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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
シファードの町編

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第五十八話、信用と代償

 

 黒馬アルフォンソの背に揺られるセラと共に慧太けいたは宿に戻った。

 アスモディアが部屋を吹っ飛ばしたおかげで、一階のバーで食事をとりながら話していると、ユウラと当のアスモディアがやってきた。……アスモディアは戦闘で服をほとんど失っていたはずが、黒いローブ姿だった。

 ユウラは、セラに告げた。


「今夜、町を出て対岸に渡ります。それまでゆっくり休んでください」

「夜ですか?」


 セラは顎に手を当て思案顔になる。


「向こうへ渡る方法を思いついたのですか?」

「ええ、そういうことです」


 ユウラはちらりと、背後に控えているアスモディアを見た。セラもそちらを見たが、すぐに視線をはずした。……つい先ほどまで殺しあった敵なのだ。いきなり味方になったなどと言われても素直に頷けるはずもなかった。


「とりあえず、僕が新しい部屋を宿に手配してもらいます」


 ユウラはそういうと、宿のフロントへ行き手続きをとった。戦闘があった後だから、面倒がなければいいが、と思ったが、彼の交渉術ゆえかすんなり部屋をとれたようだった。

 セラとリアナと別れた後、新しい部屋には慧太とユウラ、そしてアスモディアの三人となった。


「なんでコイツも?」

「彼女をセラさんと同じ部屋にすると言ったら、あなたは賛成しますか?」


 ユウラが事実を淡々と告げれば、慧太も黙らざるを得なかった。セラとアスモディアを同室などありえない。彼女もお断りだろう。


「とりあえず」


 慧太は扉にもたれた。暗に納得するまで部屋の外には出さないの意思表示である。


「説明して欲しいんだが」

「もちろん、何なりと聞いてください」


 ユウラは席に着くと頷いた。

 アスモディアは青髪の魔術師の横に立ち腕を組んだ。魔人女もまた、こちらに警戒心を抱いているようだった。


「本当に大丈夫なんだな?」


 この魔人女を傍に置いて――その意味を含ませて。


「ええ、彼女はセラさんを攻撃できませんし、傷つけようとすると」


 ユウラは、アスモディアを見やる。正確には、彼女の首に光る黄金の首輪を。


「途端に彼女自身の動きを封じ、苦痛を与えます。たとえ僕が見ていなくても」

「……」


 アスモディアは沈黙を守っている。戦闘時の高揚した表情、誘惑の時の魅惑の表情――それらとは別の冷静とした顔。……黙っていると知的美人な雰囲気を感じさせるのは気のせいだろうか。


「本当に、彼女をあんたの奴隷にしちまったのか」


 さすがに奴隷発言には思うところがあったのか、アスモディアは視線をそらした。……まるで負けた獣が顔を背け下を向くように。

 ユウラは微笑んだ。


「奴隷、使い魔、召喚生物……まあ、言い方は色々ありますが、彼女が僕と契約をしたのは間違いないですね」

「契約魔法、だったか……?」

「そうです。僕が古代の魔法を研究している探求者であることは――」

「ああ、知ってる」


 慧太は頷いた。視線はアスモディアへ向く。


「契約ってことは、アスモディアは同意したってことだよな?」


 断ることもできたはずだ。……それとも掛けられると強制的に契約させられる類の魔法だったのか?


「……契約しなければわたくしは死んでいたわ」


 アスモディアは控えめな口調だった。


「あの時、わたくしは生きたいと願ってしまった。……苦痛に負けて、マスターの不老不死という言葉につられてしまったのよ」

「不老不死……?」


 慧太は眉をひそめた。聞き違いか……?


「彼女は契約によって、その身体を作り変えられました」


 ユウラは机に肘をつき、手を組む。


「アスモディアは、今や老いを逃れ、死ぬことすらない。僕が消せばいつでも消えるし、呼べばすぐに現れる身体になっています。そういう魔法なんです、この契約魔法は」

「召喚魔法のたぐいか」


 何となく昔遊んだRPGを連想して呟けば、ユウラは愉快そうに笑った。


「本当に君という人は、無知に見えて真髄を突いてくるから面白い。あなたのおっしゃるとおり、召喚系の魔法で間違いはないです」


 そこまで魔法学に詳しいわけでもないが……まあいいか――慧太は頷いておく。


「それで、こうも大人しいのか」


 性格まで捻じ曲げるような魔法なのだろうか、と思う。セラではないが、何となく面白くなかった。敵対していた魔人とはいえ、何故そう感じるのか。


「あ、彼女は猫被ってるだけですよ」


 ユウラはそんなことを言った。


「性格まで変えるようなものではありませんから。……ただ、これまで敵対していたわけですから、味方になりましたよろしく、なんて気安く言えないだけです」

「……それは猫被ってるとは言わないと思うよ」


 慧太は唇をひん曲げた。


「じゃあ、アスモディアは、やっぱこの状況に納得してないってことか」

「いいも悪いもないでしょう」


 赤毛の女魔人は胸を抱え込むように腕を組む。


「今ここで槍を突き立てようとすれば、わたくしはその瞬間に灰となって消えてしまう。……それは勘弁願いたいというのが本音ね。七大貴族の一翼を担うわたくしが、灰になって滅びるなんて末路、到底受け入れられないわ」

「……」

「従属が条件で生かされているのだから、従うしかないわ。契約してしまった以上、わたくしはマスターの下僕、操り人形、尖兵――」

「……なんでお前は、そういう言葉を言う時に嬉しそうなんだ?」

「は? 別に嬉しくなんかないわ。……そんな顔してた?」


 頬が紅潮して思わずアスモディアは押さえながら言うのである。ユウラが咳払いをすると、アスモディアも背筋を伸ばした。


「正直に言えば、気持ちの整理はついていない。ええ、そう簡単につくはずがない! けれどせっかく拾われた命。捨てるのも惜しいわ」

「……」

「心配しないで。お姫様には手を出さないわよ。……出したくても出せないんだけど」

「契約の存在となってしまった以上、その契約は無視できない」


 ユウラが念を押すように言った。「はい、マスター」とアスモディアは恭しく一礼した。彼には忠誠を誓った臣下のような態度をとるのか――


 信じていいのだろうか。

 慧太は考える。ユウラは大丈夫と太鼓判を押した。アスモディアの言い分も、わからなくはない。

 が、やはり信じる信じないは別なのだ。


「オレはユウラのことは信用している」


 慧太は、友人である魔術師を見やる。


「そのあんたが大丈夫だって言うなら、そうなんだろう。傭兵団……ドラウト親爺の仇ではあるが」

「気持ちの整理がつかないのは慧太くんも同じ、と。……何なら、ドラウト団長や団員の仇として、彼女を殺しますか?」

「は?」

「敵討ちがしたいのなら、一回分殺すのもありです」


 アスモディアの顔が強張る。ユウラの冷淡な申し出に、慧太は少し苛立った。


「彼女は不老不死なんだろう? どうせ殺せないのに、そんなことして何になる?」

「感情の整理ですよ。あなたの」


 ユウラは顔を傾けて、じっと慧太を見た。


「再生するとはいえ、彼女にとっては痛いですし、正直魔力を供給している僕にも少し痛みが来るのですが、そこは我慢しましょう」

「おいおい、いまさりげなくヤバイこと言ったか!?」


 慧太は扉を離れ、ユウラのもとへ歩み寄る。


「何か? アスモディアを傷つけるとあんたにもその痛みがくると?」

「そういいましたね、はい。正確には彼女が死ぬほどの苦痛を受けた場合、少量の痛みが来る程度なんですけどね」


 ユウラは淡々と言ってのけた。


「契約の代価ですよ。彼女は魔力存在で不老不死になりましたが、その魔力を維持しているのは、僕が魔力を供給しているからです」

「……大丈夫なのか、それ」


 ユウラの身を案じれば、青髪の魔術師は笑った。


「余裕です。魔人の十や二十」

「そ、そうか。それならいいんだけど……」


 参ったな――慧太は自身の黒髪をかいた。

 自分の魔力を消費し、かつアスモディアの受ける痛みの程度によってはユウラも被害を受けるわけで……。

 彼にとってもデメリットがある。それでもなお大丈夫と彼は言うのだ。


「あんたがそこまでの覚悟でアスモディアを置いておくってんなら、もうオレは何も言わねえ」

「ありがとう慧太くん」


 ユウラは素直に礼を言う。珍しいこともあったもので、慧太も何故か照れてしまうのだった。


「リアナは、まあ警戒するだろうけど問題ない。あとはセラだけど――」

「仮に彼女がアスモディアを背後から刺そうとも」


 ユウラは席を立った。


「殺せないわけですから、そのうち感情にも整理がつくでしょう」

「それもそうか」


 慧太は納得するのだった。

 それで――とユウラは、バッグから紙切れを一枚取り出すと、机に広げる。慧太にインクを出すように言うと、羽根筆をとった。


「そろそろ、川を越える話をしましょうか」

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