23 マリサと日本
日本は、世界的に見てダンジョンに対応できている国だった。この二十年程で、モンスターの核を利用した発電を開発し、魔法を国民の大部分が身につけ、医療体制を整えた。
他にももっと優れたダンジョン対策をしている国があるかもしれないが、まだ他国に目を向ける余裕はどこの国にも無かった。情報が入ってこない以上、高校生たちでは世界情勢など知る由もなかった。
国同士の貿易がほとんど廃れてしまったので、日本は一時食糧難に陥ったが、ダンジョンが落とす恵みと、第三次産業から人員が流れて増えた農業従事者のお陰をもって持ち直していた。
製造業はダンジョン向けの物が多く作られたが、モンスターの核を利用した車や家電製品など、現在の最善を目指すメーカーも多数台頭し、政府主体というよりは、生活環境の向上を目指す職人集団が主体となった経済活動のリーダーシップが目立った。
モンスターの核を利用する時点で、日本のメーカーは異世界への進出も有りだと判断したらしく、政府やギルドへの働きかけも多くあったようだ。
前田が家族への土産物に、と持ち帰っただけのことはあって、アパレル業界、特に肌着関連は、既にマリサへの業務展開を念頭に置いているらしい。
一方、政府や外交的な観点からいうと、やはりバランスを重視しているとのことで、フェアトレードを心がけるべく、落とし処を先に考えてるそうだ。
確かに、こちらの製品を多数持ち込んで、マリサに失業者や、生活困窮者がたくさん出ても寝覚めが悪いだろう。
前田が連れて行った外交関係者たちは、マリサの生活のリサーチを行って、経済格差をなるべく作らない方向での外交のたたき台を作っているところだった。
最終的にはやはりやってみないと分からない、というか、交友を持ってから初めて分かるお互いの違い、ということになるのだろうが、ひとまず生活魔法と、建築工法の基礎、治癒魔法と薬草の使い方、といった辺りがマリサの方の水準が進んでいるようだった。(ポーションは別として)
生活魔法は言わずと知れた、「クリア」に「ウォーター」「ファイア」といったライフラインを使用せずに生活を便利にする魔法だ。
建築は、先ず基礎工程でマリサでは重機を使わない。
重機自体がないので当たり前だが、それを使わずして、立派な城や教会、寺院を建てているのだ。土魔法が根付いているのだろう。
治癒魔法に関しては、ちょっと特殊だ。簡単な治癒魔法なら日本の方が使い手が多かった。ただ、他の追随を許さない使い手、というのはマリサの方が凄かったのだ。この人たちは、教会に囲われていることが多く、日本人が習うことが出来るかと言うと疑問符がついた。
製薬の点では本来、日本の方に軍配が上がるのだが、いかんせん、海外からの輸入品が手に入らない。原材料が手に入らないために、日本もダンジョンからの薬草に頼っているところは否めない。
その為、マリサの薬師に師事して薬草の使い方を学ぶ必要があったので、薬学部の教授連をマリサに送る計画も立っていた。




