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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第2章 Bemerkt─希望と、選ぶもの─

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4話 プラトニックは不健全?



 そんなヨハネが、ヤコブとシモンは不憫でならない。何度呆れても、こうしてヘコむ姿を見る度に背中を押してやりたくなる。


「泣くなよ。まだ諦めるのは早いぞ」

「そうだよ。あの二人に、お互いの名前が刻まれてるかはまだわからないし。ペトロが、ユダのことどう思ってるかも知らないじゃん。勝てる確率低いかもしれないけど」


 背中は押すけど現実も見せるシモン。


「僕に希望を持たせたいのかそうじゃないのか、どっちなんだよ……」

「でも。どうアプローチしたらいいんだろうね」

「そこだよな。好意を伝えられないとなると……。もう、酔った勢いで夜這いをかけるしか」

「それ一番無理っ!」


 地球に彗星が衝突する確率で奇跡的に夜這いができたとしても、恥ずかしさで瀕死になり職務も使命も放棄するだろう。


「ちなみにだけど。二人はいつの間にか付き合い始めてたけど、どっちから告白したんだ?」


 訊かれたヤコブとシモンは、お互いに顔を合わせる。


「どっちからだっけ?」

「というか。付き合おうかとは言ったけど、ちゃんと告白してない気がする」

「えっ。そうなのか?」

「そういえばそうだね。付き合う前に普通の『好き』は言ってたけど、恋愛感情の『好き』は付き合ってから言ったかも?」

「じゃあ。自然に恋人同士になったのか」

「まさか、四歳年下と付き合うことになるとは思ってなかったけど」

「今年十六になるから三歳差だよ、ヤコブ」

「あ、そっか」


 ヤコブは「悪い悪い」とシモンの頭をポンポン撫でた。


「シモンは、ちゃんと告白されてないことは気にしなかったのか?」

「うん。だって、ボクもヤコブが好きだったから」


 シモンは恥ずかしげもなく笑顔で言った。簡単に堂々と「好き」言えるのが、ヨハネは少しだけ羨ましく思える。


「初対面の時はちょっと取っ付き難い人かなって思ったけど、全然そんなことなくて、すごく優しくしてくれたんだ。そのギャップが好印象だったんだよね。ボク一人っ子だから、お兄ちゃんができたみたいで嬉しかったし。嬉しいことでも悲しいことでも、何かあると撫でてくれるのも嬉しかったんだ」

「こいつ、一番年下のくせに背伸びしようとするだろ。戦いでも、俺たちの横に並ぼうとして頑張ってさ。危なっかしくて見てらんないんだけど、その頑張ってる姿が健気で。だんだんと、愛おしく感じてきたんだよな……」


 二人はまた顔を合わせ、微笑み合う。幸せオーラが見えて、ヨハネはさらに羨ましくなる。


「だけど。ヤコブが年下趣味とは意外だよな」

「俺の趣味は年下限定とかじゃねぇから」

「でも、付き合ってるってことは……アレだよな。恋人らしいこともしてるんだよな?」

「恋人らしいこと?」


 三つ年の差の二人にヨハネが訊きたいのは、デートをしてるとかそんなライトな内容ではなく、もっとディープなことだ。歯切れが悪い口振りで、ヤコブは察した。


「あー。アレな。えっちなことしてるのかって訊きたいんだろ」

「ま……。まぁ……」


 年の差の恋愛にあーだこーだ言って首を突っ込むつもりはないが、ヤコブが年下のシモン相手にあんなイケナイことやこんなイケナイことをしているのかと、ちょっと気になってしまった。

 しかし。その質問に対するヤコブの回答は、意外過ぎた。


「してねぇよ。何も」


 さらっと返ってきた回答が想定外で、ヨハネは驚いた。


「何も? まさかのプラトニックラブなのか!?」

「そういうんじゃないけどな。俺はもう成人してるけど、シモンはまだ十五だし。未成年に手を出すのって禁断じゃね?」

(ぶっちゃけ、理性保つの大変だけど)

「じゃあ、キスは? それくらいはしてるんだろ?」

「顔以外にな。愛情表現として」


 意外にも恋愛に真面目な姿勢を見せるヤコブに衝撃を受け、ヨハネは愕然とする。


「健全だ! 健全過ぎて逆に不健全だ!」

「言ってる意味がわかんねぇよ。健全は健全だろ」

「キスすらしてないとか信じられない! お前だったらこう、ガンガン攻めてねじ伏せて思いのままって感じじゃないのか!」

「完全に偏見だな。お前の脳内の俺は、どんだけ酷い男なんだよ。ちょっと傷付くわ」


 だが、ヤコブの知り合いがこの話を聞けば、恐らく全員ヨハネと同じリアクションをするだろう。


「シモンは、何もしなくて不満はないのか?」

「ヤコブは、ボクのことを大事にしてくれてるんだよ。だからボクも、ヤコブの意志を尊重してる」

(本音を言うと、もっと恋人らしいスキンシップしたいけど)


 シモンの本音は、未成年だからといって配慮も遠慮もせずに付き合いたい。けれど、ヤコブの思い遣りを無下にしたくない。その二つの気持ちの葛藤は、ヤコブには秘密にしている。


「お前の恋愛のスタンスが以外過ぎて、全然参考にならなかった……」

「恋愛の仕方は、人それぞれってことだ。だが! お前には選択肢はない!」


 ヤコブはビシッとヨハネに指を差し、話を戻した。


「残された猶予も少なくなってきてるんだ。もうエンジンは温まってるんだから、ここからぶっ飛ばせ!」

「いや。それは……」

「ヨハネ。スタートはヨハネの方が断然に早かったのに、ペトロにマッハで追い抜かれてるんだよ? 悔しくないの?」

「悔しいよ。だから、せめて追い付きたい……。でもその前に、現状を知りたい」

(どこまで近付いてるのか。名前は刻まれてるのか……)


 自分がいつまでも逡巡していたせいでチャンスを逃しているのはわかっているが、まだユダへの気持ちはある。諦めるのならその前に、二人の関係がどうなっているのかを知りたい。

 付き合い始めているのか、まだ付き合ってはいないのか。もしも付き合い始めていたら諦めるのか、それとも諦めきれないのか。

 そして、自分にユダの名前が刻まれる望みを抱き続けるのか。それを見極めるためにも。




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