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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第1章 Vorahnung─巡り会う─

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40話 強敵



「姿が変わった……!?」

「あれが本来の姿ってやつか」

「だから何だって感じだけどな!」


 敵の変形に怯まないヤコブの先制攻撃で、グラシャ=ラボラスとの二度目の戦闘が始まった。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 弾丸と化した無数の光の粒は、確実にグラシャ=ラボラスに直撃するコースだった。しかし、周りの悪魔たちがグラシャ=ラボラスを庇うように代わりに攻撃を食らって消えた。


「やつを庇った!?」

「まさか! 穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 続いてヨハネも光の玉から光線を放つが、またグラシャ=ラボラスではなく悪魔たちが食らい、自身を犠牲にしたように見えた。


「どうやら、本当にやつを守ってるみたいだ。というか、まるで人形だね」

「もしかして。この周りのザコ悪魔を片付けないといけない感じなのかな」

「面倒臭いけど、たぶんそんな感じだな。これは」

「でも、それだったら意外とラクなんじゃね? 一気に掃討すればいいんだろ?」


 それならばと四人はグラシャ=ラボラスは一度無視し、邪魔臭い周りの悪魔から一掃する作戦を取った。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」

「貫け! 天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」


 ユダとヨハネ、ヤコブとシモンで同じ攻撃を放ち、グラシャ=ラボラスの周りにいた悪魔は抵抗せず全て消え去った。

 あまりにも呆気なく一掃できてしまって一同は拍子抜けするが、新たな悪魔がまた数十体湧き出て来た。


「また現れた!」


 四人は同じように掃討するが、またしても悪魔がどこからともなく湧き出て来る。


「もしかして、エンドレスじゃないよな?」

「冗談やめろよ。戦い始めたばっかの頃に見た夢思い出すじゃん」

「ボクも同じ夢見たよ。あれ怖いよねー」

「でもこれは、何とかしないと終わらない現実だよ。永遠に夢を見たいならいいけど」

「それこそ冗談だぜ」

「真面目に作戦考えますか」


 この調子では、眷属の悪魔はエンドレスに出て来る。そのザコを何とかしたいところだが、あと何体の悪魔をグラシャ=ラボラスが喚ぶことが可能なのかが予測できない。

 なので、さっきと同じように周りの悪魔を一掃し、グラシャ=ラボラスを狙える隙きを作り、悪魔を喚ぶ暇を与えないようにする必要がある。


「何をして居る。攻撃の手を止めるなど、戦いに身を置く者として有り得んぞ」

「それだけ心の余裕があるってことだよ!」


 ヤコブと、長槍のハーツヴンデ〈苛念(ゲクイエルト)〉を手にしたヨハネが前に出て攻撃を再開した。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」


 二人がグラシャ=ラボラスの周りの悪魔を一掃した直後、


「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」


 弓矢のハーツヴンデ〈恐怯(フルヒト)〉を構えていたシモンが、グラシャ=ラボラスを狙って無数の光の矢を放つ。ところが、消したばかりの悪魔が一瞬でまた現れ、グラシャ=ラボラスの代わりに攻撃を食らった。


「貫け! 連なる天の罰雷ドンナー・ヒンメル・コンティニュイアリヒ!」

「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」

「射貫く! 泡沫覆う惣闇(ホフノン・)星芒射す(リヒトシャイネン)!」


 今度はユダとヨハネで悪魔を一掃し、再びシモンの攻撃を放った。


「同じ事を繰り返して……」

「強靭奮う! 晦冥たる白兎赤烏(ムーティヒ・)照らす剛勇(ブリヒトニヒト)!」


 間髪を入れず、ヤコブが斧のハーツヴンデ〈悔謝(ラウエ)〉を手に急接近し白金の刃を放つ。だが。


「無意味だ」


 グラシャ=ラボラスの翼が開き、放たれた刃の羽根を全身に食らってしまうヤコブ。


「ぐう……っ!」

「ヤコブ!」


 シモンはすかさず治癒を施す。幸いにも深手ではなかった。


此方(こちら)の消耗戦を狙ったようだが、愚策だ。我が眷属がどれ程居るか知りもせずに遂行するとは。使徒がそんな低レベルだとは思わなかった」

「じゃあ、一体どんだけ部下がいるって言うんだよ」

「我は、三十六の軍を束ねる指揮官ぞ。其の軍勢の規模の想像くらいは、容易いだろう」

「めっちゃくちゃ多いのはわかるね」

「想像したくない規模なのも、なんとなくわかるよな」

「ならば。作戦を立てるなら、相応の策を考えるべきだろう」

「それもわかるんだけど。ご存知の通り、私たちって低レベルだから。それ相応の戦い方しかできないんだよね!」


 ユダは大鎌のハーツヴンデ〈悔責(バイヒテ)〉を具現化させ、回復したヤコブと一緒に突撃して行く。


「愚かな」


 しかし。やはり眷属の悪魔たちが盾となり、グラシャ=ラボラスに攻撃が届かない。


「貫け! 連なる天の罰雷ドンナー・ヒンメル・コンティニュイアリヒ!」

「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」


 直後、二人の後方からヨハネとシモンが雷と光の爆発で致命傷を狙い、今度こそ直撃したと思われた。が、しかし。それも悪魔たちが身代わりとなり、肝心のグラシャ=ラボラスは無傷だった。


「愚策過ぎて欠伸(あくび)が出るわ! グオオオッ!」

「ぐあっ!」

「ぐうっ!?」


 グラシャの咆哮波を食らって、ユダとヤコブは吹き飛ばされる。


「ダメか……」


 ヨハネは思わず口にした。苦戦に倦ねる状況に、四人は苦渋の表情を浮かべる。


「お前。部下を何だと思ってんだよ」

「我が眷属は、我に従う手足。其れをどう使おうが我の自由だ」


 すると突然、視界からグラシャ=ラボラスの姿が見えなくなった。姿を追おうと四人が周囲に視線を巡らせた、次の瞬間。切り付けられたような痛みがそれぞれの身体に走った。


「……っ!?」


 気付かないうちに、腕や足が切られていた。二足歩行になったグラシャ=ラボラスは翼があることで機動力が上がり、悪魔を武器に変え、刹那の速さで四人を攻撃したのだ。

 四人の背後に回ったグラシャは、愚劣な生き物を見るように彼らに目をやる。


「使徒とは言え、矢張(やは)り人間。我の敵では無いようだ」




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