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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第1章 Vorahnung─巡り会う─

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23話 エンゲルベッケンの戦い①



 エンゲルベッケン公園は、賑やかな中心街から少し離れた場所にあり、住宅に囲まれ、大きな池の周りには季節ごとに花が咲き、人々の憩いの場所となっている。

 二人が到着した時にはすでに花壇の側で女性が一人倒れていて、鎖で繋がれて悪魔が姿を現していた。


「領域展開!」


 避難の状況を見て、到着と同時にユダが守護領域を展開した。ところが領域内に、女性の他に男性も一人取り残された。

 その男性も苦しみ、助けを求めて足掻き倒れると、二体目の悪魔が現れた。「グμ∅ァ!」


「同時に二体も!?」

「この前は一人から二体だったけど、今回は二人の人間から同時か。しかも、過去のやつらより少し規格が大きいね」


 他のザコ悪魔との違いは、それだけではなかった。


「もμ嫌だ……苦§い……」

「逃∈たい……逃げ∑れ∂い……」


 と、二体の悪魔は、憑依した人間の心の声を聞き取れそうなくらいはっきりとしゃべった。


「おしゃべりも得意みたいだね」

「お待たせしました!」


 そこへ、仕事先やアルバイト先から急行して来たヨハネたちも続々と到着した。


「おいおい。いつもと何か違うと思えば。何で二体もいるんだよ」

「辛∈……苦し∈……」

「言葉が結構はっきり聞こえる!?」

「この通り、いつもと違うパターンみたいだけど、やるべきことは変わらない。今回は、深層潜入組と別れて戦おう」


 リーダーのユダの判断のもと、深層潜入はペトロとシモンが名乗りを上げ、悪魔とはユダとヨハネとヤコブで戦うことになった。


「それじゃあ。私たちもやろうか!」


 ペトロとシモンが憑依された男女への深層潜入を開始すると、ユダとヨハネは男性から出現した悪魔と、ヤコブは一人で女性から出現した悪魔と、無防備となる二人を庇いながらの戦闘が始まった。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」

「貫け! 天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)!」


 距離を取る池の上悪魔は、ユダとヨハネの最初の攻撃を回避し、散弾した光の弾丸と雷は池に落ち水飛沫を上げた。


「痛∑は、もμ∈らな∈……!」


 悪魔は、手を伸ばしながら二人に急接近する。距離を縮められた瞬間にユダとヨハネは後退するが、悪魔が伸ばした手の先で、何もしていないのに地面がひび割れ陥没した。


「地面が陥没した!?」


「イや&……嫌Ъ!」ヤコブが戦っている悪魔からも、同様の攻撃が繰り出された。ヤコブは至近距離で攻撃されそうになり、防御で直撃を免れる。


「くそっ。何で攻撃が見えないんだよ!?」


 三人の攻撃でダメージは与えられるが、可視できない攻撃が読めず、繰り出される瞬間を察知しながらの攻撃が続けられる。


「苦§い……死にζい!」

「解ほう§て……解Ψう……!」

「苦しみから解放されたいなら、大人しくしろって!」

「そもそも。何でこの二体は、今までと規格が違うんでしょう」

「繋がっている鎖を見ると、もしかしたら憑依期間が長いのかもしれない」


 憑依された男女と二体の悪魔に繋がっている鎖は、過去にないほど太く頑丈そうなものだ。悪魔がこれだけはっきりと人間の言葉を話すのも、そのせいに違いない。


「深層潜入したペトロとシモン、大丈夫ですかね」

「大丈夫のはずだけど、これだけ悪魔との繋がりが強いと、ちょっと手子摺るかもしれない」

「んじゃあ。俺らが頑張って、サポートしてやらないとだな!」


 三人は不可視の攻撃に注意しながら、繰り返される攻撃の応酬の中で作戦を立て、ヨハネとヤコブは、池の周囲の緑のアーチを隠れ蓑にしながら移動を始める。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 花壇エリアに残ったユダは、注意を引き付けるために池の上に浮かぶ二体に攻撃する。同時に反撃されるが、それを予測して展開した防御(フェアヴァイガン)で不可視の攻撃を防いだ。


「噴出せ! 赫灼の浄泉(クヴェレ・ブレンデン)!」


 二体がユダに反撃したタイミングで、池の両サイドに移動したヨハネとヤコブが、緑のアーチの中から同時に攻撃する。 


「∀グゥ&∅¢……ッ!」

「μ∅オσ∀ゥ……ッ!」


 二体の足元から光の泉が勢いよく吹き出し、かなりのダメージを食らわせることに成功した。

 不可視の反撃をさせる隙きを与えず、三人同時に連なる天の罰雷ドンナー・ヒンメル・コンティニュイアリヒを放ち、さらなるダメージを与え、少しだけ三人に余裕ができたその時。


「ユダ!」


 男性の方に深層潜入していたペトロが、先に帰還した。

 祓魔に移行するために、ユダは大鎌のハーツヴンデ〈悔責(バイヒテ)〉を、ヨハネは槍のハーツヴンデ〈苛念(ゲクイエルト)〉を手にする。


「はあっ!」

「濁りし魂に、安寧を!」


「&ャλ@アァ……ッ!」二人の連携で、男性の方に憑依していた悪魔は無事に祓魔された。

 残されたもう一体は、ダメージに苦しみながら空中で蹲って呻き声を上げている。


「シモンは!?」


 ヤコブが遅れているのを心配した、そのすぐあと、シモンも無事に帰還した。


「戻って来た!」

「ごめん。ちょっと手子摺っちゃった」

「あとは任せろ! 心具象出ヴァッフェ・ダーシュテーレン─── 〈悔謝(ラウエ)〉!」


 ユダが鎖を断ち、斧のハーツヴンデ〈悔謝(ラウエ)〉を手にしたヤコブは、緑のアーチから飛び出した。


「手子摺らせんなよ! よくわかんねぇ規格外野郎がっ!」


 あとは祓魔するだけだと、斧を振りかぶろうとした。ところが。


「ガ§ア"ψ¿ァµッ!」

「うあっ!?」


 ヤコブは、不可視の攻撃を受ける。察知したヨハネの防御でギリギリ直撃は免れるが、反動で跳ね飛ばされてしまい、何とか空中で体勢を整えて着地した。


「どうなってるんだ!」

「鎖を断ったのに、全然弱ってない!?」


 憑依した人間と繋がった鎖が断たれれば、悪魔はエネルギーの供給を失い、自己修復が不可能になるほど急激に弱体化するはずだ。ところがこの個体は、その常識すらも規格外だった。


「何で。ボク、いつも通りやったよ? なのに、何で強くなってるの!?」

「規格外だってことと、関係があるのか?」


 深層潜入を行ったシモンだけでなく、全員がこの規格外の個体の存在に困惑する。


「やっぱり、憑依期間が長かったんだ。恐らくこの個体は、男性に憑依していたやつよりも。だからそのぶん、餌となる負のエネルギーを多く食べることができて、単独を維持できるほどの力を得られたのかもしれない」

「マジかよ」

「きっと憑依された女性は、自分の中でずっと戦い続けていたんだ。どんなに大きなトラウマだったとしても、抱えて生きていこうとしていたのかも」

「だけど、限界だったってことか……」


 シモンが救った女性は、悪魔と繋がった鎖が断たれても未だ気を失ったままだ。その横たわる姿を、ペトロは憂えた表情で見つめた。

 だが、女性への同情を集めている場合ではなかった。使徒を困惑させる材料はそれだけに留まらず、それまで獣混じりの声しか出せなかった悪魔は、さらに規格外の個体へと変化する。




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