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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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40話 劣勢と焦燥



 ガープの“欺瞞の王”の能力により、偽者の仲間と戦うことになってしまったユダたち。偽者とわかっていても、本物と見間違う姿に全力を出し切れずにいた。


「くそっ! 戦いづらい!」

「偽物だってわかってるけど」

「ちょっと、傷付けるのためらうな!」


 攻撃は放たず刃を交えるだけに留めていて、その躊躇が時間だけを消費していた。


「おい、ヨハネ! お前のハーツヴンデ、リーチあってずりぃぞ!」

「それが僕のなんだから諦めろ!」

「そういうヤコブは、バカ正直にストレートな攻撃だな!」

「んだとペトロ! せめて正々堂々って言え!」

「ユダ! 僕の足元ばかり狙わないで下さいよ!」

「でも。まず敵の足を狙った方が、倒しやすくない?」

「そこは何か言い訳して下さい!」

「ペトロくんの攻撃も、なかなか鋭いんだよね。でも反撃したくないし、どうしたらいいかな?」

「それを本人(オレ)に聞くな!」


 おかげで、仲間同士で不満が出る始末だ。ガープはそれを、機嫌が良さそうに悠々と傍観している。


「まるで踊っているようだなぁ。見ていて愉快だぞ」

「おい! 俺ら、やつの娯楽になってるぞ!」

「オレたち、遊んでるつもりないんだけど!」

「でもみんな。()()()()()()()()()?」

「そうですね」

「大体は」

「それじゃあ。お互いに恨みっこなしで」


 偽者の仲間に翻弄されていた四人だったが、きっぱりと切り替えて反撃に転じ、それからはあっという間に偽者たちをバッサバッサと倒してしまった。

 ガープは俄に驚いた。


「なんと。術が破られるとは」

「おいおい。俺たちをナメてんのか」

「私たちは、背中を預け合ってきた仲間だよ?」

「仲間の癖くらい、なんとなく把握してるよ」

「そういうことだ」


 これまでの戦闘中で、お互いのハーツヴンデの特徴や扱い方の癖は見続けてきたので、隙きや弱点を知っているのは当然だ。それを聞いたガープは、「わっはっはっはっは!」と哄笑した。


「そうか、成る程。(いや)。確かにそうだな。仲間ならば、互いの癖を知っているだろう。これは済まなかった。謝罪しよう……。では。仕切り直すとするかのう」


 ガープは、“武の王”の能力を再び発動させる。背後の空間が何ヶ所も渦を巻いて歪むと、その異空間から剣や槍などが現れ、ミサイルのように使徒に向かって飛んで来た。


「くそっ!」

「ぐ……っ!」


 素早い回避やハーツヴンデで弾いたりと少しは防げるが、その数に対応しきれず身体にいくつも傷を負う。


(くそっ。防御ができれば……!)

炎闇海(メーア・フランメ)!」


 ガープは間髪を入れず“魔術の王”の能力も発動し、青い炎でタデウスのテリトリーで覆ったアレクサンダー広場全体を覆い尽くす。


「炎の海から脱出しなければ、飲み込まれるぞ!」


 炎の海から、龍の姿をした火柱が上がる。それを見たペトロはトラウマをフラッシュバックさせ、炎に包まれたクリスマスピラミッドを重ねた。


「あ……」

「ペトロくん?」

(もしかして。この炎を見てトラウマを……)


 ペトロのその異変に気付いたユダは、戦闘中に関係なく手を握った。


「大丈夫だよ」


 ユダに声を掛けられたペトロは、繋がれた右手から温かいものが流れ込んで来るような感じを覚え、少しずつ心を落ち着かせた。

 一方でヤコブは、左腕に違和感を覚えた。嫌な予感がして袖を捲って見ると、刻まれているシモンの名前が薄くなってきていた。


(シモンの名前が……! まさか。棺の中のシモンに、何かあったのか!?)


 ヤコブは、シモンの名前の上から左腕を掴んだ。


「……無事だよな」

(タデウスじゃなくて、自分自身と戦わなきゃならないって言ってたよな。お前は自分に負けるようなやつじゃないって、信じてていいんだよな!?)


 再びトラウマと戦うことを覚悟していたシモンを信じると決めたが、刻まれた名前が急激に薄くなり、シモンが危険な状況なのではと憂慮し、胸が騒ぐ。わかっていても、何も手出しができない状況にもどさかしさを募らせ、焦燥感が燻り始める。


(わかってるけど……)

「ただ信じて待つことはできねぇ!」


 ヤコブは、青い炎の海を〈悔謝(ラウエ)〉で斬撃を繰り出して道を開き、タデウスに突進していく。


「ヤコブ!?」


 だが。ヤコブの行く手に、グレートソードがコンクリートに突き刺さって妨げる。


「何処へ行く。儂との戦闘中ではないか」

「俺はお前より、あのダラダラ野郎をぶっ倒したいんだよ!」

「儂を無視して、我が主に近付けると思うか?」

「じゃあ。テメェをぶっ倒せばいいんだな!?」


 冷静さを失い始めたヤコブは、一刻も早くシモンを助けたい一心で単身ガープに突っ込んで行く。


「ヤコブくん!」

「ぅおらっ!」


 ヤコブは、ガープの頭上から斧を振り下ろす。重厚感のある金属音とともに、防御した大剣と刃が交わる。


「テメェを倒せばタデウスはやめんのか!?」

「止めるかは分からぬが、やる気は失せるかもしれんな」

「お前たちゴエティアは、死徒と契約してんだろ。何を条件に契約したんだ!?」

「大した事では無い。人間の負のエネルギーの供給だ。主とは、定期的な供給を交換条件に一時的に手を組んだ。ゴエティア(わしら)も一応、負のエネルギーは欲しいからのう」


 まるで他愛ない話に興じるようなガープの余裕が、交えた武器からも漂ってくる。


「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」


 ヨハネがヤコブの援護に回った。一直線に迫るビームのような閃光を、ガープは盾で防ぐ。


「断切る! 来たれ黎明(アウスシュテアブン・)祝禱の截断(ゲベート)!」

「切裂く! 朽ちぬ一念(シュナイデン・)玉屑の闇(エントシュルス)!」


 ユダとペトロも同時に斬撃を繰り出したが、壁となった炎の海で相殺される。




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