29話 パーティー
その日の夜。ヤコブとシモンが、夕飯ができたと二人を呼びに来た。
「ユダ。アンデレに、もう一度治癒やってもらったか?」
「うん。してもらったよ」
「少しは気分もよさそうだね」
「よしっ。じゃあ、パーティー会場にご案内ー!」
「パーティー?」
ユダとペトロは、目をぱちくりさせる。今日の夕食の準備は俺らに全部任せろと言っていたが、パーティーとはどういうことだろうと、顔を合わせて小首を傾げた。
二人と一緒にリビングルームに行くと、ヨハネとアンデレが待っていて、テーブルには埋め尽くすほどの料理が並んでいた。
アイスバインに、じゃがいもなどの野菜にホワイトソースをかけて焼いたアウフラウフに、デリバリーしたピザ。デザートは、バニラクリームとホイップクリームとバタークリームを挟んだ生地の上に、キャラメリゼされたアーモンドをトッピングした、アンデレ特製のビーネンシュティヒ。もちろん、ビールとワインも準備済みだ。
今まで並んだことのないボリュームに、ユダもペトロもびっくりする。
「どうしたの、これ」
「ピザ以外は全部作りました」
「ケーキはおれ特製です!」
「なんで、急にパーティーなんて……」
「なんでもいいだろ。たまにはパアーッとやろうぜってことだよ!」
「二人は何飲む?」
「オレは、いつものビールで」
「じゃあ、私も」
ユダとペトロはヨハネとアンデレにビールを注いでもらい、みんなそれぞれグラスを持った。
「それじゃあ、乾杯しようぜ」
「何に?」
「なんでもいいだろ」
「それじゃあ……。みんな仲良し記念の乾杯にしよー!」
「乾杯!」
いつもよりちょっと賑やかに、夕食の時間が始まった。
会話はいつもと変わりなく、学校や職場であったことをおもしろおかしく話したり、打ち合わせに行ったヤコブはちょっと自慢話をしたり。他愛のない話をして、和やかな時間が流れた。
アルコールも入り少し気分がよくなってきたところで、レクリエーションタイムに入った。
「部屋からゲーム機持って来たから、やろうぜ!」
「でも、テレビなくないか?」
「さっき持って来た」
見ると、ソファーの前にないはずのテレビがある。ヤコブが、自分の部屋から持ち込んだらしい。
「マリカーやるやつ!」
「おれやりたい!」
「他は? ユダもたまにはやるか?」
「えっ。私も? ほとんどゲームはやったことないよ」
「いいからやろうぜ」
「やりましょー!」とアンデレに引っ張られ、半ば強引にゲームに参戦させられるユダ。
初めて触るコントローラーの操作を教えてもらい、ゲームが始まるとコントローラーを握り締め、画面に釘付けになってプレイする。
「カートの動きに釣られて、お前の身体まで左右に動いてるぞ」
「ほんとだ。ユダ面白いー」
「勝手に動いちゃうんだよー」
やがて、ゲームは全員参加の対戦式となった。ヤコブは対戦相手のペトロをライバル視して、白熱するゲームに一同は盛り上がる。
やり慣れているヤコブが順調に勝ち抜き、アンデレとの決勝も勝って優勝。シャンパンシャワーの代わりに、勝利の瓶ビール一気飲みをした。
ちなみに、最下位決定戦はユダ対ヨハネで、初心者のユダが大敗した。罰ゲームとして、チョコレートと余っていたバタークリームと多めのザワークラウトをブロートでサンドものを食べ、ちょっと気分が悪くなった。
「ねぇねぇ。このダンス知ってる?」
ゲーム対戦が終ったあと、シモンがスマホを見せてきた。以前、ペトロとヤコブが仕事を掛けて勝負したショート動画配信SNSで、また違うダンスが流行しているようだ。
「これ、学校でもみんな踊ってるんだ」
と言ってシモンは立ち上がり、音楽に合わせて踊ってみせる。踊り慣れているシモンは、頭とお尻に手でうさぎの耳と尻尾を作って、「ここの振り付けかわいくない?」と、ぴょんと片足を後ろに蹴る。
「ペトロ、一緒に踊ろ。ヨハネ、動画撮ってよ」
「オレが踊るの? ダンス苦手だって言ったじゃん」
ペトロは、ちょっとだけ嫌そうな顔をする。
「確か、“ぶきっちょダンス”って言われてたやつあったよな。おれも観た。テンポ微妙に遅れてるやつ!」
「思い出させるなよ、アンデレ」
「おれの友達とか職場の人もみんな、かわいいって大好評だったぞ!」
あんなダンスが世に広まり、穴があったら入りたかった当時の羞恥心を思い出したペトロは、アンデレの腕を掴む。
「アンデレ、運動神経そこまでじゃなかったよな。お前も一緒に踊れ!」
道連れにするためにアンデレも参加させ、シモンに振り付けを教えてもらって三人でダンス動画を撮った。
ペトロはアンデレも下手だと思っていたのだが、撮った動画を観ると普通に踊れていた。そしてやっぱり、ペトロだけワンテンポ遅れている。
「なんでお前普通に踊れてんだよ! 昔、サッカーボールまともに蹴れてなかったじゃん!」
「サッカーはな。おれ、ボールは蹴るよりも投げる方が得意なんだよ」
「ハメられた!」
ただの勘違いである。親友を巻き添えにしようとしたしっぺ返しに遭い、ペトロは同じ羞恥心を味わっただけだった。




