21話 協力戦線
「嘘だろ! なんでだよ!?」
「ヤコブ。今ボクたち、どういう状況なの?」
シモンはヤコブの服を手探りで掴み、不安げに訊いた。だが、聴覚を奪われたヤコブには、正確に伝える手段がない。
そこでシモンは、スマホにインストールしていた文章読み上げアプリを開き、音声入力をした文章を読み上げヤコブに聞かせる。
「どうやら、シャックスの能力に掛かったみたい。アンデレが精神治癒をやってくれたけど、全く効いてない」
「マジかよ」
その様子を見たヨハネも、同様の方法でペトロに状況を共有した。
「アンデレの精神治癒が効かない……。それじゃあオレたちは、この状態で戦わなきゃならないのか!?」
「某の能力を承知した所だな。では、眷族を喚ばせて貰おうか」
無情にも、地面からシャックスが喚び出した眷族が数十体が現れる。
「この状態で、どうやって戦えばいいの!?」
(棺の中のユダが、どうなってるのかも気になるのに! でもこの状況じゃ、棺に近付くどころか心配してる余裕もない。今は、目の前の敵をどうにかしなきゃ。ユダがオレを信じてくれたように、オレもユダを信じるんだ!)
ペトロはユダへの心痛を堪え、この状態でどうやって戦うかを考える。
(オレとヤコブは、目が見えない。ヨハネとシモンは、聴覚を奪われた。そしてアンデレは、ほとんど身体を動かせない……)
考えたペトロは、ヨハネのスマホの文章読み上げアプリで音声入力し、ヨハネに意志を伝える。
「ヨハネ。オレと一緒に戦ってくれるか」
「え。一緒に戦うって……」
「言葉の通りだ。協力して戦うんだ」
ペトロの提案で、視覚が生きている者と聴覚が生きている者で組む戦法を取ることにした。ペトロはヨハネと、ヤコブはシモンと協力する、お互いを補い合った戦い方だ。
(不安はあるけど、これしかない。今は、仲間を信じて戦うしか!)
視覚が生きているヨハネとシモンは、ハーツヴンデも手にした。使徒たちは知覚を失ったままの状態で、シャックスが喚び出した悪魔たちと戦闘を開始する。
「貫け! 天の罰雷!」
ヨハネが放った雷を食らい、何体か消える悪魔。ヨハネは自身の周りだけでなく、ペアとなったペトロの方にも神経を研ぎ澄ませる。
「ペトロ! 左前方だ!」
「降り注げ! 大いなる祝福の光雨!」
威力を増大させた光の弾丸を放ち、視覚を奪われたペトロも悪魔を祓う。どのように悪魔が配置されているのか見えないため、的は多少ずれるが、それはヨハネがフォローする。
「射貫く! 泡沫覆う惣闇、星芒射す! ヤコブ、右から!」
「爆ぜろ! 深き御使いの抱擁!」
ヤコブとシモンも同じ戦法で戦う。シモンの無数の光の矢の攻撃と、光の爆発の威力を増大させたヤコブの攻撃で、悪魔は次々と消えていく。二人もうまく連携して戦えていた。
(協力して戦うとか言ったけど、結局ヨハネの方が大変な役回りになっちゃったな。でも一番大変なのは、広域防御を展開してくれてるアンデレか)
身体が動かないアンデレは並木道の下に移動させ、そこから、攻撃とガイドで手一杯の四人を防御で守ってくれていた。自身の周りと二ヶ所同時展開という始めての試みに、アンデレはいつもの倍の神経を使っている。
(アンデレの精神治癒が効かなかったってことは、催眠とかの類じゃないってことだよな。だったら一体……)
「ペトロ、横!」
知覚を奪った能力の正体を考えていたペトロに、悪魔が剣を振り下ろし襲い掛かって来たが、アンデレの防壁で防がれる。
「貫け! 連なる天の罰雷!」
「∅σァ@€μ……ッ!」ペトロは雷を落とし、悪魔を祓った。
「集中しろ!」
「ごめん!」
「というか。協力するっていう話だったけど、僕の方が大変じゃないかこれ!」
ヨハネは、〈苛念〉で祓いながら愚痴を溢す。
(気付かれてた……)
負担を掛けさせてしまったことはあとでちゃんと謝ることにし、ペトロは再び戦闘に集中した。
悪魔たちの指揮官のシャックスは戦勝記念塔の台座に腰掛け、戦況を観察する。
「流石は、歴戦経験のある使徒。一筋縄では行かぬようだが、果たして其れは実力か運か」
(其れよりも、主の方が気掛かりだ。気弱な一面だけでは無いが、あの使徒を堕とせるだろうか)




