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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第4章 zum nächsten─見つけたもの─

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15話 スウィートタイムの邪魔者



「でもきっと、ペトロに勝てる人はいないよ」

「それは言い過ぎだって。ユダがオレを過大評価し過ぎてるだけだろ」

「ペトロは、自分を過小評価し過ぎてるよ」

「そぉかぁ?」


 世間の反応を知ってもなお、自身の活躍はマグレだと思い続けているペトロは、他人事のようなリアクションでアイスを食べる。


「私は、ペトロにもっと活躍してほしいな。いつか、ランウェイで誰よりも輝く姿を見てみたい」

「そしたら、使徒(本業)に支障が出るだろ。オレは全然、現状で満足してるし。本業が疎かになる前に、セーブのしどころを考えないとだろ」

「えー。ペトロは、もっと貪欲になってもいいと思うけどなぁ」

「普通こういうこと考えるの、社長でリーダーのお前だよな」


 ペトロのことになると、たまに社長業と使徒のリーダーであることを忘れるユダ。実は、ヤコブには陰で「ペトロバカ」と言われている。

 そんな面がちょっと呆れてしまうが、いつも自分を見てくれていて一番に考えてくれるのが、ペトロは嬉しいと思う。


「あ。ペトロ。また口に付けてる」

「どっち?」

「こっち」


 ペトロの口に付いたアイスをユダが指で拭おうとしたので、ペトロは場所を考えて遠慮という名の阻止をする。


「いいって。見られてるじゃん」

「一瞬だけ」

「一瞬でもダメ! オレたちのこと気付いてる店員さんが、チラチラ見てるから!」


 カフェカウンターにいる二人の女性スタッフが、仕事そっちのけで、イチャイチャするユダとペトロを嬉しそうに凝視している。


「でも早く拭かないと」

「舐めるからいい!」


 何が何でも指で拭きたがるユダの手を阻止し、ペトロはペロッと口の周りを舐めた。


「照れ屋さんだなぁ。冗談なのに……」

「冗談じゃなかっただろ。お前が一番気を遣わなきゃダメだろ、バカ!」


 隙きあらば、外でもイチャつこうとするユダ。いつか、ヨハネと役員交代になるんじゃないだろうか。

 ふと、ユダの視線が外れ、真顔で外を見た。


「どうかした?」

「今、外にいる人にスマホを向けられてた気がして」

「観光客が、お店の外観撮ってるだけだろ」


 ペトロも店外へ顔を向ける。

 往来する人の中で、店の前で立ち止まってスマホを向けている人物がいた。白いTシャツに黒いキャップを被り、リュックを背負っている男性だ。指の動きまではわからないが、ずっとスマホのカメラを店内に向けている。

 ユダは、その人物を注意深く見続ける。


(ちょっと気になるな……)

「ペトロ。出ようか」

「え? ……うん」


 ペトロは食べかけのアイスを片手に、ユダに言われて店を出た。

 歩き始めると、さっきの男性が少し距離を置いて後を付いて来る。


「さっきの人、付いて来てる」

「えっ。まさか、パパラッチ?」

「かな」


 ペトロだけを狙っているのか、それとも二人を狙っているのか。先程も何かを撮られたとは限らないが、面倒事は避けたい。


「一応、逃げとく?」

「念のために撒こうか」


 二人は歩く速度を早め、二区画先の聖堂と集合住宅の間の細い道に入った。

 後を付けていた男性も駆け足で同じ道に入るが、二人を見失った。道を抜けた先にも姿はなく、聖堂の周りを探しても見つからなかった。

 男性を撒いた二人は、その様子を上から見ていた。道を入ってすぐ、使徒の運動能力を生かして建物の屋上に逃げていたのだ。


「諦めて帰ったね」

「あれがパパラッチってやつかー。ちょっとドキドキした」

「この運動能力があって助かったね」


 それはいいが、地上から30メートルほど高い場所に上がったので、おかげで暑さが増した。


「何か撮られたのかな」

「こっちから後付けて、データ削除してもらえばよかったかな……。でも惚けられそうだし。その時に、対策を考えるしかないか」

「余裕だな」

「だって、普通にデートしてただけだし。その一コマを撮られてたとしても、私たちには日常でしょ?」


 暑さを和らげそうな爽やかスマイルで、微塵も焦りを見せないユダ。その余裕に、ペトロは四歳年上の頼もしさを感じる。


「あ。アイス、溶けちゃってるよ」


 ペトロが持っていた食べ掛けのアイスが、溶けて垂れている。

 ユダはペトロの手を取ってコーンごと一口食べると、ついでにペトロの指に垂れたアイスをペロッと舐めた。ちょっとドキッとするペトロ。


「そうだ。人目がないところなら外でもイチャイチャできるし、これからは屋上でデートする?」

「オレは普通のデートでいい」


 できたとしても、春と秋の限定になりそうだ。




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