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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第5章 Verschwinden─裏表─

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3話 すっかり慣れました



 ある日の午後。ライブハウス近くに悪魔が現れ、ペトロ、ヤコブ、シモン、アンデレが相手をしていた。

 ヤコブが潜入インフィルトラツィオン実行中で、その側に〈護済(ヘルフェン)〉を持ったアンデレが立っている。

 悪魔はテナガザルのように腕を伸ばし、街路樹を伝って逃げる。それを追うペトロとシモン。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 木の枝に捕まった悪魔は振り子のように回って光の弾丸をかわし、その反動を使って追って来たペトロに黒い槍を放った。ペトロは防御(フェアヴァイガン)で防ぐ。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」


 悪魔がペトロを標的にしている隙きに、シモンが光線を放つ。しかし掠めただけで、悪魔は次の街路樹に逃げた。


「アンデレ! 精神治癒、無理して続けなくていいからな!」

「このくらい全然負担じゃないから、大丈夫!」


 ペトロは、攻撃をしながらアンデレを気遣った。

 最近判明したことだが、アンデレの精神治癒が、深層潜入中の相互干渉の負荷を軽減する効果もあることがわかった。


「アンデレがいてくれて助かるね」

「本当だな。深く相互干渉すると結構キツイから、マジで助かる!」


 ペトロは悪魔の行く手に天の罰雷(ドンナー・ヒンメル)を落とした。悪魔が急ブレーキを掛け折り返そうとした瞬間に、シモンが攻撃する。


「噴出せ! 赫灼の浄泉(クヴェレ・ブレンデン)!」

「μォ∅∀アッ!」


 溢れる光の泉をまともに食らった悪魔は街灯の柱を掴み損ね、緑地前の植物で覆われたパーゴラに突っ込んだ。


「爆ぜろ! 御使いの抱擁ウムアームン・エンゲル!」

「グ∃∂ァ@ッ!」


 ペトロの一撃で悪魔は大人しくなり、シモンがすかさず十字の楔(カイル・クロイツェス)で拘束した。


「二人とも! ヤコブが戻って来たぞー!」


 アンデレがヤコブの帰還を教えると、ペトロとシモンはハーツヴンデで悪魔を祓魔し、戦闘は終了した。

 憑依されていた人も無事に目を覚まし、四人はハイタッチして互いの働きを称えた。


「精神治癒ありがとな、アンデレ。前より深層潜入が楽になったわ」

「そのくらい任せてくれよ! 何人でも何度でもできるよ、おれ!」


 アンデレは、役に立てることが増えて嬉しそうだ。


「やる気があっていいけど、お前は学校も仕事もあるんだから無茶するんじゃねぇぞ?」

「それよりペトロ。時間は大丈夫?」

「そうだな。そろそろ……」


 守護領域も解除されたそこへ、ユダが車に乗って現れた。


「みんな、お疲れさま。迎えに来たよ、ペトロ」


 今日は、専属モデルのオファーをくれた先方と会う約束の日で、ことあと直接交渉が待っている。


「じゃあ行って来る」

「行ってらっしゃいー」


 三人は去って行く車を見送った。


「雑誌の専属モデルかぁ。すごいね、ペトロ。話聞くだけって言ってたけど、また断っちゃうのかな」

「でも、ユダとしてはやってほしそうな感じだよな。ヨハネは、あんまり勧めてなかったけど」

「ヨハネさん、意外と冷たいっす! おれ、ペトロの活躍もっと見たいのに!」

「あいつは比較的、使徒(本業)優先したい派だからな。良くも悪くも無欲っていうか」

「そういえばヤコブ。全然嫉妬してないね」


 今回の話を聞いた時、ヤコブは以前のように勝負を挑んだり無駄に突っ掛かることはせず、順調に実績を積んでいくペトロを祝福した。


「全然じゃねぇけど、羨ましくはあるよ。でも最近、あいつには敵わねぇなって思い始めてる」

「それって。事務所の看板は完全に譲るってこと?」

「看板は譲ってやることにした。でも、ライバルなのは変わんねぇ」

「それでこそヤコブだよ」


 プライドのパワーで貪欲に成功を求める。そんな諦めない姿も、シモンのヤコブの好きなところだ。




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