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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第4章 zum nächsten─見つけたもの─

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17話 アンデレ初活躍



「終わらせたのは自分がきっかけだって、痛いほどわかってる。愚かだったから、起きてしまったことも……。でも。だからこそ、ちゃんと区切りを付けなきゃいけないんです。わかっているから、次へ向かわなきゃならないんです」

「自分のせいで、彼の運命が変わったんだとしても?」


 その言葉に、ヨハネは動揺を見せる。


「別れなければ、彼の運命は変わらなかった……。別れたから、彼の運命が変わったんだ……」

「…………」


 ヨハネは言葉に詰まる。男性の感情に同調し過ぎ、抱いている感情がどっちのものか区別が付かなくなりそうになる。

 しかし、どうにか自我を維持し、言葉を絞り出す。


「自分のせいで彼の運命が変わってしまったなんて、誰にもわかりません。あなたの罪悪感が、そう思い込ませているだけかもしれない。だから、あなたのせいじゃない。彼を喪ったのは、あなたの過ちが原因じゃない」

「自分は……悪くない?」

「きっとあなたは、罪悪感を抱くことで、未だ忘れられない彼への謝罪と思いを証明し続けている。でもそれじゃあ、あなたは苦しみから解放されない。だから、今いる場所から一歩進むんです」

「進む……。そんなこと……」

「大丈夫です。恐れることはありません。きっと彼も、あなたが次へ進むことを願っています」

「本当に……?」

「ええ」

(そう望んでいるのは、僕自身だ)


 自分と重ね、心が引っ張られそうになりつつも、ヨハネは男性の側で膝を突いた。


「あなたが抱えているその痛みは、罪悪感と心中するための痛みじゃありません。その痛みを知っているなら、きっと次は大丈夫です」




 その頃。悪魔と戦闘中のヤコブとシモンの元に、店のユニフォーム姿のアンデレが汗を流しながら到着した。


「やっぱり、もう始まってる!」

「来たな、新米!」

「二人だけ?」

「ヨハネは深層潜入中」

「おれは、何したらいい?」

「アンデレは戦闘能力ないから、ひとまずハーツヴンデ出して待機してて」

「わかった!」


 防御と治癒専門だと判明した際にハーツヴンデを出せるのかも試して、具現化にも成功している。実践はこれが初めてだ。


(ちゃんと出せるかな)

「えっと……。 心具象出ヴァッフェ・ダーシュテーレン───〈護済(ヘルフェン)〉!」


 突き出した手に光が集まり、細長い形になっていく。そして、杖のハーツヴンデ〈護済(ヘルフェン)〉が具現化された。


「出た! ヤコブ、シモン! おれのハーツヴンデ、上手く出せたよー!」

「おめでと!」

「ガキじゃねぇんだから、そんくらいではしゃぐな!」

「おれとこの感動分かち合ってよー!」

「状況見て言え、状況を!」


 ヤコブとシモンは悪魔に追い掛けられていて、それどころではない。道幅は広いが、橋の上で対峙している二人に逃げ場はない。運悪く川に落ちても、アンデレの杖に乾燥機能はない。

 後方待機を指示されたアンデレは、万が一のために戦況を見守るが。


「……ていうか。おれの出番なくない?」

(ヤコブもシモンも戦い慣れてるから、全然怪我してないし、防御も必要なさそうだなー)


 多少、手子摺ってはいるようだが、苦戦はしていない。ヨハネがうまくやってくれれば、長引くこともないはずだ。

 やることがないアンデレは、深層潜入中のヨハネの方を見た。ヨハネは地面に座り込んで、男性の肩に手を置き屈んでいる。

 知らない人の深層に潜るとはどういう感覚なんだろう……と、ぼんやり見ていると。ヨハネが、ハッと身体を起こした。


「二人とも! ヨハネさんが起きた!」


 ヤコブとシモンはそれぞれのハーツヴンデを出し、ヤコブが鎖を断ち切り、シモンが悪魔を矢で射貫いて祓魔し、戦闘は終わった。


「出番がなくて残念だったな、アンデレ」

「なんとか説得して、抜け出して来たのにー」


 ハーツヴンデも出せたのにー、と活躍の場面がなかったアンデレはがっかりして肩を落とす。


「ヨハネ。大丈夫?」


 シモンの声で二人は振り向いた。立ち上がってはいるが、ヨハネは具合が悪そうに街路樹に寄り掛かっていた。


「ああ……。ちょっと相互干渉し過ぎた」

「お。丁度いいじゃん。アンデレ、仕事だ」

「このくらい大丈夫だって」


 アンデレの出番だが、ヨハネは精神治癒を拒んだ。しかし活躍したいアンデレは、挙手して主張する。


「やらせて下さい! せっかく来たのに何もしてないから、やった感を感じたいです!」

「やった感て……」

「なんのために、アンデレがいると思ってんだよ。治癒やってもらえ」


 ヤコブの隣で、シモンはうんうんと頷く。アンデレも、目を輝かせて大きく頷く。

 そのやる気に満ちた目を見てしまったヨハネは、断りづらくなった。


「……じゃあ。頼めるか」

「やってみます! 上手くできなかったらごめんなさい!」


 自信がありそうなのに保険を掛けるアンデレに、ヨハネはフッと笑みを溢した。

 少し緊張の面持ちのアンデレはヨハネに〈護済(ヘルフェン)〉を近付け、深呼吸をしてから詠唱する。


「心を癒せ 心魂は不可侵、ゲヒトエスディアグート・黒雲は沈降に非ず。(ルーイヒ・)祝福を受けよ(ジーゲン)!」


 唱えると、杖の丸い部分が白光を放った。その、ほのかに温かく感じる光を浴びていると、ヨハネの顔色がよくなっていった。

 初めて治癒を施したアンデレは、不安そうに窺う。


「どうです?」

「うん。よくなった」

「成功っすか?」

「成功」

「やったー! 初めてのやった感だー!」


 アンデレは、両手を上げて初めての成果に喜んだ。


「よかったね」

「これでお前も、使徒の一員だな」

「はいっ! 不束か者ですが、よろしくお願いしますっ!」

「不束か者じゃなくて、未熟者だろ」


 守護領域が解除されると、一部始終を見ていた一般人が、アンデレの仲間入りを歓迎して激励の雨あられを降らせた。

 こうしてアンデレは、正式に使徒の仲間となった。




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