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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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11話 放課後デート



 シモンは、中等教育学校(ギムナジウム)に通っている現役の学生だ。

 使徒ではあるが、ユダを始めヨハネやヤコブに学業優先を勧められているので、平日に悪魔が現れても駆け付けられないことが多い。その分、学校が終わったあとに気配を感じれば、即駆け付けるようにしている。

 何もなければ、友達との約束などプライベートを優先する。そして約束のない急な誘いは、大体断ることになる。


「なあ、シモン。このあと予定なかったら、一緒にサッカーしようよ」

「メンバーが集まらなくてさ。使徒とか仕事がなければ来てくれよ」

「今のところ空いてるから、付き合えるよ」

「よっしゃ! じゃあ公園行こうぜ」


 ところが。久し振りの友達の誘いに乗った直後、窓際にいたクラスメイトの女子が呼んだ。


「ねえ。シモンくん。あそこにいるの、お迎えじゃないの?」


 彼女が指を差したので窓の外を覗くと、学校の校門前にヤコブの姿があった。大好きなヤコブを見つけてシモンは喜ぶが、友達は途端にがっかりする。


「なんだよ。仕事はなくても、お迎え来てるじゃん」

「ごめん、みんな。また今度誘って」

「絶対だぞ?」

「約束だからな!」


 シモンは友達との約束を次の機会に延長し、階段を駆け下りて校舎を出て、待っていたヤコブと合流した。


「お待たせ、ヤコブ」

「おう。授業お疲れ」


 ヤコブは労って、シモンの頭をポンポンと撫でた。

 シモンの送り迎えは、ヤコブの日課だ。時にはヨハネだったりシモン一人の時もあるが、アルバイトのシフトと被らなければ必ず同伴している。自転車を引いている今日は、アルバイト終わりだ。

 合流した二人は寄り道で、街路樹が立ち並ぶ通りにあるカフェに立ち寄った。この、赤と白のボーダー柄のオーニングがかわいいカフェに時々来て、放課後デートを楽しんでいる。

 飲み物は揃ってカプチーノを頼み、ヤコブはチョコ入りの細長クロワッサン、シモンはレモンメレンゲパイを注文して、お店の前に並べられている席に向かい合って座った。


「おいし〜。やっぱり、頭使ったあとは甘いもの食べないとね〜」


 パイを一口食べたシモンは、幸せそうに舌鼓を打つ。


「お菓子のイメージキャラクターやり始めてから、よく甘いもの食うようになったな」

「だって、おいしいじゃん。ヤコブのクロワッサン、ひと口ちょうだい」

「ほら」


 ヤコブがクロワッサンを近付けると、シモンは大きく口を開けて一口頬張った。


「サクサクしてる〜。甘さもちょうどよくて、こっちもおいし〜」


 幸せそうなシモンの顔を隠し味に、ヤコブもチョコクロワッサンを頬張る。


「つーか。友達と約束なかったのか?」

「誘われたけど、ヤコブが迎えに来たから断っちゃった」

「いいのかよ。せっかく誘ってくれたのに。友達付き合いは大切にした方がいいぞ」

「大丈夫だよ。ヤコブが迎えに来ない日や休みの日に遊んでるし、メッセージアプリでやり取りもしてるよ。ぼっちにはなってないから、心配しないで」


 シモンは自分のパイを一口分フォークに取り、ヤコブに差し出した。

 ヤコブはさりげなく周囲を見回し、見られてなさそうなので「あーん」をしてもらった。


「付き合ってるからって、俺ばっかり優先しなくてもいいんだぞ?」

「だって。好きなヤコブと一緒にいたいし」

「お前は、またそういうことを……」

「ボク、なんか変なこと言った?」


 惚けている様子もないシモンは、美味しそうにレモンメレンゲパイを食べ進める。

 シモンは場所に関わらず、純粋な気持ちをストレートに口にする。一見すると、ヤコブの方がそういう愛情表現はしそうだが、よく言うのは意外とシモンの方だ。ヤコブの愛情表現は、頭を撫でたりするくらいだ。

 顔バレをしているので、噂が立たないように外では過剰なスキンシップは控えているが、シモンがやりたがるので、「あーん」のようにこっそりソフトいちゃいちゃをしていたりする。

 しかし、それで困らされているのがヤコブだ。手を出さないよう気を付けているというのに、シモンはそれをわかっていながら彼の心情にたまに疎い。天然で。


「シモンさぁ。俺が、理性を知らない変態野郎だったらどうすんだよ」


 ヤコブは、忠告の意味を込めて訊いた。必死に押し殺している欲望をチラリと覗かせた表情で言われたシモンは、少しドキリとする。


「……その時は、その時かな」

「適当なトイレや、草木が生い茂る公園に無理やり連れ込まれても?」

「覚悟はするけど、でも、ヤコブはそんなことしないでしょ? こう見えて、真面目なとこあるの知ってるし」

「……まぁな」


 信頼を置かれているのは、バンデとしても彼氏としても誇りに思うが、気分としては、目の前で好物をぶら下げられている馬の気分だ。


(どストレートに気持ちを言ってくれるのはめちゃくちゃ嬉しいけど、その度にオレが徐々に追い込まれてるの、こいつわかってんのかな。まさか、仕向けようとしてるんじゃないよな?)


 初めて年下と交際するヤコブは、全てにおいてエスコートをするつもりだったが、こんなに翻弄されることは予定していなかった。理性はグラグラだが、年上彼氏としてのプライドで何とか地盤を固めている。


「シモン。友達もだけど、年上を敬うことも大事だぞ」

「なんの話?」




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