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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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21話 遠地の悪魔



 道路を挟んだ向こう側のショッピングモールの前に、見慣れた黒い異形の姿の悪魔が現れた。

 ……いや。よく見ると、頭部に二本の角のようなものと、太い尻尾が生えていて、いつもの悪魔とは別物のようだ。そいつは、ライオンが狩りをするように無差別に人々に飛び掛かっては、大口を開けて頭にかぶりつき、襲われた人は次々と倒れていく。


「あれは、何なんだ!?」

「悪魔です!」


 事態が飲み込めていないオイゲンに簡潔に説明し、ヨハネは使徒の跳躍力で車が行き交う道路を跨ぎ、駆け付けた。


「大丈夫ですか!?」


 襲われ倒れた女性の上半身を起こし、顔色を観察する。

 声を掛けても返事はなく、気を失っているだけのようだが、症状は憑依された人と似ていて、顔色が悪く酷くうなされている。

 通行人を数人襲った悪魔は今度は交差点に立ち、向かって来た車を片手でいとも簡単に止めた。

 前方の車が急停止し焦った後続車は、衝突を回避しようと対向車線にハンドルを切るが、対向車と正面衝突しそうになる。


防御(フェアヴァイガン)!」


 ヨハネは咄嗟に防御を展開し、衝突を防いだ。しかし、他の後続車が並走する車両と衝突したり、信号待ちの車にまで突っ込んだ。通行人にも危険が及んだのでそっちは守れたが、連鎖的に起こる事故はヨハネ一人では防ぎきれなかった。


(このままじゃ危険だ!)

「みなさん! できるだけここから離れてください!」


 わけのわからない未知の生物の出現と、突発的な事故で混乱する人々は、ヨハネの避難指示がなくても逃げ出し始めていた。


「領域展開!」


 周囲の状況を確認したヨハネは、交差点のみを隔離して守護領域を展開した。

 一方。悪魔に停められた車は、前にも後ろにも完全に動けなくなっていた。


「ど……どうなんてんだ! 何なんだこいつは!?」


 アクセルを踏んでもタイヤが空回りし、運転手の男性は額とハンドルを握る手から汗が止まらない。

 悪魔は四つん這いでボンネットに登ると、フロントガラスをするりと抜けて男性に近付き、牙の生えた大口でかぶりつこうとする。


「ひいっ!」

「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


「グアゥッ!?」ヨハネは悪魔の下半身を狙い、光の弾丸を降らせた。ボンネットにも、散弾銃を浴びたような穴が幾つも空いた。


「今のうちに逃げて!」


 男性は慌てふためき転びながら、必死に逃げて行った。

 守護領域内で、悪魔と一人で対峙するヨハネ。


「こいつは、どこから現れたんだ」

(悲鳴がするまで、出現する気配は感じなかった。倒れた人々を見ても、やつと鎖で繋がってる人はいない。それにこいつは、他のやつと行動が違う。いつもの悪魔も他の人間を襲うけど、憑依した人間の苦しみを体現した存在だから、脅威はそれほど感じない。でも、こいつは姿からして違う。明らかに、人間を捕食対象としている)


 ヨハネは視線だけで、道路や建物の上など周囲を見回す。


(死徒の気配も、ゴエティアがいる気配もない)

「単純な悪魔単体の出現なんて、初めてだ。しかも、僕一人か」

(問題ない。余計な配慮がいらないなら、最初から遠慮なく戦える!)


 ヨハネは事態収拾までの時間短縮を考え、ハーツヴンデでの戦闘を選択し、〈苛念(ゲクイエルト)〉を具現化させる。

 すると、途端に悪魔が一直線に向かって来た。


「ゥ"オ"オッ!」

「はっ!」


 悪魔は尻尾を伸ばしてきたが、槍でザックリ切断し、突進して来た悪魔を避けつつ脇腹も裂く。「グゥッ!」


「貫け! 天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」


 隙きを与えず、すぐに振り向き秋雲浮かぶ空から雷を落した。

「グアゥッ!」食らった悪魔は一瞬動きが止まるが、ヨハネを睨み飛び掛かって来る。


「はあっ!」


 力を込めた〈苛念(ゲクイエルト)〉の刃が光を纏い、すれ違いざまに悪魔の胴体を上下半分に切断した。

 この戦闘は、ヨハネが優勢かと思われた。ところが、下半身を失っても往生際が悪い悪魔は、上半身だけでも動き続け、両腕を足代わりに飛び付き〈苛念(ゲクイエルト)〉に掴み噛み付いた。


「ググゥ……」

「何だ!?」


苛念(ゲクイエルト)〉に噛み付かれるヨハネは、不快感を覚える。そして、失われた悪魔の下半身が少しずつ復活していく。


(何をしてるんだ、こいつ。この感覚、まるで……)

「くそ……。離れろっ!」


 噛み付かれる槍の柄に、次第に黒いシミが広がっていき、ヨハネの不快感も徐々に増していく。

 その時、叫ぶ声がする。


「ヨハネくん、後ろ!」


 叫び声で振り向くと、悪魔は復活した尻尾で無人になった車を突き刺して、投げ飛ばして来た。


防御(フェアヴァイガン)!」


 不快感に堪えながら、ヨハネはギリギリ防御した。教えてくれたのは、戦闘領域の中に入っていたハーロルトだ。


「ハーロルト!? お前何して……!」


 ハーロルトはヨハネの注意を無視し、持っていたカフェのマグカップを悪魔を狙って思い切り投げた。白いマグカップは悪魔の頭に当たり、悪魔はハーロルトの方に気を逸らした。


(あいつ………!)


 狙いを変えられる前に、下半身が完全復活しそうな悪魔をどうにかしなければと考えるヨハネ。

 ふと、以前のゴエティアとの戦闘で、ユダとペトロが傀儡亡霊に囲まれた時に、御使いの抱擁ウムアームン・エンゲルで脱出していたのを思い出した。


(やってみるか)

「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」


 悪魔と自身を巻き込んで、回避不可能の光の爆発を起こした。


「グァアア……ッ!」

「く……っ!」


 自分にダメージはないと思ったが、多少食らってしまう。だが、この程度のダメージならいつもと同じだ。

 弱りながらもしぶとく槍を掴む悪魔を、そのまま地面に叩き付け、さらに攻撃をぶち込む。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 現した二つの光の玉からビーム光線を放ち、悪魔の上半身と下半身に穴が開く。「グォェアッ!」

 そして、仕上げだ。〈苛念(ゲクイエルト)〉を悪魔の胴体に突き刺し、力の注入で刃の光が輝きを増す。


「貫き拓く! 冀う縁の残心(エントゥウィクレン)皓々拓く(ゼルプスト)!」


「グォオ"アア"ァ……!」直接閃光を打ち込まれた悪魔の身体は膨れ、破裂して塵と化した。

 一人で祓魔を無事に終えて、ヨハネは一安心の息を吐く。


御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル、普通に効いた……。バンデがいないからか?」

「ヨハネくん、大丈夫?」


 ヨハネを心配して、ハーロルトが駆け寄って来た。だが。


「なんで、守護領域内に入ったんだ! 悪魔に襲われてたかもしれないんだぞ!」


 危険行為を犯したハーロルトに、厳重注意した。怒鳴られたハーロルトは、ヨハネの3メートル前で足を止めた。


「でも。なんか、身体が勝手に動いて……」

「戦う覚悟のないやつが、安易に関わるな!」

「……ごめん」


 ヨハネに本気で怒られ、ヘコむハーロルト。しかし、無事でいられたのはよかったので、怒るのはこのくらいにしておくことにした。


「でも。やつの隙きを作ってくれたのは、感謝するよ」


 ヨハネは、ハーロルトが投げたカフェのマグカップを拾って渡した。


「悪いけど、体調不良で倒れた人と負傷者がいるから、救急車を……」


 呼んでくれと頼もうとしたが、解除された守護領域の遠くからサイレンの音が聞こえて来る。すでに誰かが呼んでくれたようだ。


「そっちは大丈夫そうか」

「悪魔に襲われた人を、助けなくていいの?」

「たぶん大丈夫だ」

(襲われた人たち全員に、深層潜入は無茶だし。でも。負のエネルギーを、無理やり食われた感じだ)


 苦しそうな様子が憑依された状態の人と似ていた。ということはあの悪魔は、負のエネルギーを貪り食ったのだ。

 逃げていた人々が、今度は野次馬となって恐る恐る現場に戻って来た。消防車と救急車が何台も到着し、衝突事故を起こした人たちは救出され、悪魔に襲われた人々も救急車で運ばれて行った。

 警察車両も同時に到着し、一部始終を唯一まともに話せるヨハネは、警察に起きた出来事をありのままに話した。

 UMA疑惑の悪魔と、「使徒」という特別な人間の存在は本当だったのかと、怪訝な表情を浮かべられた。しかし。偶然動画を撮影していた人が、興奮状態になりながらフォローをしてくれたおかげで、ヨハネは警察署での事情聴取はされずにすんだ。




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