表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第1章 Vorahnung─巡り会う─

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/263

4話 ジェットコースター出撃



「何だこれ。なんか、変な電波を受けてるような感じがして、気分悪いんだけど……」

「来るな。こっから北北西の方か」


 何かを感覚で探るように、ヤコブが言った。


「来るって……。何が?」

「悪魔だ」

「今ペトロくんが感じているのは、悪魔が出現しようとしてる合図だよ」

「合図……?」

「僕たちはこの感覚で、悪魔がどこに現れるかを感知してるんだ」


 そう言われてみると、ペトロも何となく“電波”の発信元を感知できるが、気持ちが悪い方が優ってすぐに遮断したい気分だ。

 もう何度も経験して慣れているユダたちは、すぐに出動の準備を始める。


「俺とシモンで行こうか?」

「二人は、帰って来たばかりじゃないか」

「俺の体力バカにするなよ! 仕事終わりだろうが、余裕でぶちのめせるぜ!」

「ボクは、座って授業してただけだしね」


 出動するのは、ヤコブとシモンに決まった。しかし、最低でもあと一人は戦闘要因がほしい。そこでユダは。


「それじゃあ……。ペトロくんも行く?」

「行くって。どこへ?」

「悪魔とご対面」 

「えっ!?」


 戦闘となる現場に急遽誘われ、展開が早過ぎてペトロも心の準備ができていない。寧ろまだ気持ち悪い。

 その誘いには、ヨハネも反対した。


「ちょっと待ってください、ユダ。もう連れて行くんですか!?」

「どちらにしろ、近いうちに戦力になってもらわないといけないし。デビュー戦とは言わないけど、体感してみる?」


 訊ねられたペトロは、不快感を我慢しながら少し考えた。

 自分が何のためにここに来て、どうなろうとしているのか。鍛えられた鉄のように心の中に固く留めている思いを、自らに問い、誓いを反芻すると、決意の表情で頷いた。


「それなら、せめてもう一人……」

「私が行って、ペトロくんのボディーガードするよ」


 ユダは締めていたネクタイを取り、ヨハネに預けた。どうやら、最初からそのつもりだったようだ。

 事務所の留守はヨハネとなり、四人は表に出た。


「それじゃあ。初めてだから、手を繋ごうか」

「えっ。手?」


 これから戦いに行くというのに、仲間に、しかも同性に「シャル・ウィ・ダンス?」風に手を出された。男同士で手を繋ぐ意味がわからないペトロは、言われるがまま自分の手を重ねると、ギュッと握られた。


「行くよ。私のタイミングに合わせて、ジャンプして」


 ユダは足に力を貯めると、「せーのっ!」とタイミングを合図して地面を蹴った。


「うわっ!?」


 すると二人の身体は、逆バンジージャンプをしたように空中に飛び出した。その高さは、おもちゃのブロックで作ったかのような連なる旧集合住宅(アルトバウ)と中庭を見下ろせ、近所の緑豊かな公園までも見渡せる。


「このまま行くよ。手を離しちゃダメだからね!」


 事務所の正面の建物の屋上に一度降り立つが、すぐに方向転換して別の屋上に飛び移り、陸上のメダリスト選手並みの速さで建物の上を駆ける。


「ちょ……。速いっ!」

「早く到着するための、移動手段だよ。すぐになれるから!」

(慣れるって……。初心者向けの移動方法じゃないだろ、これ!)


 少しだけ自分の選択を後悔しながらペトロは腕を引かれ、三人とともに悪魔出現の気配がする方へ向かった。




 四人が到着したのは、ヤコブが感知した通り、宿舎から北北西にある、歴史博物館や私立大学が目の前のT字交差点。

 その道端で、学生らしき若い女性が苦しみ呻きながら、悪魔出現の前兆を察し逃げる人々に、助けを求めて縋ろうとしていた。

 ユダたちは、降り立ってすぐさま一般人の避難誘導をし、適当なところで守護領域を展開し、領域内には使徒と、憑依された女性だけとなった。


「あ"あ"あ"っ!」


 悪魔によって自身の負の感情をコントロールできなくなった女性は、痛みにも聞こえる叫びとともに倒れた。そして、その身体から黒い霧が吹き出し、憑依していた悪魔が形を成した。

 緊張感が漂う。ところが、ペトロも若干倒れそうになっていた。


「大丈夫、ペトロくん?」

「激しいジェットコースターみたいだった……」

「確かに。最初は、激しいジェットコースターだな」

「慣れても、一人乗りジェットコースターだけどね」


 人間離れした身体能力で跳躍したり、建物の屋上をジャンプで渡ったり高速で走ったりと、人生初経験の異次元な移動で少々参っていた。それでも、移動のほんの数分で身体が慣れてきたのが不思議でならない。

 落ち着いてきたペトロは、目の前の異形を初めてちゃんと目視した。

 人の影のように黒く、頭と腕と足を形作り、顔も認識できる。この、この世の生き物ではないものが人の中に棲み付くなど、常識として理解はしていても信じられない。

 だが。今見ているものがこの街に蔓延り、そして、ペトロが相対する敵となったのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ