63話 雷霆降る
「ペトロ!」
ヨハネが槍で一閃を放ち、フィリポを牽制した。シモンとヤコブも斧と弓矢で同時に攻撃し、ペトロを援護する。
「目障りなんだよ、糞蝿共!」
フィリポは雷霆を降らせるが、毎度防御されてだいぶ苛立ちを募らせている。
(糞邪魔だな、あの防壁!)
「だったら、元を叩けば良い!」
フィリポは一時標的を変え、アンデレの目の前に瞬間移動した。
「っ!」
「テメェはくたばっとけ!」
フィリポはハンマーを振り上げ、アンデレを守るの防壁に勢い良く叩き付けた。雷霆は光る龍のごとく大きな雷となり、鼓膜が破れそうな爆音を鳴らして落ちる。
「あ"ぁ……っ!」
強大な威力の雷霆は防壁を破壊し、アンデレに直撃。意識を失い倒れてしまった。
「アンデレ!」
「これで、少しは苛付かされずに済みそうだな」
「フィリポーッ!」
バンデのアンデレがやられたヨハネは怒りを露にしてフィリポに突進し、刃が金色に光る〈苛念〉で直接一撃を食らわせようとした。だが、カットラスに阻まれる。
ムキになるさまを嘲笑うフィリポ。
「仲間がやられてそんなに悔しいか! だが、自分を守れる力すら無ぇ奴は滓だ!」
「確かにアンデレは、僕に迷惑ばかり掛ける面倒くさいやつだ。でも、それでも僕の大事な相方なんだよ。その相方をバカにするな!」
ヨハネの横からハンマーが繰り出される。「ヨハネ!」咄嗟にシモンが防御で守ろうとするが、フィリポのハンマーの威力の方が強く、防壁は砕かれ、ヨハネは吹っ飛ばされ背中から街灯に衝突した。
「ぐぅ……っ!」
その衝撃で街灯が湾曲する。
「糞愚物が、俺様に歯向かうんじゃねー!」
「はああっ!」
仲間が二人連続でやられ憤ったペトロが、〈誓志〉で斬り掛かった。カットラスで受け止められると、また炎に囲まれる。
「オレたちを侮るんじゃねぇよ!」
「格下なのは本当じゃねーか!」
「ちょっと戦ったくらいで勝手に決め付けんな!」
「最初から決まってんだよ! 世界の一瞬しか知らないテメェ等が、永年の積怨を抱いて生まれた俺様達に勝てる訳がねぇ!」
カットラスと交える〈誓志〉の刀身が、また少しずつ黒く変色していく。しかしペトロは、もうそんなことを気にする余裕はないと無視する。
「オレだって、自分の志を信じて覚悟を持ってる! お前らの積怨に負けるような気持ちで戦ってない!」
ペトロはカットラスを弾いた。そして刀身を翻し、フィリポの胴体を狙う。しかし、また影の壁に阻まれるが、〈誓志〉が金色の光を帯びた。
「邪魔っ!」
壁が真っ二つに切断された。そして、フィリポの軍服の前身頃も同時に切られた。
「!?」
「強靭奮う! 晦冥たる白兎赤烏、照らす剛勇!」
「射貫く! 泡沫覆う惣闇、星芒射す!」
いつの間にかフィリポの左右にヤコブとシモンが接近し、三日月形の斬撃と大きな光の矢が同時に放たれる。だが、一瞬でフィリポの姿が消えた。
影に身を隠したフィリポは離れた場所に移動し、一時距離を取った。しかし、フィリポの気配を追ったペトロに一瞬で追い付かれる。
(何っ!?)
「切裂く! 朽ちぬ一念、玉屑の闇!」
正面から食らいそうになり、また影の中に潜り、ペトロの背後に現れハンマーを振り下ろそうとした。
ところが、ペトロは背後に現れた気配にも気付き、光を帯びた〈誓志〉で巨岩ほどの威力を受け止めた。雷霆が降り注ぎ身体が痺れても、一歩も退こうとしない。
フィリポは、右手のカットラスで切り付けようとする。ペトロは服を裂かれるも、ギリギリで避け後退する。が、フィリポに追い付かれ、雷霆を食らわされそうになる。その時。
「貫き拓く! 冀う縁の残心、皓々拓く!」
復活したヨハネが力を溜めた〈苛念〉で、フィリポの背後から直接突き刺して来た。しかし、また影の中に潜られてしまう。
「ヨハネ!」
「大丈夫だ。アンデレが治癒してくれた」
遊歩道に倒れているアンデレは、ボロボロになりながら歯を見せてサムズアップする。どうやら、致命傷は避けられたようだ。
「テメェ等、調子に乗りやがって!」
影の中から姿を現したフィリポは、深い皺ができるほどに眉頭を寄せ、深紅の双眸にこれまでにない怒りを宿し、苛立ちで溢れる腸を煮えくり返していた。
「糞愚物共がぁっ!」
激昂で振り下ろされたハンマーが地面に叩き付けられると、今までで一番激しい雷霆が広範囲に降り注いだ。地面には穴が空き、街路樹は裂かれて燃え、建物も削られた。
アンデレはどうにか自身を防御するが、ペトロたちまでサポートできない。逃げ場もない四人は自身で防御をするが、雷撃は貫通し食らってしまう。
「あ"あ"……っ!?」
「みんな……っ!」
「糞! 糞! 糞! 糞共がぁ!」
フィリポはハンマーを手に、使徒の中で一番の弱者であるシモンに襲い掛かる。そうはさせまいと、ヤコブは倒れるシモンに身体を覆い被せ庇うが、「があ"ぁ……!」代わりに雷霆を食らってしまう。
「はあっ!」
ヨハネも痺れる身体に鞭打ち、〈苛念〉を手に怖めず臆せず立ち向かうが、「ぐあっ!」手足を影に拘束されカットラスで斬り付けられ負傷する。
「フィリポッ!」
ペトロも、痺れを吹き飛ばす気合いで身体を動かし、光を帯びた〈誓志〉で斬り掛かる。フィリポはカットラスで受け止めた。
「何奴も此奴も目障りだ! 羽虫みたいにブンブン飛び回りやがって! 燃えて消え失せろ!」
そう言うと、カットラスから大量の炎が噴き出し、辺りは炎の海と化した。
「くっ!」
炎に包まれるペトロは、表情を歪める。カットラスと交える〈誓志〉の刀身がまたジワジワと黒いシミを広げ、棺の中にいるような不快感に襲われる。炎と相俟って、精神が侵食されていく。
炎は服にも燃え移ってきた。感じる暑さと視覚効果で、トラウマを呼び起こされそうになる。
ところがその時。
「灰になりやが……」
フィリポの両腕が、パッと突然消えた。肩から切り落とされ、カットラスもハンマーも、重厚感のある音と金属音をさせて地面に落下した。
「……!?」
落ちた〈業雷穿撲〉は、フィリポの両腕とともに黒い霧となって消えていき、辺りに広がっていた炎の海も鎮火していく。
突然起きたことに、ペトロも驚き戸惑った。




