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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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23話 友達へのかくしごと



 ヨハネが、ハーロルトに会いに行っていたころ。

 掃除を終わらせたシモンは、いつメンの友達に誘われて本屋へ行っていた。

 三つのフロアに分かれていて、真ん中は吹き抜けになっている、大きな店舗だ。置いているのは、雑誌や文芸などの書籍だけでなく、楽譜やDVD・CD、文房具やグッズまで、幅広い商品を取り揃えている。

 シモンたちはマンガがあるフロアにやって来て、それぞれ目当てのタイトルを手に取っていく。


「あった! 海賊王の最新刊!」

「うわぁー。今すぐ読みたいー。表紙めくる? めくっちゃうか?」


 ビニールが掛かっていないから、立ち読みもできる。けれど男子二人は、表紙を摘んでその場で読みたい欲を我慢する。


「本当は、デーモンも続き買いたいんだよなぁー。でも母さんから、マンガは月に一冊までって決められてるからなぁー」

「同じく。目の前にあるのになぁー」

「これ、最終巻だよな? 表紙めくる? めくって、ちょっとだけ見ちゃう?」


 男子二人が欲求との攻防を続けている隣では、女子二人も買うものを決めていた。


「買うもの決めた?」

「うん。前にちょっと読んで面白かったから、これにする」

「どういう話?」

「昔の中国の宮廷が舞台で、薬屋の女の子が謎を解き明かすの。ミステリーにちょっとラブストーリーの予感もあって、惹かれちゃった」

「あたしは、これ。あたしたちと同世代の子たちが、超能力とか使ってUMAと戦うやつ。主人公の冴えない男子とギャルの女の子の、くっつくのかくっつかないのか微妙な距離間が、読んでて堪らないんだよね〜」


 それぞれが、それぞれの好きなジャンルを揃えた棚の前で歓談している時。シモンもあるジャンルの棚の前で、表紙が見えるかたちで置かれたマンガをジッと見ていた。


(この表紙、男の人同士が密着してる。BLってやつかな。まだ、読んだことないんだよな……)


「BL」というマンガのジャンルがあるというのは聞いたことがあり、どういうふうに男性同士の恋愛が描写されているんだろうと、気になっていた。


「シモンくんは、どれ買うの?」


 急に女子友達に話し掛けられたシモンは、ちょっとドキッとする。


「ボ、ボク? ボクは……これ」


 みんながいた隣の棚に移動して、巻数を選んで一冊取った。


「おっ! 呪術師のやつじゃん! それも人気だよな!」

「それ、怖くない? 気にはなってるんだけど、あたし怖いのちょっと苦手なんだよね」

「UMAは平気なのに?」

「UMAと怨霊は別物なの!」

「たぶん、思ってるほど怖くないよ」

「シモンは、普段から似たようなやつ相手にしてるから、平気なだけじゃないのか?」

「そんなことないよー。ボクも怖そうなイメージだったけど、同室の仲間が持ってたの試しに読んだら、結構面白かったよ」

「じゃあそれ、同室の人とシェアして読むの?」

「そうだよ。今日は、頼まれて買いに来たんだ」


 すると、女子友達の一人が「あっ」と何かを思い出した。


「その人って、仲良さげに一緒にいるとこを時々目撃されてる、ヤコブさんて人?」

「そうだよ。ヤコブとは、結構仲良いんだ」

「変な噂もSNSで見たことあるけど、知ってる?」

「なんとなくは」


 大体は「兄弟みたいでかわいい」と評判だが、一部では「親密過ぎてなんか怪しい」と噂になっている。ヤコブがよくシモンの頭を撫でるところも目撃されているから、悪ふざけで言っているだけかもしれないが。


「ああいうのは勝手に言ってるだけだから、あんまり気にしない方がいいよ」

「あんなのいちいち相手にしてたら、きりがないからな」


 買うものが決まった五人は、レジへ向かった。シモンは、友達の一番後ろに並んだ。


(SNSのことは知ってたけど、気にはしてない。前にカフェで会った人たちも、肯定してくれる人たちだったし。過剰な心配はしなくても、大丈夫だと思ってる。でも……。この前みたいなゴシップ記事が出たら、みんなはどういう反応するんだろう)


 BLマンガがほしかったが、友達がいる前で手は出せなかった。同性が好きだと打ち明けてもいないので、友達の前でBLに興味を示したらどういう反応をされるんだろうと、シモンは後ろめたくなる。


(あの記事が出た時、ユダは堂々としてたな……。あんまり、考えたことなかったけど。もしも、ボクとヤコブのそういう記事が出たら、ヤコブはどうするんだろう。職場の人との付き合いもあるし、気にするかな……)


 シモンはふと、ヤコブの上司のティウブと会った時のことを思い出す。店長はシモンを見て「頼りない」と言ったがヤコブは庇ってくれた。しかし、「学業を優先した方がいい」というティウブの言葉に反論しようとした時、ヤコブは遮って彼との約束を優先した。


(ヤコブは社会人で、上司がいる手前、ボクが余計な口答えをすることで、関係性にヒビを入れたくなかったんだよね。社会人になれば、周りとの摩擦や軋轢に気を遣って、潤滑な人間関係の構築が大切だもん。あの場面でのヤコブが上司の人を優先したのは、当たり前なんだよね)


 誕生日を経て、制限していたヤコブとの物理的距離もほとんどなくなった。けれど、言いたいことを言えなかったシモンは、ちょっとだけモヤモヤしていた。


 会計を終え、他にどこへ行こうかと話しながら店を出ると、同じ黄緑色の詰め襟の服を着た二人組の青年がチラシを持って、道行く人々に声を掛けていた。


「あなたは今、幸せですか?」

「あなたは今、心が満ちていますか?」

「一人で悩まれていませんか?」

「救われていますか?」


 よく見ると、同じ赤毛に同じライトブラウンの瞳の、同じ顔をした双子だ。

 シモンは何気なく立ち止まって、双子を見つめた。すると、シモンの視線に気付いた双子も、同時にシモンを見つめ返した。


「あなたは本当は、一人ではありませんか?」

「本当の貴方は暗い心の底にいて、孤独なのではありませんか?」


 お互いのあいだを人が往来して視界を邪魔しても、シモンは不思議と双子から視線が離せない。


「おーい。シモン、行くぞー」

「どうしたのー?」


 友達が、シモンが来ていないことに気付いて呼んだ。でも、シモンは行かなかった。


「ごめん。先に行ってて」

「じゃあ。先に、シモンくんのチョコのお店に行ってるね」


 シモンのチョコの店とは、彼がイメージキャラクターを務めているチョコレート専門店のことだ。次はそこでアイスを食べようという話になったらしく、落ち合うことを約束して友達は先に行った。

 シモンは返事を返さず場所だけ聞き、双子に近付いて行った。




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