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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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30話 消えない痛みを治すために



「いつ、ボクも死んじゃうんだろうって、すごく怖かった。隣に住んでた親切なおばさんも、友達も、日が経つごとにいなくなっていって。避難してた場所も、人がいるのに攻撃されて。ボクとお母さんが避難してた学校にも、ミサイルが落ちて来て。怪我人もいたのに、目の前でたくさん……」

「シモン……」

「なんでこんなことするんだろう。ボクたち何もしてないのに。同じ人間なのになんで殺すのって、ずっとわからなくて」

「もういいよ、シモン」

「早く寝なさいってお母さんに言われても、言うこと聞かなかったせいかな。嫌いな食べ物もちゃんと食べなさいってお父さんに言われても、残しちゃったせいかな。だから罰が当たったのかなって」


 シモンは、恐怖と絶望が流れ出るままに吐露した。繋いだ手から痛みが流れ込んできて、ヤコブは堪らず抱き締めた。シモンのブラウン目は潤み、涙が溢れていた。


「何もかもが嫌になった。生きてる意味がわからなくなって、明日なんか来ないんじゃないかって、希望が持てなくなった。でも、死んだ人がいるから絶望なんてしちゃダメで。死ぬのも嫌で。でも、辛いのも嫌で、死ねばそういうのもなくなるけど、死にたくなくて……」

「…………」


 ヤコブは、掛ける言葉が見つからなかった。

 ヤコブにもトラウマはあるが、シモンほど凄惨な経験はしておらず、その苦しみの全てをわかってはやれなかった。ただトラウマに苦しむシモンを抱き締め、気持ちを緩和させてやることしかできないことが、歯痒い。


「ボクは、死が怖い。自分が死ぬのも。誰かが死ぬのも。でも、その恐怖からは逃げられない。それを、今日知った。きっと、これ以上逃げられないんだ。死徒がまた来るなら、ボクは戦わなきゃならない。タデウスじゃなくて、自分自身と」

「シモン……」

「ボクの中で、あの戦争はまだ終わってない」


 本当は、向き合うことは避けたい。だが、引き出されたということは戦えという意味なのだ。そう悟ったシモンは溜まった涙を押し留め、自分がすべきことを見据えて顔を上げた。

 しかしヤコブは、憂患の表情を浮べる。


「無理するな、シモン。次はきっと、完全なトラウマを体験させられる。やつの術が半端な状態で倒れそうだったのに、それに堪えられるのか」

「堪えるよ。そうしなきゃボクは、死徒とも自分とも戦うことができなくなるから」

「でも。お前にはまだ、時間が必要なんじゃないのか」


 トラウマと真正面から向き合うのはまだ早いんじゃないかと、ヤコブは生き急ぐことはないと言う。


「……そうだね。時間は必要だよ」

「お前のトラウマは、俺のなんかとは比べものにならない。簡単に癒える傷でも、完全に忘れられることもできないものだ。もしも……もしも本当は、体験させられたせいでトラウマから逃げたいと思ってるなら、一度は逃げてもいいんだぞ。俺はそんなお前を責めない。あいつらも、お前を責めないと思う。克服は今すぐじゃなくてもいいんだ」


 シモンが再起不能となるのを危惧するヤコブは、愁眉の面持ちで真っ直ぐ見つめる。シモンも、その憂いを汲みたい気持ちはある。けれど。


「でも。いつかはちゃんと、振り向いて向き合わなきゃならない。その時間が、ちょっと早めに来ちゃっただけだよ」

「けど……」

「大丈夫だよ。ボクには、ヤコブがいるもん。一人ぼっちの戦いだけど、ヤコブと心が繋がってると思えば、へっちゃらだよ」


 気丈に振る舞うその瞳には、僅かに恐怖が揺れている。細い身体で、一人では抱え切れないものを連れて行こうとしている。

 だが、弱々しく見えても、強い意志で地を踏み締めようとしていた。頑張って背伸びをしようとするのではなく、明日の自分のために背筋を伸ばそうとしている。

 シモンが苦しむ姿は、ヤコブは本当は見たくない。けれど、その強い決意に、不思議と自分の方が支えられている気持ちになった。その決意を、シモンごと守りたかった。


「……わかった。シモンが覚悟を持って過去と戦うなら、俺が絶対フォローする……。と言っても、実際には何もできないかもしれない。けど。どんなに辛くて苦しい場面に出会っても、俺と心が繋がってることを思い出せ。どんな状況でも、俺は側にいる。絶対に孤独にさせない」

「ヤコブ……」


 ヤコブは、シモンの頭をわしゃわしゃっと撫で、微笑む。


「シモンなら大丈夫だ。俺は、強いお前を信じてる」

「うん。ありがと。ヤコブ」


 二人は、強く手を握った。

 シモンはこれからも、ヤコブの隣にいたかった。この繋がれた手があれば、また倒れてもきっと立ち上がれると信じた。




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