67話 企図
マタイとフィリポはシェオル界に戻り、広間で同士と顔を合わせていた。躾で落とされたフィリポの両腕は、右腕だけは既に元に戻っている。
「マタイ。何でフィリポに力を貸さなかったのよ。貴方ならあんな子達、一瞬で終わらせられるじゃない」
「そうだ。何故そうしなかった」
本当にフィリポを回収しに行っただけでどうするんだと、マタイの行動にマティアとバルトロマイは不服を表した。
「俺様が今後も活躍出来る機会を、作ったんだよな!」
「其れは絶対違うと思うー」
タデウスからだらけながら言われると、フィリポは「ああん?」と睨んだ。タデウスの言う通り絶対にそんなわけがないと、マティアたちも心の中で同意した。
不服を言われたマタイは、統括でありながら不信を抱かれては今後の計画遂行に支障が出ると判断し、初めて彼らに本心を口にする。
「俺には、手を出す動機が無かったからだ」
「動機が無いだと?」
「どう言う事だ」
「マタイは、使徒を敵だと思ってないの?」
当然のごとく、バルトロマイたちは訝った。
「そう言う訳ではない。使徒は、『ホーローカウスト』の遂行に邪魔な存在だ。だが、興味が無いんだ」
「敵なのに、興味が無いのー? おれと同じで、どうでも良いって事?」
「奴等をボコる理由が無いなら、作れば良いだろが! ストレス発散でも退屈凌ぎでも、何でも良いじゃねーか!」
「マタイは、そんな理由で人間を痛めつけないよ」
「きみとは違って、理性的だからねー」
トマスとタデウスに侮辱されて、二人を睨むフィリポ。ビビッたトマスは、「ひやっ!」と机の下に隠れた。
「俺は、使徒は一人を除いてどうでも良い。だから、奴等と戦う事はお前達に任せる」
本心を正直に明かしたが、それでも不服なマティアは眉をひそめる。
「何よ其れ。其れでもアタシ達の統括なの? 使徒に興味無いとか、本当に萎えるわ」
「だが。『ホーローカウスト』はやる気ではあるんだな?」
「其れは勿論だ。人間への復讐が、俺が存在する意味だからな」
「其れを聞いて安心したぜ! 何たって、メインイベントだからな!」
「其の為にも、あの木の生育スピードをもう少し早めたい」
「負のエネルギーがまだ足りないの? 使徒からも貰ってるわよね」
「貯蓄分を分けて与えているからな」
人間だけでなく使徒からも回収した負のエネルギーは、城の裏の丘に横たわる巨大な黒い十字架に蓄積されている。その『ホーローカウスト』のためのエネルギーを養分として、あの植物は成長していた。
「だから。今までと少し趣向を変えた方策を、実行しようと思う」
「違う戦闘ってことか! 面白そうじゃねーか!」
「そこで。タデウスとトマスには、別働隊としてやって欲しい事が有る」
「えー。また何かやらされるのー?」
「ええ……。何やるの? 怖い事は嫌だよ?」
タデウスとトマスは、それぞれ別の心境で眉をハの字にする。
「怖くは無いし、難しい事でも無い。一度に多くの負のエネルギーを回収する為の、良い策だ」
退屈だと嘆いているフィリポたちの暇潰しにもなり、おまけに人間を暗い驚怖の穴に落とすこともできる。
一石三鳥の画策に、マタイは自身の本懐が叶う日が来るのを想像し、不敵な笑みを浮かべた。
第5章を読んでくださり、ありがとうございました。
急展開な終わり方となった第5章、いかがだったでしょうか。
もう、ペトロが心配でならないです。バンデだったユダの名前も消え、一人になったペトロは、これからどうするのか、円野も心配です(自分でそういう展開にしたんですが)
次章は、死徒にはこれまでとちょっと趣向を変えた攻め方をさせます。普通に戦わせるのは飽きたので(笑)
バンデの絆が試される展開になる予定です。だけど、ペトロのバンデはいない。どうする!?
さて。
おまけエピソードはありませんが、この次は、また閑話をご用意しました。
こんな展開のあとにこのエピソードをぶち込むのかと、読者の皆さまの心を抉るようでちょっと心が痛みますが。
「誕生日の夜の恋人たち」シリーズ第1弾、ユダ×ペトロをお送りします。
人格入れ替わりが起きる前のイチャイチャする幸せな二人を想像しながら、読んであげてください。
よろしかったら、ペトロくんへの応援のお星さまもあげてください(´- `*)




