5話 vsフードファイター①
悪魔出現を感知し、ユダとペトロとヤコブの三人は企業のオフィスなどが建ち並ぶ通りに駆け付けた。
時間的にも人通りはそこまで多くはなく、オフィス内にいる人々には外には出ないよう警告をした。
「今日は珍しいタイプだね」
三人の目の前にいるのは、いつもの異形の姿の悪魔ではなく、憑依された人間だった。憑依した悪魔が身体を奪い、操っているのだ。
「人間を操るって、趣味悪ぃな」
「死徒よりは、やり方はまともだけどな」
「ネーミング最悪な、あのえっぐいやつな。自分が捕まることを想像すると、ゾッとするわ」
「私は結構ムカついてるよ。ゴエティアを仕留め損ねたし。ペトロくんを苦しめた、あのフィリポって死徒も逃したし」
一方的な私怨を口にするユダだが、表情はいつもの爽やか笑顔だ。
「お前が笑顔でそういうこと言うと、時々怖いんだけど」
「いつかお礼を返したいなぁ。ぜひとも一対一で」
笑顔のユダはメガネを光らせた。
「ていうか、お礼返すのはオレだから。それよりも、早く助けてやらないと」
「∅σ&……」まだ攻撃はして来ないイレギュラータイプの悪魔は、通常の個体と同じように呻く。人間の身体を、自分の器として意のままに操ろうとしているようだ。
「でも。さすがにこのままじゃ、憑依された人を助けられないね」
「あの人の濁った魂に食らい付いて、負のエネルギーを貪ってる感じか」
「相当腹が減ってるか、フードファイターだな」
「早めに悪魔を引き摺り出さないと危険だ」
「じゃあ、アレだな」
お互いの顔を見て示し合わせる三人は、悪魔を囲むように三方に散らばった。そして同時に同じ力を使う。
「映せ! 真像の鏡!」
長方形の鏡が現れ、反射された太陽光のような光が放たれる。三方向から放出する光が、憑依された人間の中に居座る悪魔の姿を浮き彫りにする。
「ギャ∅σァ&%ッ!」そして、光に耐え切れず悪魔が姿を現した。
「オレが潜入する」
「わかった。頼む」
「ペトロくん。魂を貪ってたなら、負のエネルギーを溜め込んでた可能性もある。気を付けて」
「了解」
ペトロは、倒れた男性への深層潜入を開始した。
引き摺り出された悪魔は標準的なサイズだが、直後に身体が大きくなる。足は筋肉が付いたように太く逞しくなり、重機のショベルほどの大きさになった両手は鎌のように鋭利な刃になっている。
「∅……オ∌ノ、@シ……⊅ζコ……。ドζ⊄」
「やっぱり、中で貪ってたみたいだね」
「ペトロのやつ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
手こずって深い相互干渉にならないかとヤコブはペトロを気に掛けるが、ユダは心配した様子はない。ペトロを信頼している表情だ。
「もうちょっと心配するのかと思った」
「ペトロくんも成長したからね」
「∂∀∉ッ!」悪魔は逞しくなった足で地面を蹴り、ユダとヤコブに急接近する。だが回避され、振り下ろされた刃の手は空を切った。
「降り注げ! 祝福の光雨!」
回避の直後に放ったヤコブの攻撃は惜しくも避けられるが、
「貫け! 天の罰雷!」
「&ァµッ!」一息つくのも許さずユダが放った攻撃は食らった。だが、直撃のはずが思ったほどダメージを受けていないようだ。
「こいつ、貪ってただけあるみたいだな」
「もしかして、食べた分があの筋肉になってるのかな」
「まさか。人間じゃあるまいし」
「だけど、人間と同じだと思うよ。摂取した負のエネルギーが悪魔の力になるなら、それを攻撃力だけじゃなくて身体作りにも変換できるんじゃないかな」
「ということは。こいつは負のエネルギーを身体作りに変換した、筋肉バカってことか」
悪魔はヤコブを目掛けて突っ込んで来た。足を狙ってきた刃を跳躍で避け、街灯に着地して反撃した。が、大きな身体に見合わない反射神経で回避された。
「でも。この俊敏さにも生かされてるってことは、ただの筋肉バカじゃないみたいだね」
悪魔の回避行動のタイミングを狙ってユダは背後から攻撃し、光の雨は悪魔を貫く。「ギ∂ゥッ!」
「爆ぜろ! 御使いの抱擁!」
「⊄アσッ!」重ねてヤコブが攻撃し、連続で食らった悪魔は、建物の屋上に一時退避して二人と距離を取った。
「おい、逃げんのか!」
「デカい図体に変化したくせに、本当はビビリなのかな」
「悪魔にビビリとかいんのかよ。ウケるわ」
「自我が芽生えれば、性格も形成されるみたいだしね」
「あー、いたよな。急に普通に人間の言葉しゃべって、俺らをビビらせたやつ」
「イレギュラーはいつでも起こりうるものだよ」
イレギュラーの個体が出現するメカニズムは不明だが、それに影響しているのは憑依された人間が持つ負のエネルギーなのは間違いない。
「で。あいつ、あそこから全然動かねぇな」
「仕方ない。こっちから仕掛けようか」
悪魔が屋上に退避したまま一切降りて来る気配がないので、二人は一気に攻めようとした。
ところが。
「えっ?」
「足が動かない!?」




