20 異世界と前田と 3
前田はあっちはここほど便利じゃないけど、その分魔法と魔法薬が発達してて、けが人は少ないよ、と京香たちに話した。残念ながらお金がかかるし、材料を集めるのにダイバーに依頼を出したりするから、結構手間でね。そういう手順はこっちでも大変なのは変わらないかな。まあ住めば都ってっていう言葉を知ってる?俺にとってはもう向こうが都だよ。
衣類とかはこっちの方が着心地が良いから、嫁さんに土産だ、と言って前田は、また笑った。それじゃあそろそろ行くからまたな。手を振って前田はダンジョンの奥に歩いて行った。
尾形は前田の後ろ姿に向かって聞いた。
「向こうではどんな怪我も治るんですか?」
前田は振り返って、そんなのは金と運次第だよ、と言った。
尾形はそれを聞いて考え込んでいた。妙にみんなが無口になったダンジョンアタックだった。集中力に欠けるので、怪我をしない内に帰ろうか、ということになって受付に向かった。
ダンジョン近くの個室のある喫茶店で、軽食をとりながらマリサについて話した。和哉と寺田は、マリサのダンジョンで取れる薬草について。尾形と女子たちは治癒魔法の発展に関して。
京香たちは進路について、話し合った。和哉は薬学に進むことはそのままだが、やはりダイバーを続けてマリサの情報を集めることにした。
寺田と尾形は、そのまま治癒魔法を育てて、医大の治癒魔法科を目指すことにした。
「尾形はマリサの治癒魔法を受けて、サッカーをもう一度やるんじゃなかったのか?」寺田は、尾形に言った。
「もう既にサッカーをやめて一年以上経つんだ。未練はないと言い切れないけど、どっちかと言うともう治癒魔法の方に気持ちは切り替わってるさ」はっきりと笑顔で尾形は言い切った。
「真奈ちゃんと里ちゃんは、進路どうするの?」京香が聞いた。
「私は簡易鑑定を取ったからスキルを育てて、ギルドに就職もありかな、って考えてるのよね」真奈が答えた。
「え、真奈ちゃんも?私もちょっと考えるのよね、で、いつかマリサに行けるかもしれないよね?」里が思い切ったことを言った。
その場にいたものがすべて驚きの声を上げた。
「そんなに驚くこと?みんなだって、異世界に興味はあるでしょ?行く機会があれば一回くらい行ってみたいよね?だからギルドに勤めたら、チャンスがあるかもしれないじゃない」
確かに外交官になるとか、経済活動でマリサに行くのを目指すとかよりは、京香たちにとっては現実的に手が届きそうな気がした。
和哉は、里の話に衝撃を受けた。そうだ、そうだな。田中DP㈱がマリサへのポーションの提供をしたって前田さんが言ってたじゃないか。やっぱりこのまま薬学から田中DP㈱に就職を目指したら、マリサにも行けるかも…
和哉の思考は、ポーション作り〜マリサに行ってそこでの薬師という仕事にまで、一瞬にして走った。
そんな会話をしつつも、彼らはまだ高校生だったので、まずは明日の授業で当たるであろう数学の宿題について、に話題は流れていったのだった。




