36話 協力戦線 第二弾
ペトロたちは苦戦しながらも、次々と襲い掛かって来る悪魔たちを祓い、着実にその数を減らしていく。
「貫け! 連なる天の罰雷! ヤコブ、右!」
「降り注げ! 祝福の光雨!」
シモンの的確な指示で、ヤコブ側にいた数体が祓われる。
「俺の攻撃、ちゃんと命中してるか?」
「その調子だよ、ヤコブ!」
指示役のシモンは集中力を持続させ、ヤコブは目が見えていると思えるほどの命中率だ。意思疎通ができているバンデの二人は、順調に悪魔を祓っていく。
打って変わり。前回の戦闘でも組んだ、ペトロとヨハネは。
「爆ぜろ! 深き御使いの抱擁! ヨハネ、前だ!」
「貫け! 天の罰雷!」
ペトロの指示で、前方から襲い掛かる悪魔数体を祓うヨハネ。しかしその背後から、三体の悪魔が飛び掛かって来た。が、防壁に衝突してその刃は届かない。
「降り注げ! 祝福の光雨!」
それに気付いたペトロが、その悪魔らを祓った。
(アンデレの防御がなかったら、危なかった)
だが、一安心している暇はない。他の悪魔たちが、防壁を破ろうと攻撃を始めた。
「ペトロ、次は!?」
「なんか、指示求めてる感じか? 防御を破ろうと結構来てるから、広範囲攻撃で!」
「貫け! 連なる天の罰雷!」
「降り注げ! 大いなる祝福の光雨!」
ペトロとヨハネは、広範囲攻撃を続ける。しかし、この状況が長く続けば続くほど、二人には不利になる。力も無限ではない。掛けられた術を解く方法を見つけなければ、やがて追い込まれる。
使徒の状況を観察するシャックスは、次の攻撃を考える。
「此の儘押し切っても良さそうでは有るが、油断は出来ぬか。別の方法もやってみるか」
「シャックス乗って来た? 其の調子で、どんどんやっちゃって!」
トマスは完全に、シャックス応援モードになっている。
シャックスは腕をひと振りして幾つかの羽を地面に刺し、二つの大きな魔法円を展開する。すると、黒く丸い塊が現れてどんどん大きくなり、形を変え、嘴と翼を持った巨大な鳥となった。
「何あれ!」
「鳥!?」
「でっかい鷲! 黒いから烏かな?」
二羽の怪鳥は翼を広げた。その直径は5メートル、全長は3メートルほどはある。
怪鳥は羽ばたき、ペトロたちを守っている防壁の上に乗ると、太い鉤爪や嘴で物理攻撃を始めた。
「こいつら、防御を破ろうとしてる!?」
「何が起きてるんだ、ペトロ?」
「何言ってるか聞こえないけど、状況説明だよな。今、シャックスが喚んだ怪鳥に襲われてる。例えるなら、クマ五頭……いや、六〜七頭ぶんくらいのやつ!」
「クマ七頭ぶんの大きさの怪鳥!? それはマズいな」
「アンデレ! 防御、維持できそうか!?」
「大丈夫! 意識飛んでも続ける!」
アンデレは、サムズアップしてペトロに伝える。続ける気概はありそうだが、任せてばかりもいられないことはペトロにも薄々わかっていた。
(大丈夫って言ってそうだな。気合入った表情だけど、運動能力を奪われてるアンデレにとって、防御を維持するのは負担だ。しかも、悪魔の軍勢に怪鳥二羽ぶんを耐えなきゃならない)
この、ほぼ防御一方の状況を長く続けるのは得策ではないと考えるペトロは、二つに増えた目前の敵を別れて攻撃する判断をする。
「みんな! 悪魔と怪鳥を排除するぞ! 視覚が生きてるオレとシモンは、怪鳥へ攻撃。聴覚が生きてるヨハネとヤコブは、悪魔への広範囲攻撃を頼む!」
「わかった!」
文章読み上げアプリを使って、ヨハネとヤコブにも作戦を伝えた。
「神経を研ぎ澄ませて気配を感知して、どうにかする!」
「何が襲って来ようが、やってやるよ!」
ヨハネとヤコブは、悪魔への広範囲攻撃を開始した。
(ユダのことが心配だ。側に行きたくても、棺が見えないからどこにあるのかもわからないし、この状況じゃここから離れられない。信じて待つしかできない……。でも。マタイは、どんな方法でユダを追い詰めるつもりなんだ)
トマスができなかったことを、「引き摺り出すものはある」と断言していたマタイならできるのだろうか。仲間ができなかったというのに、一体なぜそんな確信を抱けているのだろう。
(きっと、ユダはちゃんと戻って来る!)
騒ぐ心を大人しくさせようとペトロは右腕を触り、シモンとともに怪鳥への攻撃を開始する。
「穿つ! 闇世への帰標!」
「爆ぜろ! 御使いの抱擁!」
ペトロは光線を、シモンは光の爆発をお見舞いする。
怪鳥はまともに食らい、胴体に穴を空けた。ところが、穴はみるみる塞がっていき、あっという間に元通りになった。
「な……っ!」
「再生した!?」
「もう一度! 爆ぜろ! 御使いの抱擁!」
「噴出せ! 赫灼の浄泉!」
再び攻撃をするも結果は同じで、胴体はすぐに再生してしまう。
「ダメだよ、ペトロ。再生しちゃう!」
「まさか。こいつらを喚び出したシャックスを、倒さなきゃならないやつか!?」




