カッツェは魅惑的な夢を見る(後編)
※ちょっとアダルトな勝負下着のお話、後編です。
「この中だったら、どれがいい?」
「どれって!」
(どれもえろい!)
「ふ……普通のやつでいい!」
勝負下着=えっちい下着とはわかっていたが、想定が大気圏外だったので、初心者のペトロには激しいタイプはさすがに選べなかった。
「じゃあ。僕と同じ、ビキニかTバックにしよ」
ペトロは一度、オレンジジュースで気持ちを整えた。しばらくして興奮が収まったので、シモンにアドバイスをもらいながら、どのデザインにするかを選ぶことにした。
「どれがいいかな……。ペトロかわいいから、レース付きとかは?」
シモンはまず、足を通す縁にレースが施され、パステルの色味が女性ものっぽいビキニタイプを勧めた。
「かわいい言うな。ていうかこれ、女性ものじゃないの?」
「ユニセックスだから、男性が履いてもいいんだよ。ペトロだったら絶対似合うよ」
「ええー」
これまで散々性別を間違えられてうんざりなペトロは、女性っぽいデザインは気が進まないようだ。
「女性っぽいのが嫌なら、男性もののレースのTバックもあるよ」
「なんでレースばっか……。って。これ、前透けてないか!?」
シモンは、次は男性もののレースの黒のTバックを勧めたが、明らかに布地はレースだけだ。
「総レースだからね。セクシーでよくない?」
「恥ずかしいよ!」
「普通に透けてるのもあるけど」
ペトロの面白い反応が見たいシモンは、シンプル薄布スケスケTバックもさらっと勧めた。
「透けなくていい!! ていうか、Tバックじゃなくて普通に布があるやつでいいって!!」
ペトロが色白肌を紅潮させて拒否すると、シモンはちょっと不満げに言う。
「えー、なんでー。絶対かわいいのにー。お尻に自信がないとか?」
「自信は……」
お尻には自信がないと言いかけたペトロだが、情事初期に「お尻もかわいいね」とユダに言われたことを思い出した。
「…………一応、ある」
「ユダに言ってもらったの?」
訊かれると、ペトロは照れながら浅く頷いた。
最中のユダは、ペトロのありとあらゆるパーツを「かわいい」と言う。なので、気分を上げるためなのか、溢れる愛から出る褒め言葉なのかはわからない。恐らく後者だろうが。
けれどペトロも、その褒め言葉を扇情的に感じているのは否定できない。
「いいなー。ボクもヤコブに、お尻かわいいって言ってもらいたいなー」
「シモンは、今のままでも十分かわいいと思うけど」
「本当に? ペトロに、お墨付きもらっちゃったー」
「かわいい男子」の先輩に言ってもらえて、シモンは機嫌よく笑みを溢した。もちろん、ヤコブに言われるのが一番嬉しい。
「じゃあ。Tバック、チャレンジしようよ。勝負下着といえば、Tバックだし。ペトロが履いたら、ユダも喜ぶと思うよ」
「喜ぶかな。どんなのが好きか、わからないけど」
「絶対喜ぶよ」
シモンに強く勧められ、ちょっとペトロは考える。
もしも、Tバックを穿いた姿をユダが見たらどんな反応をするかと想像すると、喜んでいる顔が見えた。たぶんユダなら、かわいい下着でも思い切ったえっちい下着でも「かわいい」と喜ぶだろう。
「じゃあ……。頑張って、Tバック穿こうかな」
「そうしよ、そうしよ。せっかくの初Tバックだから、張り切って総レースにする?」
「だから、普通のTバックでいいって! いきなり総レースなんて穿いたら、あいつがどんな反応するか……!」
「暴走しちゃいそう?」
「それは、たぶんない。と、思うけど……」
未踏のチャレンジなので、想像の範疇はやはり大気圏の向こう側だが、静かに理性を爆発させ気絶するまで抱き潰されそうだと、ペトロはなんとなく身の危険を感じた。
照れながらも、喜ぶユダの顔を想像して嬉しそうな表情を薄っすら浮べるペトロ。そんなふうに気持ちが現れるのは、大事にされながら愛をもらっている証拠だ。
恋人同士でそんな喜びを与え合えることが羨ましいシモンは、興味を抱いて訊いた。
「ねぇ。ユダってさ、普段は優しいけど、夜になるとどうなの?」
「えっ。どうって……。基本的には優しいよ。ほとんど、無理なことはしないし。オレの身体を気遣ってくれたりもするし」
「大事にされてるんだね……。最初はどうだった? 怖かった? それとも、ドキドキした?」
「えっ!?」
ファーストアタックはどんな感じだったのかと、気になってしまった。
男友達とえっちな話が出ないわけではないが、同性に興味があるのはシモンだけなので、なかなかそんな話を聞くこともない。いずれはヤコブと……と、心待ちにしているシモンにとって、同じ屋根の下に住むペトロは貴重な情報源だ。
シモンが、興味津々の眼差しを向けてくる。自分の初の情事を話すのは初恋を語るよりも恥ずかしくて、ペトロはたじろいだ。
でも、その眼差しがあまりにも純粋だったので、思い出すのはものすっごく恥ずかしいが、少しだけ教えてあげた。
「……ちょっと怖かったよ。でも、ドキドキの方が勝ってた。ユダも優しく声掛けてくれて、抱擁されてるくらいの感覚で。触り方も、優しかったり、メリハリがあって……」
「よかった?」
口にするのはそこまでが限界だったペトロは、無言で頷いた。
「いいなぁ〜。ボクもヤコブと、早くえっちなことしたいなぁ〜」
表情は恋する十五歳だが、口にする欲望は既に成人しているシモン。
「なんとなくだけど、あいつ激しそうじゃないか?」
「たぶんね。ずっと我慢させちゃってるし、初回は凄そうだよね。でも、ボクも同じくらい我慢してるから、ヤコブの気持ちに全力で応えたいんだ」
「怖いとか思わないの?」
「全然。ヤコブとするの、待ち遠しいくらいだもん」
まるで、初めての海外旅行を待ち侘びているように、シモンはわくわくしていた。
「シモンて、そんなにヤコブのこと好きなんだな」
「うん。大好き!」
シモンは笑顔で言った。その笑顔には微塵も濁りがなく、純真無垢だ。
「そんなに思われて、ヤコブは幸せ者だな」
「ペトロもでしょ」
「……そうだな」
ペトロは視線を少しだけ下げながら、微笑を浮かべた。
「で。Tバック、どんなのにする?」
ペトロは、種類が多くて自分では選べなかったので、シモンにいくつかチョイスしてもらって、その中からよさげなデザインを選んだ。
前がホックで外れる無地の白いTバックと、シモンがレース付きのビキニタイプを激押ししたのでそれも白を選び、そのまま「えいやっ!」と注文ボタンをクリックした。
「注文しちゃった……」
初の勝負下着を注文したペトロの心臓は、まだドキドキしている。
「来るの楽しみだね」
「ありがと、シモン。助かった」
「ボクも、普段しない話をペトロとできて嬉しかった。穿いたら教えてね。いろいろ聞きたいから」
「報告するの?」
「だって、たぶんペトロの方が先でしょ? 反応とか聞いて、イメトレしたい」
(イメトレって……)
前のめりでヤル気満々のシモンが、ペトロにはだんだん小さいユダに見えてきた。
「シモンて、めちゃくちゃ積極的だな。逆にヤコブが食われそう」
「ボクは、絶対的に食べられる方だよ」
(いや。草食動物の革を被った、肉食動物じゃないか?)
と、ちょっと思うペトロ。
「まぁ。選ぶの手伝ってもらったから、ちょっとだけなら。いつになるかはわかんないけど」
「できるだけ早めでよろしく!」
ペトロの成果も、ヤコブとの初の濃密イチャイチャも、シモンは待ち切れない様子だ。愛がはち切れそうと言うべきか。思春期男子の恐ろしいほどの好奇心と言うべきか。
(やっぱり、ヤコブが食べられる方な気がする……)
逆にヤコブが大丈夫だろうかと、余計な心配をしそうになるペトロだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
ペトロとシモンの掛け合いがあんまりない気がするなぁ……と思って、ちょうど受け同士なのでこのネタにしました。(「カッツェ」はドイツ語で「ネコ」の意味です)
どっちが年上かわからないですね(笑)そっち方面に関しては、圧倒的にシモンの方が大人です。今後は、そっち方面のいい相談相手になりそうです(^^)
さて。衝撃の展開が待っている第5章が始まります!ぜひお楽しみいただけたら幸いです。




