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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第6章 Riss─綻ぶ─

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4話 ペトロ、喝を入れられる



 十月下旬からの秋の連休に入ったばかりの、フォルクスパーク・フリードリヒスハイン。天気がいいので、人々は秋色に変わった公園内の広葉樹の道を散歩をしたり、ピクニックに来た家族などが多く訪れている。

 街歩きをする人も多く、交通量も平日より少し多い。そんな場所で、ペトロとヤコブが四車線道路とトラムの線路を、守護領域で完全封鎖して悪魔と戦闘していた。シモンは、歩道に横たわる四十代くらいの男性に深層潜入中だ。

 ヨハネとアンデレが来られないので、二人でシモンと男性を守りながら戦闘していた。ペトロはシモンと男性の側で後方支援をし、ヤコブが前方に出る布陣を取っていた。

 悪魔は縄のように伸ばした腕を、道路上に放置された車体に巻き付け、いとも簡単に持ち上げて投げて来る。ヤコブは俊敏にそれを避けながら、攻撃する。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 車を盾にして光の弾丸の雨を凌ぎ、逃走を図る悪魔。


「逃げんなよっ!」


 跳躍したヤコブは道路脇に並ぶ街灯に乗り、その上を三段跳び選手のように走り、逃げる悪魔の行く手を遮った。

 悪魔はまた車を武器にしようと、腕をギュインッと伸ばした。そのタイミングで、ヤコブはペトロに合図する。


「ペトロ!」

「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

「μ∀∂ッ!」


 ペトロが出現させた二つの光の玉から放たれたビーム光線は、悪魔の身体を貫いた。

 ヤコブも、間髪を入れず攻撃をくり出す。


「貫け! 天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」


 しかし、しぶとく倒れない悪魔は、ペトロの攻撃を食らった瞬間に武器の車を確保していた。ヤコブが放った雷は引き寄せられた車が身代わりにされ、悪魔はペトロの方へ急接近する。

 悪魔は武器を持っておらず丸腰に見えたペトロは、正面から攻撃をしようと構える。だが、気付いたヤコブが叫ぶ。


「ペトロ、横だ!」


 悪魔の後ろから、大きな陰が現れた。トラムの停留所の角柱の看板だ。ペトロに標的を変えた一瞬のあいだに悪魔はへし折り、丸腰と見せ掛けていたのだ。

「!?」ペトロは、防御か反撃かの判断が遅れ、2メートルはあろう鈍器を食らいそうになったが、


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 ヤコブが看板を破壊して、直撃は免れた。停留所のマークが書かれた鉄やガラスが、周囲に飛び散る。

 作戦を見抜かれた悪魔が一瞬足を止めたのを見過ごさなかったヤコブは、続けて攻撃を放つ。


「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」


「δ∅∅@……ッ!」回避不可の光の爆発で悪魔は致命傷を負い、十字の楔(カイル・クロイツェス)で拘束された。

 程なくしてシモンが深層潜入から戻り、ペトロとヤコブで祓魔して、戦闘は終わった。

 倒れていた男性も意識を取り戻し、三人にお礼の握手をして、待っている家族の家へと歩いて行った。


「おい、ペトロ。お前今日、全然大丈夫じゃねぇじゃん」


 戦闘は無事に終わったが、腰に手を置くヤコブは気合が足りないペトロに早速注意した。


「ごめん。集中ができてなかった」

「一瞬の判断ミスが、一般人を危険に晒すんだぞ。今日は俺ら三人だけだから頼むぞって、言っただろうが」

「本当にごめん」


 生活習慣を見直し中のペトロは、戦闘中の姿勢も改善しなければと、ヤコブの喝で心から反省する。


「ヤコブ。そんなに怒らないであげなよ。ペトロも、ちゃんとわかってるんだし。それに、ヤコブはペトロを責められないでしょ」

「うぐっ……」


 と、シモンはフォローした。

 ペトロが深層潜入中に鎖を切ろうとした危険未遂事件を引き合いに出され、途端にヤコブはバツが悪くなってしまった。


「ペトロ。次、気を付ければ大丈夫だよ。今回は、僕と男の人を守らせるためにペトロを後方に回したヤコブが、悪魔とタイマンするっていう作戦だったんだから」

「そんな作戦言ってねぇ」

「そんなニュアンスだったでしょ。ちゃんと、ペトロの体調気遣ったんだもね」


 心を見抜いているシモンにニコッと微笑まれたヤコブは、そのかわいさに反論のエネルギーを吸い取られる。


「タイマンするつもりはなかったけど、俺がなんとかするつもりではいた。でもな! 人手不足の時くらい、意地でも気合を入れろ!」


 でもペトロに顔を向けると、夏も過ぎたのに溶けそうな理性を誤魔化して、改めて喝を入れた。


「迷惑掛けてごめん。自己管理、ちゃんとするように心掛ける」

「でもペトロ。このあと広告撮影の仕事でしょ? 一人で大丈夫?」


 そう。ペトロはすぐに、広告の撮影に向かわなければならない。先方には、緊急事態で約束の時間に遅れることは知らせてある。


「大丈夫だよ」

「その顔色で大丈夫は、ちょっと信用できねぇな……。しょうがねぇ。ちょうど休みだし、俺が付き添うわ」

「別にいいって」


 ペトロは、強がりと遠慮で断ろうとした。しかし、ペトロの心情を聞いて知っている二人も、放っておくつもりはない。


「ペトロ。甘えときなよ」

「俺らに遠慮はいらねぇよ。お前のメンタルが大丈夫になるまで、穴が開くくらいガン見してるからな」

「それじゃあ監視と同じだよ、ヤコブ」


 もっと慈悲深い眼差しで見守ってあげないと、余計なストレスになっちゃうよ。と普通に指摘されるヤコブ。

 二人のナチュラルイチャイチャを見なかったことにしたペトロは、心配をしてくれる温情を断るのも悪いので、ヤコブに撮影に付き添ってもらうことにした。




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