くうなずくと、顎をしゃくって「続けろ」とジェスチャーを送る。


「次に、新しい作物をどうやって育てるか知識がないことですが……」

レイは少し姿勢を正し、きっぱりと言った。


「図書館で似た作物を調べて、育て方をまとめて連絡します」


彼も全くの素人ではない。孤児院の畑で作物を育てていた経験がある。

……まあ、農作業をサボってセルデンと木剣で遊び、ラウラにゲンコツを食らった過去もあるのだが。


「ほう?」


シスターは興味深そうに眉を上げたあと、すかさず確認を入れてくる。


「それってつまり、アンタが責任持って栽培法を調べて、セルデンに伝えるってことでいいんだね?」

「はい」


「じゃあアンタ、自分で図書館行って、調べた内容をアタシに教えな」

「はい」


「それとね、口頭で伝えたってアタシは納得しないよ。ちゃんと紙に書いて、次に残せるようにしな!」

「……はい」


「言っとくけど、紙代はアンタ持ちだよ!」

トドメの一撃が容赦なく突き刺さる。


この世界、紙は普及し始めているがまだまだ高価だ。紙一枚で銅貨五枚が飛んでいく。


レイはぐうの音も出せず、ただ黙るしかなかった。

――その時。


(グウ……の音もでないですか)

耳元で、かすかに聞こえた。


(アル……?)


(グウ……)

(グウ……)

(グウ……)

(グウ……)


(やめろ、頼む、今、その攻撃は効く! やめろおおおおお!!腹いてー!)


「ブホッ!」


思わず吹き出してしまったレイに、ラウラの怒声が飛ぶ。

「なに笑ってんだい、レイ!可笑しいことなんてどこにあるんだい!」


本日、二度目の理不尽である。


「すみませんでした〜!」

「ったく、真剣さが足りないんだよ!話を続けな」


シスターのひと言で、レイは気を取り直すと、指を折りながら続けた。


「それで三つ目。気候の問題ですが、実際に赤レンガ亭に実をつけたものがあるので、時期さえ間違えなければ育つと思います」


「ふむ。で、四つ目は?」

「えっと……あ、害虫のリスクですね。それは似たような作物の被害例を調べて、できるだけ対応策を見つけます」


「じゃあ、害虫にやられたらしょうがないって、諦めるんだ?」

いきなり厳しい角度から刺してくるシスター。


レイもついヒートアップする。


「今、育ててる作物だって害虫被害はあるじゃないですか!それと同じで、リスクは他の作物だってあります!」

「……まあ、そうだな」


一応納得してくれたようだ。残すは、あとひとつ。


「で、最後に五つ目ですが……」

レイはそこで口ごもる。


「…えっと、なんでしたっけ?」


「セルデンが手間かけた分のリターンだよ!」

(セルデンさんが手間かけた分のリターンです)


シスターとアルの見事なハモりツッコミが炸裂した。


「あ、そうでしたそうでした!」

レイは慌てて立て直すと、言葉を続けた。


「セルデンの畑の件ですが、いきなり土地を手に入れるのは難しいので――孤児院の畑の、まだ開墾できてない部分を貸してもらえませんか?」


途端に、シスターが腕を組んで考え込む。

その顔を見たレイは、ピタッと口を閉じた。


(ここで何か喋ったら怒られるやつだ……)


しばらくの沈黙のあと、シスター・ラウラが口を開いた。


「アンタがやろうとしてるのは、そのトマトゥルの実を使って商売することだろ?」

レイは小さくうなずく。


「今、孤児院の農地はね、孤児たちの食糧と、余った分を他の作物と交換するためのもんだよ。で、領主様とは一割の税でやらせてもらってる」


「それって……すごく安くないですか?」

驚いたレイの声に、ラウラは肩をすくめた。


「ああ、安いだろうねぇ。でも、それは“商売じゃないから”さ。もし売り物にするなら、また領主様と交渉が必要になる」


「……じゃあ、孤児院の畑を借りるのは無理ですか?」


レイの問いに、ラウラは腕を組んで少し考え込んだあと、ゆっくりと答えた。


「貸すこと自体は、司祭様と領主様に相談してみるよ。ただし、使うなら当然、税もかかる。売値から何割か引かれると思いな」


「えっと、それ……お願いしちゃっていいんですか?」

「じゃあ、アンタが領主様に交渉しに行くかい?」

レイは即座に首をブンブン横に振った。税金という単語だけで、背筋に冷たいものが走る。

(そんな偉い人のところに行ったら、何も喋れなくなる、しかも税金なんて無理!)


「……じゃあ、一応。さっき挙げたリスクも踏まえて、売値の交渉は赤レンガ亭の主人と自分でしてきます」


ラウラがわずかに片眉を上げた。

「アンタがやるのかい?」

「はい。自分で持ちかけた話ですから、責任持ってやります」

(それに、ブランドンさんの方が気が楽だし)


レイの声には、さっきまでとは違う硬さがあった。

一瞬、ラウラの視線が柔らかくなる。


「分かった。ただし、その交渉には私も同行するよ」

「えっ、良いんですか?」


「良いも悪いもないさね」

「分かりました。この後もう一度、赤レンガ亭に行って、交渉の日時を決めてきます!」


嬉しそうに言うレイを見ながら、ラウラは思う。


(冒険者の仕事でもないってのに、よくまあ首を突っ込むもんだね……)


けれど、セルデンのために動こうとしたその姿は、頼もしくもあった。


(何でもやればいいのさ。その中で気づきを得て、成功体験を積む。年長者ってのは、その場を整えてやる役目だよ。若者を潰すような老害にはなりたくないね)


心の中でそんなことを呟きながら、ラウラはそっと微笑んだ。


読んでくださり、ありがとうございます。

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