表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/263

43話 三等星



「だから……。其れが分かんないんだってば!」


 シモンの思考が絶対的に理解不能なタデウスは、より顰めっ面となり、全てのダートをシモンに放った。シモンは手にしていた〈恐怯(フルヒト)〉の光の矢で、正面から向かって来た黒い矢を全て撃ち落とす。


「生きてるボクには、希望が持てる。小さい輝きだったとしても、確かにあるなら、ボクはそれを糧に生きられるし、何があっても諦めない。例え、またあんな出来事に直面しても、今のボクには勇気をくれる人がいるから絶望しない。その人が隣にいてくれれば、ボクは恐れず絶望と向き合える」


 シモンは、ヤコブの名前が刻まれた右腕に触れた。今もまだ、思いの温もりを感じる。


「そんな人、何時居なくなるかも分からないのに。希望とか、君より先に死ぬかもしれない人とか、そんな不確かな物を信じるよりも、今すぐ得られる安寧を求めた方が生産的だよ」


 タデウスは再び黒いダートを複数作り出し、シモンに狙いを定め一気に放つ。放たれたと同時に、シモンは走って避けながら撃ち落とす。撃ち漏らしたダートは、ガタガタの地面に突き刺さっていく。


「それに。たぶん、もう遅いよ」

「何が遅いの?」

「あの人たちに、痛みは教えられない気がする。きっとあの人たちは、そんなの忘れてるんだ。スマホの写真を整理するみたいに、いらない感情はゴミ箱に捨ててるんだよ」


 反勢力と味方の男たちを見遣るシモンの目は、切なさと哀れみを帯びていた。


「人間が持ってる物なんて、所詮は全部ゴミだよ。君を襲った奴等が痛みを捨てたように、此の世から要らない物は結局、最後には排除されるんだ。ぼくらのようにさ!」


 タデウスはさらに多くのダートを出現させ、矢継ぎ早にシモンを攻撃する。シモンは回避行動をしつつ、光の矢で黒い矢を相殺していく。


「君の其の選択は、絶対に後悔するよ。使徒の役目なんて放棄して報復の道を選んだ方が、楽に生きられたって」

「ボクがあの大人たちと同じだったら、なんの迷いもなくそれを選んでた。でもボクは、あの大人たちとは違う。それは誰も……自分のことすら信じないのと同じだから!」

「面倒臭い生き方。もっと本能に素直になれば良いのに」


 タデウスは再び黒いダートを複数作り出し、シモンの両側から挟み撃ちを狙う。


「あとで後悔するかなんて、どうでもいい。今はただ、安心していられる場所があるから、それでいいんだ!」


 シモンの思いが流れ込んだ〈恐怯(フルヒト)〉が、希望の光で輝く。そして、上に向けて放たれた光の矢は流星のように分裂し、ダートを一つ残らず撃ち落とした。


「君が理解できないよ」


 タデウスはまた黒いダートを出現させたが、シモンは放たれる前に全てを消滅させた。


「わっ!?」


 自身のすぐ側でダートが破壊されたタデウスは、目を瞑り一瞬怯んだ。シモンはその隙きに、もう一度、恐れを打ち砕く力を鈍色の空に向けた。


「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」


 光の矢が絶望の空に放たれると同時に幻は消え、矢は流星のように真っ暗な空間に昇る。

 シモンは、自分が帰る場所への道を開いた。




 ミイラのようにシモンを巻いていた帯の影が散り散りに破れ、解放されたシモンは地面に落下する。


「シモンッ!」


 ヤコブはシモンの身体を受け止めた。シモンは、確かに感じる安らぎの温もりで目を開く。


「ヤコブ……。ただいま」

「大丈夫か?」

「うん。平気だよ。ヤコブの温もりを感じて、勇気もらえた」

「ごめんな。助け出してやりたかったんだけど」


 シモンは首を振り、ヤコブに微笑を送る。


「ううん。ヤコブの思いは伝わってきたよ。ありがとう」


 二人は手を繋ぎ、心が強く結ばれていることを喜び、お互いに感謝した。


「あーあ。また失敗しちゃったー」


 シモンを堕とすことに失敗し影から姿を現したタデウスは、すっかり無気力状態に戻っていた。


「ガープ。其方(そっち)はー?」


 タデウスがガープの状況を伺うと、なんと、ユダたち三人に追い込まれ降参の証に両手を挙げていた。


「主も失敗したか。儂も此の通りだ。どうだろう主。儂も元々、此奴等(こやつら)をどうこうしようとは考えておらん。主が良ければ、此の儘(このまま)退散するが」


 そう言うガープだが、頬など数ヶ所に傷は見受けられるが、鎧もまだ状態はよく、追い詰められるほどのダメージを受けたようには見えない。

 タデウスは、ガープに疑念の目を向け尋ねる。


「ガープ。本当にやられたの?」

「見た(まま)だが」


 両手を挙げ降参しているが、全体的に見ても圧倒的にガープが優勢だったことが一目瞭然だった。それなのにガープは、戦闘継続を拒否した。反撃する余力は、使徒よりも遥かにあるというのに。

 しかしタデウスは、使徒を倒す意志はないと言うガープに理由の追及はしなかった。


「ぼくも、もう気力無いしなー……。そーだねー。帰ろっかー」

「おい。本当にこのまま帰るつもりか?」


 腹の虫が疼くヤコブはタデウスを睨み付ける。


「そう言ってるじゃん。ガープも降参してるし、君達ももう戦いたく無いでしょ」

「だからって、見逃すわけないだろ!」


 ヤコブは〈悔謝(ラウエ)〉で斬撃を繰り出した。しかし、タデウスは鋼鉄のような影の壁で防御し、そのまま包み込まれ、黒い球体の中に身を隠されてしまった。


「もうやる気無いからー。だけど。また機会が有ったら、来るかも知れ無いね。『人類平等』のために。エスケープするかもだけど」

「『人類平等』?」

「て事で。帰ろ、ガープ」

「有意義な時であった。再び相見える事が有れば、宜しく頼むぞ」

「おい、待て!」


 喚ばれたガープの姿は消え、タデウスを包んでいた球体も瞬く間に縮小し消え去った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ