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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第5章 Verschwinden─裏表─

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29話 パーティー



 その日の夜。ヤコブとシモンが、夕飯ができたと二人を呼びに来た。


「ユダ。アンデレに、もう一度治癒やってもらったか?」

「うん。してもらったよ」

「少しは気分もよさそうだね」

「よしっ。じゃあ、パーティー会場にご案内ー!」

「パーティー?」


 ユダとペトロは、目をぱちくりさせる。今日の夕食の準備は俺らに全部任せろと言っていたが、パーティーとはどういうことだろうと、顔を合わせて小首を傾げた。

 二人と一緒にリビングルームに行くと、ヨハネとアンデレが待っていて、テーブルには埋め尽くすほどの料理が並んでいた。

 アイスバインに、じゃがいもなどの野菜にホワイトソースをかけて焼いたアウフラウフに、デリバリーしたピザ。デザートは、バニラクリームとホイップクリームとバタークリームを挟んだ生地の上に、キャラメリゼされたアーモンドをトッピングした、アンデレ特製のビーネンシュティヒ。もちろん、ビールとワインも準備済みだ。

 今まで並んだことのないボリュームに、ユダもペトロもびっくりする。


「どうしたの、これ」

「ピザ以外は全部作りました」

「ケーキはおれ特製です!」

「なんで、急にパーティーなんて……」

「なんでもいいだろ。たまにはパアーッとやろうぜってことだよ!」

「二人は何飲む?」

「オレは、いつものビールで」

「じゃあ、私も」


 ユダとペトロはヨハネとアンデレにビールを注いでもらい、みんなそれぞれグラスを持った。


「それじゃあ、乾杯しようぜ」

「何に?」

「なんでもいいだろ」

「それじゃあ……。みんな仲良し記念の乾杯にしよー!」

乾杯(プロースト)!」


 いつもよりちょっと賑やかに、夕食の時間が始まった。

 会話はいつもと変わりなく、学校や職場であったことをおもしろおかしく話したり、打ち合わせに行ったヤコブはちょっと自慢話をしたり。他愛のない話をして、和やかな時間が流れた。

 アルコールも入り少し気分がよくなってきたところで、レクリエーションタイムに入った。


「部屋からゲーム機持って来たから、やろうぜ!」

「でも、テレビなくないか?」

「さっき持って来た」


 見ると、ソファーの前にないはずのテレビがある。ヤコブが、自分の部屋から持ち込んだらしい。


「マリカーやるやつ!」

「おれやりたい!」

「他は? ユダもたまにはやるか?」

「えっ。私も? ほとんどゲームはやったことないよ」

「いいからやろうぜ」


「やりましょー!」とアンデレに引っ張られ、半ば強引にゲームに参戦させられるユダ。

 初めて触るコントローラーの操作を教えてもらい、ゲームが始まるとコントローラーを握り締め、画面に釘付けになってプレイする。


「カートの動きに釣られて、お前の身体まで左右に動いてるぞ」

「ほんとだ。ユダ面白いー」

「勝手に動いちゃうんだよー」


 やがて、ゲームは全員参加の対戦式となった。ヤコブは対戦相手のペトロをライバル視して、白熱するゲームに一同は盛り上がる。

 やり慣れているヤコブが順調に勝ち抜き、アンデレとの決勝も勝って優勝。シャンパンシャワーの代わりに、勝利の瓶ビール一気飲みをした。

 ちなみに、最下位決定戦はユダ対ヨハネで、初心者のユダが大敗した。罰ゲームとして、チョコレートと余っていたバタークリームと多めのザワークラウトをブロートでサンドものを食べ、ちょっと気分が悪くなった。


「ねぇねぇ。このダンス知ってる?」


 ゲーム対戦が終ったあと、シモンがスマホを見せてきた。以前、ペトロとヤコブが仕事を掛けて勝負したショート動画配信SNSで、また違うダンスが流行しているようだ。


「これ、学校でもみんな踊ってるんだ」


 と言ってシモンは立ち上がり、音楽に合わせて踊ってみせる。踊り慣れているシモンは、頭とお尻に手でうさぎの耳と尻尾を作って、「ここの振り付けかわいくない?」と、ぴょんと片足を後ろに蹴る。


「ペトロ、一緒に踊ろ。ヨハネ、動画撮ってよ」

「オレが踊るの? ダンス苦手だって言ったじゃん」


 ペトロは、ちょっとだけ嫌そうな顔をする。


「確か、“ぶきっちょダンス”って言われてたやつあったよな。おれも観た。テンポ微妙に遅れてるやつ!」

「思い出させるなよ、アンデレ」

「おれの友達とか職場の人もみんな、かわいいって大好評だったぞ!」


 あんなダンスが世に広まり、穴があったら入りたかった当時の羞恥心を思い出したペトロは、アンデレの腕を掴む。


「アンデレ、運動神経そこまでじゃなかったよな。お前も一緒に踊れ!」


 道連れにするためにアンデレも参加させ、シモンに振り付けを教えてもらって三人でダンス動画を撮った。

 ペトロはアンデレも下手だと思っていたのだが、撮った動画を観ると普通に踊れていた。そしてやっぱり、ペトロだけワンテンポ遅れている。


「なんでお前普通に踊れてんだよ! 昔、サッカーボールまともに蹴れてなかったじゃん!」

「サッカーはな。おれ、ボールは蹴るよりも投げる方が得意なんだよ」

「ハメられた!」


 ただの勘違いである。親友を巻き添えにしようとしたしっぺ返しに遭い、ペトロは同じ羞恥心を味わっただけだった。




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