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第283話(防衛作業と魔法訓練)

新年早々、雪が舞い降りる中、エヴァルニアの国境沿いでは急ピッチで肥溜めの移設作業が行われていた。

今、最も危険とされるこの地域での作業は、まさに「危険・汚い・きつい」の三拍子が揃った3K現場だった。


レイも「ディグ」という初歩の土魔法を駆使し、雪に覆われた地面に穴を掘り進めていた。

しかし、凍りついた土や複雑に絡み合う根が邪魔をし、予想以上に苦戦していた。


「土よ、避けろ、ディグ!」


「これは…想像以上に骨が折れるな」


そう呟いたレイは、土魔法で雪と氷の下を掘り進めながら周囲を見渡す。

寒さのせいで地面は固く締まり、作業の労力は倍増していた。

周囲の冒険者たちや兵士たちも、次第に疲労の色を浮かべていた。


近くではイーサンが黙々と作業を続けており、冷気の中にもかかわらず額に汗を浮かべている。


冒険者たちはシャベルやツルハシを使い、兵士たちは肥溜めの移設を慎重に進めていた。

だが、移設対象の肥溜めは清潔とは言い難く、立ち込める強烈な臭気が作業の過酷さを一層際立たせていた。


「これがエヴァルニアの防衛のためとはいえ…雪の中での作業は堪えるな」


「こんな場所でも、防衛のためにはやらなきゃならないんだ」


そうやり取りを交わす兵士と冒険者。


「こんな作業で年が明けるニャんて…」


サラが尻尾を揺らしながら呟くと、リリーが淡々と答えた。


「現地調達の作戦よ。これも一つの戦い方」


掘り返された土は軍によって土嚢に詰められ、次第に積み上げられていった。

小高い防御陣地が形成され、魔物の侵入を防ぐための堅固な壁となっていく。

その様子は、まさに戦いの準備が着実に進められていることを物語っていた。



作業が終わると、周囲のテントに兵士や冒険者たちが集まり始めた。

フィオナとセリアは炊き出しを手伝っており、皆が順にスープを受け取っていた。


「今年の新年の宴をこんな国境沿いでやるなんて、思いもしなかったな」


「そうだな。場所は最悪だが、料理を作ってくれるのがこんなに綺麗な人たちなら、悪くないな」


隣同士の冒険者が軽口を交わしながら、温かなスープを口に運んでいく。


レイは具沢山のスープを飲み終えると、人の少ない場所へ移動し、静かに魔法の練習を始めた。

その様子に気づいたフィオナが近づいてくる。


「レイ、随分上達したな。それはウォールの魔法か?」


「いや、これはライズですよ」


レイは手を止め、微笑みながら答えた。


「最近、ライズで色々できるようになってきたんで、こうして並べて壁のようにしてるんです。

 初歩魔法だから、ウォールよりも早く構築できるし、使い慣れて『ライズ』って言うだけで

 魔法が発動するようになっちゃいました」


「なるほど。魔法の基本を突き詰めていくとそんな風になるんだな」


フィオナは感心したように頷き、レイの手元に視線を向け続ける。


レイは両手を広げて指先に意識を集中させた。


「指を使えば、十本まとめてライズを出せるんで、壁のようにできます。

 指を広げれば一本ずつ、槍衾みたいに出すこともできるんです」


「それ、まるで土の槍じゃないか…そんな細かい制御ができるなんて、さすがだな」


レイの指先から次々と立ち上がる土の柱を、フィオナは真剣な表情で見つめた。


「まあ、何度も練習してたら、自然とこうなったというか…」


レイは少し照れたように笑いながら、指を軽く広げて再び土を突き出した。


「その精度があるなら、いろんな場面で応用が効きそうだな」


「でも、実はちょっと行き詰まってるんです」


レイの表情がわずかに曇る。


「アルディアにいた時、本で土の最大魔法を見つけたんですけど…全然うまくいかなくて」


「土の最大魔法? 一体どんな魔法なんだ?」


「『テラ・クエイク』っていう魔法です。地面そのものを揺るがす、まさに大地を操る魔法です。

 読んだ時は『これだ!』と思ったんですけど…」


レイは言いながら少し距離を取り、深呼吸をしてから地面に向かって構えた。


「やってみますね」


「土の精霊よ、我が声に応え、大地の力を目覚めさせよ。

 大地を動かし、大河を裂き、全てを揺るがす力を解き放て…」


「テラ・クエイクッ!」


発動の構えとともに魔力を込める。

ズン……

だが、地面はかすかに震えただけだった。広範囲を揺るがすほどの力には到底及ばない。


「またか…」


レイは悔しそうに拳を握りしめる。


「その本には『自身の魔力を大地に与えよ。そして呪文を唱えよ』って書いてあったんで、

 手をついて魔力を流したりしてるんですけど…これじゃ最大魔法とは言えませんよね」


「精霊は気まぐれで、簡単にその力を貸してくれるものではないと聞いたことがある。

 もしかしたら、魔力を大地に与えるための、もっと正確な方法があるのかもしれない」


「うーん。今までの魔法なら、ゴリ押しでなんとか行けたんですけど、これは違うみたいですね」


「焦らないでくれ、レイはすでに十分強い。もっと自分の力を信じればいい」


「ありがとうございます。もう少し頑張ってみます」


こうして、防衛のための作業と万が一に備えた魔法の訓練が続けられた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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