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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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6話 vsフードファイター②



 動揺して足元を見ると、二人の影が長く伸びている。今日は天気もいいので影が出ているのはおかしくないが、影が伸びるには時間が早過ぎる。

 不可思議な自分たちの長い影を辿ると、ガラス張りの建物の外壁を昇り、屋上にいる悪魔に行き着いた。


「@シ……。ァ$……。ク£……」

「足くれって言ってる?」

「言われてもなぁ。一人につきワンセットが原則なんだよ」


 悪魔は、憑依していた人間のトラウマを体現する存在だ。今回の悪魔は、身体の変化に特徴がある。

 その逞しくなった足に注目したユダは、憑依されていた男性を観察した。


「そうか。義足だからか」

「なるほど」


「グ∅∂ッ!」屋上に留まっていた悪魔は、足を固定した二人に向かって襲い掛かって来た。


「でも。悪い(わり)ぃけど、俺たちもなくなったらめちゃくちゃ困るんだよな!」

防御(フェアヴァイガン)!」


 ユダは防壁を展開して悪魔の刃を防ぐ。が、悪魔は防壁を破壊しようと何度も刃を立てる。重機ほどの大きさの手が振り下ろされるその衝撃は、足が痺れそうな重さだ。


「悪魔にまだ変化はないな。頑張ってくれよ、ペトロ」

(だけど。足を固定されたまま戦闘を続けるのは不利だ)


 状況を鑑みるに、深層潜入中のペトロは少し手こずっていると推測するユダは、僅かなあいだに作戦を立てた。


「ヤコブくん。何とかして、この拘束から逃れよう」


 ヤコブに作戦を共有すると、ユダは防御を解除した。防壁の破壊行動をしていた刃が、障害が消えたことで直下の二人に振り下ろされる。


「〈悔謝(ラウエ)〉!」


 その重い刃を、ヤコブが斧のハーツヴンデ〈悔謝(ラウエ)〉で食い止める。


「っ!」

(重っ!)


 ヤコブが受け止めた一瞬を狙い、ユダは悪魔へ攻撃を放つ。


「噴出せ! 赫灼の浄泉(クヴェレ・ブレンデン)!」

 

「グ∀アµッ!」悪魔は光の泉をもろに食らった。


「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」

「&⊅ォ……ッ!」


 続けて、ヤコブも悪魔の内部から光を爆発させる。潜入しているペトロが健闘しているようで、さっきは効いていなかった攻撃が効果的になっている。


「ヤコブくん!」


 ユダはヤコブに実行の合図を出した。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 ヤコブは、力を加減して通常の三分の一ほどまでに縮小した光の玉を出現させ、悪魔と繋がっている影に光線を放った。おかげで影は分断され、二人の足は拘束から解かれた。


「加減ムズッ!」

「上出来だよ」


 自由になった二人は、影に注意しながら攻撃を続行する。

 悪魔は変わらず俊敏な動きはするが、攻撃の効果でスピードは徐々に落ちている。深層潜入しているペトロの方も、緩和状態に近付いているのだろう。


「∉ゥ……グ∂µ……!」


 しばらくして、悪魔の様子が変化した。それと同時に、深層潜入していたペトロが帰還する。


「ユダ、ヤコブ! 頼む!」

「よっしゃ! あとは任せろ!」


 ヤコブは、〈悔謝(ラウエ)〉で悪魔と人間を繋ぐ鎖を断ち切る。ユダは、大鎌のハーツヴンデ〈悔責(バイヒテ)〉を具現化させる。


「濁りし魂に、安寧を!」


悔責(バイヒテ)〉で悪魔を切り裂き、悪魔は黒い塵となって消滅した。


「ごめん二人とも。ちょっと手こずって」

「大丈夫だよ。ご苦労さま」


 ユダに微笑まれて労われたペトロは、こそばゆくなりながら少しはにかんだ。


「あ、そうだ。憑依された人、義足だったんだよ。ちょっと介助してくる」


 そう言ってペトロは救った男性に駆け寄り、立ち上がろうとするのを手助けした。気を失った理由を聞いた男性がペトロに感謝のハグをすると、ペトロはちょっと驚いた様子だった。

 使徒の戦闘を領域の外で見守っていた一般人も、ペトロを囲んで握手やハグを求めて来た。中には一緒に写真を撮ってほしいと言う人もいて、ペトロは戸惑いながらも応じた。

 ユダとヤコブも一般人の要求に対応するが、囲まれている人数はペトロの半分くらいだ。


「なんか、ペトロの方が多いな」

「ヤコブくん、嫉妬?」

「そんなんじゃねぇけど」


 ヤコブは自尊心をちょっと覗かせて、人気を持って行かれていることへの悔しさを隠した。


「醸す雰囲気が変わったからかな。元々、人を惹き付ける性質なのかもね」


 人々に囲まれるペトロを、ユダは穏やかな眼差しで見つめる。ヤコブはその表情に、仲間の心持ちの変化を喜ぶだけではなく、特別な類の感情が宿っているのを感じ取った。

 数分して、ファンサービスから開放されたペトロが小走りで戻って来た。


「初めて写真撮られた……。事務所的に大丈夫だった?」

「いいよ、そのくらい。ファンサービスだと思えば」

「なんか、広告見たって人が結構いてさ。オレと同一人物だってこと、気付いてるみたいだった」

「ようやくみんな気付いてくれたのかぁ。これで、ペトロくんの魅力を知ってくれる人がもっと広がるね」


 その、自分のことのように嬉しそうなユダのリアクションを見慣れてしまったペトロは、「はいはい」と受け流した。けれど、心の中ではやっぱりくすぐったい。


「じゃあ。オレ、バイト戻るよ」


 アルバイトの途中だったペトロは、歩道に置いておいたデリバリー用のバッグを背負い、電動キックボードに乗って颯爽と去って行った。これでは本当に、使徒とアルバイトとモデルのどれが本業なのかわからくなっても仕方がない。


「なぁ、ユダ。今晩、オレとヨハネと飲まねぇ?」

「いいよ。ペトロくんは誘わないの?」

「今回はあいつ抜きで。ハブる訳じゃないから安心しろ」

「じゃあ久し振りに、三人で飲もうか」




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