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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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27話 手ぶら帰宅と情報共有



 日曜日の夕方、ヨハネは帰宅した。

 そして夕食を摂りながら、一同は収穫の有無を聞いた。結果を聞いた四人の反応は、一様に大小の溜め息で統一された。


「だから言っただろ。行っても無駄だって。自分の決断をコロコロ変えるようなやつに、死徒なんて相手にできるわけねぇんだよ」


 ヤコブは、ほら見ろと言わんとする口振りで、自分で作ったシェパーズパイを口に運びながら言った。

 シモンは、一口サイズに切ったシュニッツェルを頬張る。サクサクというより、ザクザクという衣の歯応えの正体は、きつね色を超えたぬき色になったシュニッツェルだ。人数分のうち、二枚あるその一枚をシモン、もう一枚は主犯のペトロの皿の上だ。


「残念だね。戦力になってくれれば、心強かったのに……。ハーロルトは、何か言ってた?」

「最初にここに残ることを決めたのは、オイゲンさんに大事な宿命のことを隠されてたことが、無責任に感じたからだったらしい。戦うことが怖くなったのは、ヨセフのせいもあるらしいけど。それと。僕たちが、犠牲を厭わずに戦ってると思ってたみたいだ」

「はあ? あいつ、何ふざけたこと言ってんだ。俺らが、そんな投げやりになるわけねぇだろ!」

「そんなふうに言わないでよ、ヤコブ。たぶん、そう思ってる人は他にもいるし。そう印象付けてたとしても、仕方ないよ」


 シモンの言う通りだ。ハーロルトがあの死徒との戦闘を見て印象付けられたように、応援してくれている一般人の中にも、いざという時には自分たちを守るために使徒は犠牲になるだろう、と思っている人は少なからずいるだろう。


「僕からも言っておいた。最初から死ぬ覚悟しかないやつは、戦う資格はないって。そしたら。自分には、誰かのために死ぬほどの痛みを負う覚悟はない。そう言ってた」

「おれたちをUMA扱いしてる人たちと同じ、一般人ですしね。訓練受けてないのに、急に最前線に行けって言われて行く人なんて、いませんよ。でもおれは、ペトロのことを考えると、これでよかったんじゃないかと思います」


 アンデレはしゃべっている途中でシュニッツェルを頬張り、サクサクと咀嚼しながら、変わらぬ考えをもごもご言った。


「オレのこと気遣い過ぎだって。オレも戦力として期待してたし。戻って来るなら、仲間として迎えてもよかったと思ってるよ」

「でも、その期待は裏切られたな。ていうかさ。お前ら、他人に期待する前に、もっと仲間を信じられねぇのかよ。シモンまで、ハーロルトの説得に賛成しやがって」


 ヤコブは、シュニッツェルを食べようと持ったフォークでシモンを指しながら、不満をたれた。その文句が嫌だったのか、フォークで指されたのが不快だったのか、シモンは少し眉を寄せる。


「ボクは、ペトロと同じように使徒として適切な判断をしようとして、賛成しただけだよ」

「けどよ。それって、俺とお前の絆を信じてない証拠じゃね?」

「そんなことないよ。ボクは、バンデのヤコブを心から信頼してるし……」


 完全否定したかったシモンだが、ふいに昼間の件が頭を過ぎり、語尾が若干弱くなった。


「お前だって、100%期待してたわけじゃないんだろ。だったら、最初から俺を100%信じろよ」

「だから、信じてるってば」

「二人とも。揉めるんだったら、部屋に戻ってからにしろよ」


 珍しく意見がぶつかるヤコブとシモンを、ペトロは話題が逸らされる前に止めた。

 しかし。説得に行ったヨハネは、ヤコブの主張を聞いて納得する部分はあった。


「確かに、最初は無関係を突き通していたことを考えると、期待はするべきじゃなかったのかもしれない。でも、ハーロルトの本心を少し聞けただけでも、行ってよかったと思う」


 オイゲンの邪魔は入ったが、話ができて後悔はなかったとヨハネは胸の内を口にした。

 ところがアンデレは、シェパーズパイをビールで流し込んで物申し始める。


「ていうか、ヨハネさん。思ったんですけど、直接話しに行くことなかったんじゃないですか? 説得なら、電話でもできるじゃないっすか」

「アンデレの言う通り、電話でもよかったんだけど。直接会って顔を見て話した方が、気持ちも伝わるんじゃないかと思ったんだ」

「だけど! もしもヨハネさんがいないあいだに死徒が現れたら、どうするつもりだったんですか? 五人で歯が立たなかったのに、四人じゃ手も足も頭も出ないっすよ!」

「アンデレは戦闘能力はないから、戦闘要因の頭数に入るか微妙だしな」


 つまり。事実上、三人対一人。数的に見れば優勢だが、相手が一人でも言わずもがなだ。


「ヨハネさんが帰って来た時に、おれたち全滅してたらどうするつもりだったんすか! バンデのヨハネさんが近くにいなかったら、おれも全力出せなかったですよ!」

「それはごめん。一刻も早く、戦力増強をしたいと思って……」

「運良く何もなかったですけど、おれのこともみんなのことも、考えてなさ過ぎっす!」


 アンデレは、二口ぶんくらいに切ったシュニッツェルを、大口を開いて突っ込んだ。いつもと違ってだいぶ臍を曲げているアンデレに、ヨハネも戸惑う。


「いや。考えてるから、説得に行ったんだって」

「もっとちゃんと、話し合った方がよかったんじゃないんすか?」

「アンデレはただ臍を曲げてるんじゃなくて、本当に怒ってるみたいだね」

「お前ら二人も、揉めるなら部屋でな」


 二組目のバンデも始まりそうだったので、ペトロが再び止めた。


「ヨハネ。オイゲンさんとも話したの?」

「話したというか……。ホテルから勝手に連れ出したの気付かれて、連れて帰ると勘違いして怒られた」

「説得に行って勘違いまでされて、一つも収穫ないなんて。マジで無駄足じゃねぇか」

「いや。収穫はあったかもしれない」

「考える時間がほしいとか、ハーロルトが言ってたの?」


 シモンは再び期待を抱いて尋ねたが、ヨハネは「いや」と否定する。ではどんな収穫があったのかと、シモンたちは耳を傾ける。大したことではないだろうと、ヤコブはグラスのビールを傾ける。


「ハーロルトといる時に、なぜか悪魔が現れたんだ」

「はあ? 悪魔が!?」


 耳を疑い左右の眉を非対称にしたヤコブは、ビールを飲むのを中断して、グラスをテーブルに置いた。驚いたのは、全員同じだった。


「それ、本当かよ!?」

「この街以外に現れてるって、今まで一度も聞いたことなかったよね?」


 そう。悪魔の出現・目撃は、このベツィールフ州内でしか起きていない事象だった。だから州外ではUMAと認識されていたのだ。

 しかしそのはずが、遠く離れたノルック州にも現れたと聞き、四人は信じ難かった。だが唯一、アンデレはその情報を目にしていた。


「そういえば。SNSでちょっと騒がれてた。UMAだと思ってた悪魔と使徒が、実在した! って。事故もあったらしいっすけど、まさか、ノルックで起きたことだとは思わなかったっす」

「どういうことだよ、ヨハネ」


 神妙な面持ちで、ペトロが尋ねる。


「僕にもよくわからない。気配を感知することもなく、突然現れたんだ。鎖はなくて、しかも、憑依してるやつらとは違って、明らかに人間を捕食対象として襲ってた」

「いつものやつとは、全く違う個体ってことか」

「一体だけだったから、僕一人でどうにかするつもりだった。だけど、ハーロルトが戦闘領域内に入って来て、悪魔の気を一瞬逸してくれた。そのおかげで祓えたんだ」

「ハーロルト、戦いが怖いって言ってたのに……」


 戦いから逃げたハーロルトが、自ら巻き込まれに戦闘領域内に入ったことも驚くことだが、ツヴェール州以外の地にも悪魔が現れたことの方が、使徒にとっては気掛りだ。

 気配を感じ取れないなら、予告もないということ。だが、距離的に駆け付けるのは、物理的に不可能。今後も悪魔がノルック州に現れないことを、祈るしかない。


「あと、もう一つ。ハーロルトのことじゃないんだけど。単体の悪魔だったからハーツヴンデで戦ったんだが、やつに武器に噛み付かれた時に、不快感を覚えたんだ」

「不快感?」

「相互干渉を受けてるような。例えて言うなら。死徒の棺の中にいる時と、似たような気分を感じたというか……。しかも。噛み付かれた箇所から、〈苛念(ゲクイエルト)〉が黒く変色していった」

死徒(やつら)も、相互干渉できるからな」

「たぶん。僕の負のエネルギーを、ハーツヴンデから食ってたんだと思う」


 ハーツヴンデは、所持者のトラウマを元に形した武器。いわば、負のエネルギーの塊だ。あの悪魔がヨハネに狙いを定めたのも、ハーツヴンデから負のエネルギーの匂いを感じ取ったからだろう。


「その感覚なら、オレも感じたことある」

「ペトロも?」

「この前フィリポと戦った時、オレのハーツヴンデとやつの剣が交わった時に、不快感を覚えた。その時のオレの〈誓志(アイド)〉も、ヨハネと同じように少しずつ黒く変色した」

「死徒の相互干渉は、ハーツヴンデからもできるってこと?」

「それはわからないけど。ハーツヴンデで死徒と戦う時は、気を付けた方がいいと思う」

「それは、警戒しとかねぇとな。それ以外は、大した収穫はなかったってことか」


 ヤコブは再びグラスを傾け、ビールを飲み干した。


「でも。話をした時、ハーロルトには少し迷いがあるような気がした。もしかしたら……」


 と、ヨハネはまた期待を口にしかけるが、ヤコブがグラスを強めに置いた音に遮られた。


「だから、もう期待はやめとけって。もう一度言うけど、俺らに全振りだろうが神様が全部わかっていようが、俺らがやればいいんだよ。俺らにはバンデがいる。その絆の力で強くなって、ついでにトラウマを完全克服すれば無敵だ。死徒なんて秒で片付けてやるよ!」

「そうっすね! 一人欠けたなら、そのぶん強くなればいいんすよ!」

「お前ら、簡単に言うけど……」

「じゃあ逆に言ってやるけどよ。ヨハネ。お前は、やる気のない他人と、仲間の俺ら、どっちが信頼に足ると思うんだよ」

「それは、仲間の方が……」


 今回の結果と諸々を考慮すれば、今まで背中を預け合ってきた仲間の方が、安心安全でスムーズ、且つ戦闘に全集中できると答えが出るのは、至極当然だ。

 ヨハネの答えを聴いて、ヤコブはパンッ!と手を一つ叩いた。


「てことで。この話は終わりだ! アンデレ。今日は、なんか面白い話はないのかよ」

「おもしろい話ー? ……あっ! そうだ。今日、仕事行く途中にさー……」


 ヤコブが舵を切ったところで、ハーロルト説得のくだりは、アンデレのおもしろ話に切り替えられた。だがおかげで、少し空気が悪くなりかけたリビングルームが、雰囲気を持ち直した。




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