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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア編

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第七十一話、ハイムヴァー宮殿潜入

 

 ケイタらが宮殿を出た――それをセラが聞いたのは、招待された晩餐用の衣装に身を通していた時だった。

 赤いワンピースタイプのドレス――個人の希望を言わせてもらえるなら青が好みなのだけれど――、侍女らに身だしなみの整えてもらっていたセラに、リーベル王子は告げた。


「傭兵たちは、君を置いて去った」


 さも同情するような口調だった。セラは侍女らの行為も構わず、冷淡な声を出した。


「彼らが自分から職務を放り出したと? ありえません」

「いや、実際そうなのだ。……彼らは報酬を要求し、それを受け取って屋敷を去った」


 そうだなリンゲ? ――王子が視線を向ければ、親衛隊隊長はいかめしい表情をピクリとも動かさずに首肯した。


「はい、殿下」

「……あなた方が、お金を渡して無理やり追い出したのでは?」


 セラは容赦なかった。

 ケイタたちに限って、セラに無言で去る理由などあるのだろうか? 傭兵ではあるが、報酬を度外視して協力を申し出てくれたのだ。……お金をもらえれば、もうこれ以上セラの旅に同行する必要がないというのか。

 それはありえない。

 

「傭兵の考えることなどわかるものか」


 リーベル王子が、傭兵を毛嫌いしているのが口調からわかる。


「所詮、金のことしか頭にない奴らだ」

「彼らのことを、何も知らないくせに――」

「彼らのことなど、どうでもいい」


 王子はきっぱり言い捨てた。


「肝心なのは君のこれからのことだ」

「私のこれから……?」


 セラは眉を吊り上げた。

 そうだ、と王子はセラのドレスグローブ付きの手をとる。


「セラフィナ。とても大切な話だ。……私と、婚約してほしい」

「!?」


 突然の申し出。心臓が一瞬止まった。


「前から、君を妻に迎えたいと思っていた。リッケンシルトとアルゲナムは友好国、まして隣国だ」

「……ええ」

「今回起きたことは、本当に痛ましい。魔人の攻撃によって国を無茶苦茶にされた君の辛さを思えば、私は憤りに身が震え、今すぐにでも魔人を討伐しに行きたい気持ちだ」


 リーベル王子の表情は同情心に溢れ、その艶かしい息遣いと相まって心を揺さぶる。王子が心から心配している、そう思うに疑いの余地を抱かせないほどに。


「取り戻そう。君の国を」


 王子は囁いた。セラの心にすっと、その言葉が染み渡る。

 アルゲナムを取り戻す――その言葉をどれほどセラ自身が望んでいたことか。


「君が、私の、いや僕の気持ちに応えてくれたなら――」


 リーベル王子は片膝をついて、セラを見上げる。王女にかしづく騎士のように。


「僕はリッケンシルト国の総力を上げて、アルゲナムを奪還することを誓おう。君のために――君の故郷と民のために」

「民のために――」


 そう言われてしまうと、セラの心は大きく傾くのである。

 レリエンディールによって滅ぼされた聖アルゲナム国がどうなっているのか、セラにはわからない。皆殺しにされたのか、それとも魔人らの支配を受け、過酷な条件下での生活を強いられているのか――それを思うと、居ても立ってもいられない気持ちにさせられる。

 魔人は人間に容赦ない。 


 すぐに国に戻りたい。


 もし民が今なお苦しめられているのなら、一刻も早く助け出したい……!


「ライガネンに行っても」


 リーベル王子は言った。


「アルゲナム奪還のための兵を派遣するのに時間がかかるだろう。だがリッケンシルトなら、僕の国ならすぐにでも駆けつけられる。隣国の、友好国の民だ……僕は助けたいと思っている」


「リーベル王子……」


 セラは目元が緩んだ。

 親身になってくれている。苦しい気持ちを汲んで、力になろうとしてくれている――その好意を目の当たりにし、感激している自分がいた。


「僕と、結婚してくれ。セラフィナ」


 王子は言った。


「そうすれば、アルゲナムを取り戻す戦いの正当な大義名分ができる――君の、力になれる」



 ・ ・ ・



 月が雲に隠れているのは、慧太けいたにとっては都合がよかった。

 夜は、オレの世界だ――と心の中で呟いてみて、厨二臭くて思わず苦笑する。

 王都は寝静まり、民家の明かりはほぼ消えている。川辺の町シファードの表通りのほうが明るいくらいだ。


 遠くで野犬が吠える声が聞こえる。静かな夜だ。


 その建物の間を、すっと黒い影が通過する。

 自らの影に身を沈めて移動するは、シェイプシフター。

 その黒い身体を地面すれすれの高さまで圧縮すれば、もはやほとんど見分けがつかなかった。

 宮殿を囲む壁に到達する。慧太――黒い水溜りのような姿のまま、一度壁を見上げる。高さは八メートルほど。


 慧太はそのまま身体の粘着性を操作することで、垂直に壁を登る。壁と接触する部分を移動させることで、みるみる壁を登り、歩廊ほろうと呼ばれる防壁上の通路に達した。

 見張り兵は……ランプを持って移動している。自ら存在を明かしてくれるので遠目からでも判別しやすい。


 慧太はさっさと歩廊を降りて、壁の内側を垂直に降りていく。

 傍目から見ると、黒い水溜りの塊が滑っている風に見えるが、慧太の視点で見れば、頭から地面に向かっていくような状態だ。……慣れない頃は、結構怖くて降りるのに時間がかかったものだ。

 地面に先端が設置――した時には水溜り内での慧太の視点が移動し、身体のほぼ中央部分から周囲の景色を確認する。


 周囲にリッケンシルト守備兵の姿はなし。

 慧太は――黒い水溜り体は走る。

 つつーと、地面を滑るような感覚だ。


 二足の足で走るより音がしないそれは、かなりの速度を出すために訓練を重ねた。……一方でユウラやリアナからは『怖い』と気味悪がられていたり。


 宮殿の庭をよぎる黒い塊。それは誰にも見咎められることなく、宮殿の壁に到達した。


 ――ええっと……。


 慧太は昼間訪れた宮殿内部の構造を思い出す。

 行ってない場所だらけなのだが、宮殿の形や通った通路、玉座の前、部屋の場所などは記憶している。これと外観から予想できる構造と照らし合わせれば……迷子にならないという寸法だ。


 壁に沿って移動しつつ、適当な窓を見つけると、その隙間のサイズに合わせて、内部への侵入を果たす。


 楽勝だ。


 慧太はその身体のまま、真っ暗な部屋を横断。一センチ(テグル)にも満たない扉の隙間に身体を滑り込ませ、廊下へ出る。不定形なシェイプシフターの面目躍如だ。


 夜遅くのこと。必要最低限の明かり以外はなく、薄暗い。

 石材で作られた通路。数メートル(ミータ)間隔で柱が立ち、その柱をアーチが結んでいる。


 通路を真っ直ぐ進めば――先の角から足音がした。

 一人、いや二人だ。

 ぼんやりと明かりが漏れているところから見て、ランプを手にしているのだろう。


 慧太はとっさに周囲を確認――隠れられる場所なし。

 いかに薄暗いとはいえ、ランプを持ってる人間が通れば、床の黒い水溜りのような『染み』に気づくだろう。


 ……こういう時は――


 慧太は壁に寄り添うようにくっつく。壁を見上げ、一呼吸。

 そこへ、角を曲がってリッケンシルトの兵が現れた。


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