15話 スウィートタイムの邪魔者
「でもきっと、ペトロに勝てる人はいないよ」
「それは言い過ぎだって。ユダがオレを過大評価し過ぎてるだけだろ」
「ペトロは、自分を過小評価し過ぎてるよ」
「そぉかぁ?」
世間の反応を知ってもなお、自身の活躍はマグレだと思い続けているペトロは、他人事のようなリアクションでアイスを食べる。
「私は、ペトロにもっと活躍してほしいな。いつか、ランウェイで誰よりも輝く姿を見てみたい」
「そしたら、使徒に支障が出るだろ。オレは全然、現状で満足してるし。本業が疎かになる前に、セーブのしどころを考えないとだろ」
「えー。ペトロは、もっと貪欲になってもいいと思うけどなぁ」
「普通こういうこと考えるの、社長でリーダーのお前だよな」
ペトロのことになると、たまに社長業と使徒のリーダーであることを忘れるユダ。実は、ヤコブには陰で「ペトロバカ」と言われている。
そんな面がちょっと呆れてしまうが、いつも自分を見てくれていて一番に考えてくれるのが、ペトロは嬉しいと思う。
「あ。ペトロ。また口に付けてる」
「どっち?」
「こっち」
ペトロの口に付いたアイスをユダが指で拭おうとしたので、ペトロは場所を考えて遠慮という名の阻止をする。
「いいって。見られてるじゃん」
「一瞬だけ」
「一瞬でもダメ! オレたちのこと気付いてる店員さんが、チラチラ見てるから!」
カフェカウンターにいる二人の女性スタッフが、仕事そっちのけで、イチャイチャするユダとペトロを嬉しそうに凝視している。
「でも早く拭かないと」
「舐めるからいい!」
何が何でも指で拭きたがるユダの手を阻止し、ペトロはペロッと口の周りを舐めた。
「照れ屋さんだなぁ。冗談なのに……」
「冗談じゃなかっただろ。お前が一番気を遣わなきゃダメだろ、バカ!」
隙きあらば、外でもイチャつこうとするユダ。いつか、ヨハネと役員交代になるんじゃないだろうか。
ふと、ユダの視線が外れ、真顔で外を見た。
「どうかした?」
「今、外にいる人にスマホを向けられてた気がして」
「観光客が、お店の外観撮ってるだけだろ」
ペトロも店外へ顔を向ける。
往来する人の中で、店の前で立ち止まってスマホを向けている人物がいた。白いTシャツに黒いキャップを被り、リュックを背負っている男性だ。指の動きまではわからないが、ずっとスマホのカメラを店内に向けている。
ユダは、その人物を注意深く見続ける。
(ちょっと気になるな……)
「ペトロ。出ようか」
「え? ……うん」
ペトロは食べかけのアイスを片手に、ユダに言われて店を出た。
歩き始めると、さっきの男性が少し距離を置いて後を付いて来る。
「さっきの人、付いて来てる」
「えっ。まさか、パパラッチ?」
「かな」
ペトロだけを狙っているのか、それとも二人を狙っているのか。先程も何かを撮られたとは限らないが、面倒事は避けたい。
「一応、逃げとく?」
「念のために撒こうか」
二人は歩く速度を早め、二区画先の聖堂と集合住宅の間の細い道に入った。
後を付けていた男性も駆け足で同じ道に入るが、二人を見失った。道を抜けた先にも姿はなく、聖堂の周りを探しても見つからなかった。
男性を撒いた二人は、その様子を上から見ていた。道を入ってすぐ、使徒の運動能力を生かして建物の屋上に逃げていたのだ。
「諦めて帰ったね」
「あれがパパラッチってやつかー。ちょっとドキドキした」
「この運動能力があって助かったね」
それはいいが、地上から30メートルほど高い場所に上がったので、おかげで暑さが増した。
「何か撮られたのかな」
「こっちから後付けて、データ削除してもらえばよかったかな……。でも惚けられそうだし。その時に、対策を考えるしかないか」
「余裕だな」
「だって、普通にデートしてただけだし。その一コマを撮られてたとしても、私たちには日常でしょ?」
暑さを和らげそうな爽やかスマイルで、微塵も焦りを見せないユダ。その余裕に、ペトロは四歳年上の頼もしさを感じる。
「あ。アイス、溶けちゃってるよ」
ペトロが持っていた食べ掛けのアイスが、溶けて垂れている。
ユダはペトロの手を取ってコーンごと一口食べると、ついでにペトロの指に垂れたアイスをペロッと舐めた。ちょっとドキッとするペトロ。
「そうだ。人目がないところなら外でもイチャイチャできるし、これからは屋上でデートする?」
「オレは普通のデートでいい」
できたとしても、春と秋の限定になりそうだ。




