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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第1章 Vorahnung─巡り会う─

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42話 反撃



 獣人の姿となったグラシャ=ラボラスと戦うユダたちは、その能力に前回以上に苦戦した。

 ヤコブとシモン、ユダとヨハネで組み、反撃するタイミングを作ろうとしているが、グラシャ=ラボラスは武器や盾が破壊されても眷属の悪魔を繰り返し喚び出すため、その機会はまだ訪れていなかった。


「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」

「降り注げ! 大いなる祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン・グロース!」


 シモンが〈恐怯(フルヒト)〉で幾つもの矢を放って間髪を入れずヤコブが攻撃し、グラシャ=ラボラスを守っていた盾が破壊される。羽根の刃で反撃されるが、シモンが防御する。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン・)皓々拓く(ゼルプスト)!」


 グラシャ=ラボラスがヤコブとシモンへ反撃している間に、ユダとヨハネも攻撃を仕掛ける。しかし、破壊したばかりの盾が新たな悪魔ですぐさま再構築され、攻撃は防御される。


「くそっ。何なんだよ! さっきからこの繰り返しだぞ!」

「今まで相手をしてきた悪魔とは、全くの別次元だ」

「不意打ち攻撃も死角攻撃もかわされて、まるでボクたちの動きを予測してるみたい」

「あり得るわー。本当にそれだったらどうする?」

「どうしようもないね」

「ユダ。にこやかに諦めないでください」

「諦めてはいないけど。打開策を見つけないとだね」


 グラシャ=ラボラスの戦い方は、恐らく把握できた。だが、四人がその力を上回れるかは全くの不明だ。現状、戦局は不利。しかし、闘志はまだ衰えていない。


「予測してるのか何なのかわかんねぇけど、攻撃やめる訳にはいかねぇだろ! シモン。援護頼む!」

「私も付き合うよヤコブくん。ヨハネくん、よろしく!」

「わかりました!」

「〈悔謝(ラウエ)〉!」

「〈悔責(バイヒテ)〉!」


 ヤコブとユダは、それぞれのハーツヴンデを手に同時に仕掛ける。シモンとヨハネは、後方からの攻撃で援護に回る。


「貫け! 連なる天の罰雷ドンナー・ヒンメル・コンティニュイアリヒ!」

「降り注げ! 大いなる祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン・グロース!」

「おらぁっ!」


 ヤコブは勇猛果敢に直接斬り掛かるが、瞬間移動したグラシャ=ラボラスに背後を取られ、剣が振り下ろされる。


防御(フェアヴァイガン)!」


 それをシモンがギリギリ防御をした。


「強靭奮う! 晦冥たる白兎赤烏(ムーティヒ・)照らす剛勇(ブリヒトニヒト)!」


 ヤコブは再び攻撃するが、斧を振り下ろした先からグラシャ=ラボラスはまたもや消え、死角から左足を切り付けられられる。「ぐう……っ!」


「はあっ!」


 ヤコブを攻撃したその背後から、ユダも直接攻撃を仕掛ける。が、やはりグラシャ=ラボラスはユダの視界から消える。

 消えたグラシャ=ラボラスを、ユダは気配で追おうとする。背後に瞬間移動したグラシャ=ラボラスは、二本の短剣を振り下ろそうとしていた。

 その瞬間、気配を感知したユダが〈悔責(バイヒテ)〉の向きを変えて短剣を受け止める。そして瞬時に振り向き、刃を向けた。

 悪魔の盾が阻もうとしたが、それをヨハネが機転で破壊し、ユダの大鎌が回避したグラシャ=ラボラスの軍服の裾を切った。


「貴様っ!」


 怒りで喉を鳴らすグラシャ=ラボラスは、右腕に悪魔で作った巨大な獣の腕を形成し、ユダを返り討ちにした。「ぐうっ!?」ユダは吹き飛ばされ、中央分離帯の看板に激突する。


(何だ今のは!? 使徒の攻撃は全て先読み出来ている筈だが、何故彼奴(あやつ)の攻撃は……)

「……まぁ、そんな事はどうでも良い。我は我の仕事をするまで!」


 グラシャ=ラボラスは再び空中に浮かび、翼を羽ばたかせ羽根の刃を大量に降らせた。


防御(フェアヴァイガン)!」


 ヨハネとシモンは激しく降り注ぐ刃を防御する。

 奮戦を続けるが、手も足も出ない使徒は戦況に倦ねる。


「せめて拘束ができれば……」

「俺がもう一度行く」

「何言ってるのヤコブ! この中で出て行ったら……!」

「そうだ。やめておけ!」

「つったって! 誰かが囮にならないとどうにもできないやつじゃねぇのかよ、これ!」

「だからって、ヤコブが行かなくても!」


 この刃の豪雨の中を無手で飛び出して行ったところで、何も道は開けない。刃の一つ一つは大きくないが、この量を食らえば戦闘不能になる。そんなことも厭わないヤコブを、シモンは憂色を浮かべ止めようとする。

 そんなシモンを見たユダは、ペトロが言っていたことを思い出した。


 ───守られる代わりに誰かが傷付くなら、オレが傷付いた方がよっぽどマシだ!


 戦況は未だ不利。打開策もひらめいていない。だが、確かに囮を使うのは一つの案だ。


「……いや。誰かが先頭を切らなきゃダメだ」

「何を言ってるんですか、ユダ!?」

「でも。誰も犠牲にはさせない」


 ヨハネは猛反発するが、しかしユダは、ヤコブを囮に使おうなどとは考えていなかった。


「しばらく戦ってみて、わかったことがあるんだ」

「わかったこと?」

「死徒が展開したこのテリトリー内では、死徒は本来の能力を発揮するかもしれない。だけど、使役されているゴエティアの能力は変わらないんだ」

「だけどユダ。確実に前回より強いよ?」

「確かにそう感じる。でも、前回の戦闘を思い返してみて。やつから感知する力は、ほぼ変わらないと思わない?」


 言われた三人は、グラシャ=ラボラスから放たれるプレッシャーに神経を注ぐ。するとユダの言う通り、大して変わっていないことに気付く。


「言われてみれば……」

「姿形は変化したけど、たぶん、有している力は増幅してないんだ」

「じゃあ前回は、力を出し切ってなかっただけ?」

「あの姿にビビらされてただけかよ!」


 しかしヨハネは、だからと言って勝ち目があるとは限らないと弱腰になる。


「そうかもしれませんが、やっぱりやつの戦い方は、僕たちの攻撃を先読みしているように感じます。もしも本当にそうだとしたら……」

「そんな特殊能力はない私たちは、勝ち目はないかもね……。でも。だからって引けないでしょ」


 打つ手なしの現状に隠し切れない不安を滲ませるヨハネに対し、ユダは不安を抱くことを拒絶していた。だがそれは、左腕の違和感を誤魔化すためでもあった。


(さっきから胸がざわつく。棺の中のペトロくんに、何かが起きているのかもしれない……。でも私は、彼を信じるしかできない。ペトロくんは、孤独に堪えながら必死に戦ってる。それなのに、怯んでなんかいられない)

「私が先頭を切る。さっき、何となく感覚を掴んだ気がするんだ」

「ですが、ユダ」

「きっと大丈夫だよ、ヨハネくん。根拠はないけどね」


 ヨハネは不安を口にしかけるが、ユダは揺るがぬ意志を目に宿していた。

 大丈夫である根拠はない。だが、その目を見たヨハネも根拠のない自信が湧いてきた。


「……わかりました。なら僕たちは、全力で援護します!」




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