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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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25話 怠け者に刃は立たない



 ガープは、本来の力を奪われた使徒の底力を試しているのだろうか。だが四人には、ガープの目論見を考える暇はない。奮戦するが、悪魔たちは連携して力を消耗させようとしてくる。


(くそっ。こんなザコに構ってる暇はないってのに!)


 タデウスの棺に囚われたシモンが心配でならないヤコブは、焦燥を必死に抑えていた。

 歩兵の後方に控える弓兵からの攻撃にも注意しなければならず、シモンの心配よりも自身の身を守ることに意識が向く。しかし、ヤコブが斧を振るいたいのは、ザコではなく死徒だ。だが一歩も動けない状況に、焦りは募る一方だった。

 そんな時だった。


「ぅ……うああああああああああっ!!」


 シモンの悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。


「シモン!?」

「ああっ……。ああああっ!」


 トラウマの幻覚を見せられるシモンは、艱苦の叫びを上げ続ける。


「シモンに何が起きてるんだ!?」

「あれが、死徒(やつら)のやり方だよ。オレもああやって再現されたトラウマを体験させられて、精神を侵された」


 ペトロは苦痛を思い出し、少し顔をしかめる。 

 ペトロは完全に囚われて追い込まれたが、未完成の状態の棺でも、五感の二つである視覚と聴覚を奪われれば精神を抉るには十分なのだ。


「くそっ! 強靭奮う! 晦冥たる白兎赤烏(ムーティヒ・)照らす剛勇(ブリヒトニヒト)!」


 シモンの状況を知り焦燥に負けたヤコブは、攻撃を繰り出して憚る悪魔の壁を崩した。その空いた隙間から、シモンの元へ一直線に駆ける。


「シモン!」


悔謝(ラウエ)〉を握り締め、シモンを拘束している影の帯を切ろうと刃を立てた。しかし、全く刃は通らず傷一つ付かない。


「なんだこれ! すぐぶった切れそうなのにっ!」

「無駄だよー。前に聞いてるよね。棺は、内側からじゃないと破壊も出来ないよ」


 タデウスは目を瞑っていても、ヤコブの行動が見えていた。


「ただ巻き付いてるだけじゃねえのかよ!?」

「やるの面倒臭かったから、通常の半分くらいだけどねー。だけど、外側から解放するのは絶対に無理だから、諦めてねー」


 相変わらずやる気ゼロ風のタデウスは、ヤコブを煽るように手をひらひらさせた。

 ヤコブは奥歯を噛みしめる。


「じゃあ。お前を攻撃すればどうなんだよ!?」


 帯状の棺への攻撃が効かないのならと、ヤコブはタデウスに標的を変えて〈悔謝(ラウエ)〉振り下ろす。しかし、椅子にだらりと腰掛けたまま目蓋を閉じたタデウスは、のらりくらりと避けていく。


一寸(ちょっと)。危ないじゃんー」

「お前を倒せば、シモンは解放されるんだよな!?」

「そうだけど。其れも無理だってー。君一人で倒せると思ってるの?」


 タデウスの影から黒い帯が伸び、ヤコブを貫こうとした。それを〈悔謝(ラウエ)〉で受け止め、流してかわすヤコブ。


「なよなよした無気力陰キャ野郎なんかに、負ける気はしねぇよ!」

「失礼だなー。此れでも今、凄く忙しいんだから、邪魔しないでくれる?」

「どこが忙しいんだよ! ぬいぐるみみたいに動かねぇくせに! ていうか目ぇ開けろ!」

「だからー。今、あの子を追い詰めてるんだってばー。凄く大事な場面で、ぼくも気分がノッて来た所なんだからー」


 タデウスは複数の帯を一気に放った。ヤコブは再び切断を試みるが、シモンを拘束しているもの以上に固く、〈悔謝(ラウエ)〉の刃と擦れると火花が散った。


「そもそも。君が相手するのは、ぼくじゃないでしょ」


 刃が立たないヤコブは、また悪魔の軍勢に囲まれた。


「くそっ!」

「ガープの能力で、使徒の力も使えないくせに。所詮は愚蒙の一員に過ぎない奴で、弁える事も出来ない馬鹿なんだね」


 タデウスは呆れ、口調の端にヤコブへの侮蔑を込めて言った。




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