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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第4章 zum nächsten─見つけたもの─

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12話 テスト



 その日はアンデレの仕事があったので後日に事務所に来てもらい、ユダとヨハネ、そして親友のペトロが同席し、事実を話した。

 説明を受けたアンデレは目を丸くする。


「おれが使徒って、本当っすか!?」

「恐らくね。使徒である条件があるんだけど、アンデレくんはその一つをクリアしてるんだ」

「条件て、なんすか?」

「アンデレくんはこの前の戦闘時に、一般人が入れるはずのない守護領域の中にいた。それが一つ目」

「他には何があるんすか?」

「深いトラウマを抱えてることなんだけど……」

「お前、そんな過去ある?」


 ペトロに尋ねられたアンデレは、生まれてから昨日までの記憶をダイジェストで振り返る。


「深いトラウマ……。うん。思い当たらない!」


 清々しいほどキッパリと言い切った。


「そんな話聞いたことないし、トラウマありそうな陰もないもんな。お前」

「それじゃあ。領域内にいられたのは、偶然なんでしょうか」

「それは考え難いと思うけど……」


 ユダは思考する。

 これまでの戦闘を振り返っても、逃げ遅れ以外に一般人が領域内に留まっていた事例は一つもない。使徒の条件であるトラウマはないようだが、ペトロが領域内に入ってしまった件を鑑みると、やはりアンデレは使徒に選ばれたと考えてもいい。

 ペトロは尋ねる。


「なあ。使徒の力って、資格が発生するのと同時に使えるものなのか?」

「たぶん、そうだと思う。『使徒になり、平穏を脅かす者から人々を救いなさい』ってお告げをもらってから、活動を始めてるから」


 と、ヨハネが答えた。それを踏まえて、ペトロはアンデレに訊く。


「アンデレも、そんな夢見たか?」

「あれがそうなのかな……。男の人とも女の人とも取れる声で、『あなたの持ち得る光で影を照らし、導きなさい』って。おれ、自発光できるの?」

「絶対そういう意味じゃないって」


 アンデレの天然ボケに、ペトロは真顔で突っ込んだ。


「僕たちが聞いたお告げとは違うのか」

「トラウマもない。だけど、守護領域内には入れた……。これは一度、試してみた方がいいかもね」


 事実が不確定のまま次の戦闘に加えるわけにはいかないので、ユダの提案で、アンデレが本当に使徒になったのかを確認してみることにした。




 また別の日。ユダとペトロは、アンデレを連れて郊外の公園へ来た。ぶっつけ本番で何もできなかったら大惨事なので、公園で使徒の力の有無を確かめてみるのだ。

 ユダは広大な敷地の中で、視界が開けて木々などの障害物のあるテストに適当な場所を選んだ。平日なのでそこまで人は多くないが、周囲に配慮して小さく守護領域を展開した。


「ユダ。試すって、どうやるつもりだよ」

「そうだなぁ……。ペトロ。ちょっと、デモンストレーションやって見せて」

「わかった」


 ペトロは力を制御し、少し離れた木に向かって攻撃を放つ。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 幾つかの光の粒が木に命中して穴を開け、葉を数枚落とした。


「アンデレくん。今のを見て、やれそうな感じ?」

「わかんないすけど……。やってみます!」


 アンデレは目を瞑り、手を強く握る。事前にアドバイスをされたように自身の中に湧いてくるものを感じ取り、力が手に集約されていくイメージをする。


「降り注げ! 祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 そして、木に向かって手を開いた。


「……」


 しかし、何も起きない。同じ手順でもう一度試すが、カスすらも出ない。


「……何も出ないっす」


 アンデレはちょっとヘコんだ。ユダも眉頭を寄せて腕を組んだ。


「おかしいな。なんで力が出ないんだろう……」

「本当は使徒になってないとか」

「もしくは。悪魔がいないから、緊張感不足で出せないか」

「そんな、火事場の馬鹿力的なやつじゃないだろ」


 ユダは「うーん」と唸る。アンデレが守護領域内に留まったのは、イレギュラーが起きただけだったのか。しかし、今現在も留まれている。

 どうにかして真否を明らかにしようとユダは手段を考え、一つ思い付く。


「ちょっと荒っぽくなるけど、試してみたいことがある。ペトロ、協力して」

「どうするんだ?」


 ユダはペトロを手招きし、アンデレに聞こえないようにコソコソと耳打ちをする。ユダの策を聞いたペトロは「わかった」と頷くと、アンデレの側に戻った。

 するとユダは少し遠ざかり、右横に一つの光の玉を出現させ、二人に向かって人差し指と中指を立てる。


「穿つ! 闇世への帰標(ベスターフン・ニヒツ)!」

「へっ!?」


 光線が直進して来て、アンデレはその場にしゃがんで危機回避をしようとした。その行動を見たペトロは冷静に防御(フェアヴァイガン)を展開し、光線は弾かれた。


「ちょっとユダさん! 危ないじゃないすか!」

「ごめんね、アンデレくん。身の危険を感じれば条件反射で出せるかなと思って、試してみたんだ」

「だったら事前に言って下さい! 超ビビッたじゃないですか!」

「前もって言ったら、絶対逃げるだろ」

「ペトロもグルか! 裏切り者!」

「お前のためだよ。驚かせてごめんな」


 使徒の力の有無を試す方法の一つだったんだと説明されたアンデレは、「じゃあ許す」と二人をすんなり不問にした。




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