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第19話(討伐隊、森へ)

レイがギルド前まで来ると、何組かの冒険者パーティが既に集まっていた。

この町で有名なBランク冒険者パーティで、風のブリガードや、紅蓮フレイムも来ているようだ。


(アル、魔法使いの人が来てるよ)

レイが目配せをする。


(ほう、どの方が魔法使いですか?)

レイと視界を共有しているアルが聞いてくる。


(あっちにいるパーティで、緑のローブを纏ってワンドを腰に下げている女の人が風のブリガードの魔法使いのセイランさんだ)

と言いながらチラチラと見るレイ。


(あと、その奥に見える赤い兜をかぶっている人が紅蓮フレイムのリーダーでラーヴァさん。炎の剣を使うらしいんだ。見た事ないけどね)

と、自分の剣をポンポンと叩きながら言った。


(レイ、二人に近づけますか?)

(いや、無理。こっちが一方的に知ってるだけだから。話しかけた事も話しかけられた事もないよ)


(分かりました。では森に近づいたら視覚強化を使って行動を観察しましょう)

(アル、よろしく頼むよ)


アルとの念話がひとしきり終わったレイは、ギルドの南側に荷車が四台置いてあるのを見つけ、

そこにいる職員に声をかけた。厳つい顔をしたスキンヘッドのおっさんである。


「おはようございます。バランさん、荷物の運搬依頼ってここで合ってます?」


「おう、おはようだ、レイ。ここであってるぞ。あとちょっと待っててくれ。荷物が集まったら荷車に積み込んでもらう仕事があるからな」


と言いつつガハハと笑った。バランは元Bランクの冒険者で、解体の腕を買われてギルドに入ったんだとか。

スキンヘッドで顔に傷があり見た目は怖いが愛嬌がある人である。


あと、暇さえあれば解体室でナイフを研いでいる。


暫くすると討伐隊に必要な食料や薬品、予備の武器などが集まって来たので、荷車への積み込みが始まった。


レイの他には、Eランクパーティ『星の守り手』の四人と『シャドウナイツ』という今年冒険者になった新人パーティ五人の計十人が運搬を受け持つらしい。

五人ずつに分かれての作業となったが、持っていく荷物に対して荷車の数が多い。聞いてみたら帰りにオークを積んで帰るかららしい。


(なら、馬車にしてよ)と思うレイだった。


帰りの心配をしながら荷物の積み込みをしていると、急に周りがざわざわとしだした。

レイは「何事?」と思って顔を上げると、ギルドの正面が騒がしい。


「ハーフエルフだってよ」

「獣人も来たらしいぞ」と声が上がる。


キョロキョロと辺りを見回していると、見慣れない二人組の女性冒険者がギルドの中に入っていくのが目に留まった。


「ハーフエルフと獣人……初めて見たな」

とレイが独りごとのように呟くと、隣にいたケントもつぶやくように返した。


「俺もだ。実物を見るのは初めてだよ」


この町は隣国からも離れているから、異人種自体を見るのは相当珍しい。

エルフが自分たちの文化を大切にすることが多く、ハーフエルフも同じように思われているようだ。


そのために、ハーフエルフと人族の間にはしばしば誤解が生じることがあるそうだ。この情報は、全てバランの受け売りである。


(レイ、感慨にふけってるのも良いですが、そろそろ出発するようですよ)

とアルが声をかけてきた。


レイは「分かった。」と言うと、ギルドの方に向き直る。


ギルドの前では、木箱の上に乗ったギルドマスターが、冒険者に指示を出し始めた。


「みんな、出発の準備は整ったようだな。緊急に呼び出して済まないが、ドゥームウッドの森を抜けた南の先に

オークが集落を作っていることが判明した」


「商業ギルドは街道封鎖に踏み切ったようだ。そこで我々冒険者はオークを殲滅すべく討伐に向かう。オークの数だが、先遣隊の話だと約六十匹ほどの集団で、群れの中に3メルを超えるジェネラルが1体確認されている」


「討伐はBランクが行う。

Cランク以下はジェネラルを見つけても手を出すなよ!」


マスターは、ここまでは良いかと周りを見回し、また話し始めた。


「で、次に作戦だが、森を迂回した後、北東側と北西側のチームを作って集落に挟み討ちを仕掛ける。この時期は森側が風下になるので気づかれにくいのと、オーク共を町に近づけないようにするためだ!」


「北東側からは風のブリガードが先頭に立って進んでくれ、北西側は紅蓮フレイムが先頭だ。それとCランクとDランクのパーティはなるべく同数になるように分ける。今からギルド職員がチーム分けの指示をするから、それに従って北東側と北西側に分かれてくれ」


「あと、荷物運搬係は討伐部隊の後ろからついて来てくれ。部隊が配置につく間に荷物を降ろしたら後方で待機だ!」


「くれぐれも前に出てくるなよ。あとはバランに従って動いてくれ。とりあえず以上だ。何か質問はあるか?」

と捲し立てるように言った。


「マスター、怪我人が出たらどうするんだ?」

冒険者の一人から声があがる。


「ポーションはたっぷり用意してある。怪我をした奴は後ろに下がって手当をしてくれ。ただし、有料だがな!」

と言いながら親指と人差し指で輪っかを作った。


「何だよ、有料かよ!」

「当たり前だ。だから無茶をして怪我するんじゃないぞ!じゃ出発だ!」


ギルドマスターの話も終わり、冒険者達はオーク討伐のためドゥームウッドの森に向かって出発した。レイも荷車を押しながら後をついていく。


すぐ前には朝にチラッとだけ見えたハーフエルフと獣人の冒険者も歩いている。


ハーフエルフは肩までかかる栗色の髪にエルフの特徴である耳が見える。耳は人間のものよりもわずかに尖っていて、エルフの血を受け継ぐ証拠となっている。

少し細身の体型だが腰には短剣、肩には矢筒が見え隠れしている。歩く姿勢は常に警戒を怠らず、周囲を見渡しているように見えた。


一方の獣人の後ろ姿は、女性とは思えないほど力強さが際立つ。

背中には両手剣がクロスに装備され、朱色の短い毛皮が筋肉の動きに合わせて滑らかに揺れていた。

鋭敏に動く耳と絶えず動く尾からは、獣特有の俊敏さが感じられた。


「バランさん。あの前を歩いてる二人もセリンのギルド所属なんですか?」

ケントがバランに質問した。


「いや、あの二人はグリムホルトから来た商隊の護衛だったそうだ。その完了報告でギルドに来たところをマスターに捕まえられたみたいだぞ!」


「なるほど、初めて見る人だったから気になってました!」

「二人共、あの若さでCランクだそうだ。片方は二つ名持ちらしいぞ。声をかけても構わんが、玉砕覚悟で行けよ。ガハハ」と笑うバラン。


「行きませんよ。見かけない人が居たから気になっただけです」

と焦るケント。


今回の緊急依頼は、Cランク以上の冒険者にとって半強制依頼になるらしく、何の理由もなく討伐に参加しないでいると、ギルドの貢献ポイントが減らされるとセリアが言っていた。


高位冒険者になると大変なんだなとレイは思った。


読んでくださり、ありがとうございます。

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