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イア;メメント モリ─宿世相対─  作者: 円野 燈
第4章 zum nächsten─見つけたもの─

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9話 嫉妬イチャイチャ



 その日の晩。ペトロがシャワーを終えて戻って来ると、ユダが既にベッドに移動していた。


「ペトロ。こっちおいで」


 膝をポンポンと叩きながら笑顔で呼ばれたので、ペトロは何の疑問もなく行った。

「座って」と言われたのでユダの膝のあいだに背を向けて座ると、腰に腕が回ってきた。正面から抱き締められるのも好きだが、こうして後ろから密着されるのは落ち着く。


「今日、騒がしくなかったか?」

「全然。いつもと違った賑やかさで、楽しかったよ。ペトロのいろんな話も聴けたし。ファンクラブの話も、初めて聞いた。ペトロは昔から人気者だったんだね」

「みたいだな」

「密かにファンクラブができてたってことは、告白も相当されたんじゃない?」

「そんなにされてないよ」

「本当に? ファンクラブができる人が告白されないのは、おかしくない?」

「別に、おかしくないだろ」


 自分が注目された話題はできるだけしたくないペトロは、深堀りを避けて否定した。それを、なんとなく嘘だと見抜いたユダは、ペトロの耳に息を吹き掛ける。


「ふぅっ」

「……っ!」


 全身にゾクゾクッときたペトロは、鳥肌を立てた。ちょっと耳も赤くなる。


「急に息吹き掛けるなよ!」

「本当は何人に告白されたの?」

「そこ気にしなくていいだろ」

「気になるよ。女の子だけじゃなくて、男の子にも告白された?」


 ユダの質疑が始まった。正直に答えなさいと、ペトロの下腹部で右手をさわさわと動かす。

 これは素直になった方が利口だと察したペトロは、偽ることは諦めた。


「……まぁ。両方……」

「今まで何人くらい?」

「そんなにいない。両手で数えられるくらいだよ」

(たぶん)


 ユダの右手は止まらず、質疑は続く。


「そのうち、お付き合いしたのは?」

「してない」

「誰とも付き合ってないの?」

「誰とも付き合ってない」

「本当に? いろいろと興味が湧いてくる年頃だよね?」

「恋愛とか、まだあんまり興味なかったんだよ」


 これは本当に嘘はついていない。性別を間違われ続け、かわいいと言われまくり、うんざりしていたせいもある。


「だから……。ちゃんと付き合うの、ユダが初めて」


 ペトロは振り向き、上目遣いで清廉潔白だと主張する。


「それ、ほんと?」

「大体わかるだろ」


 これまでの夜を振り返ってみて慣れていると思うのかと、ほんのり紅潮して言う。その小さな反抗がユダはかわいらしく思えて、どんな小さな嘘でも許してしまいそうだ。


「私も。きみが初めて」


 同じだと言ってユダは微笑む。ところが、なぜかペトロは疑念の目を向ける。


「……それ、ほんと?」

「半分本当」


 嘘偽りなくそう言うと、ペトロは腕の中から出て反撃に出た。


「オレのことばっか問い質しておいて、それはズルい!」

「仕方ないよ。記憶ないんだもん」


 現在の自分は、交際経験はペトロが初めて。しかし、記憶を失くす前の自分のことは不明なので、「半分本当」というわけだ。


「ユダこそ、絶対交際歴あるだろ。顔良し性格良しが、ほっとかれるわけないし」

「わからないよ? 運命の人との出会いを夢見て、告白されても断ってたかもしれないし」

「えー。なんか、現実的なこと考えて将来を見据えた交際してそう」

「そうかなー?」

「だって、誠実だし。振る舞いを見ても教育が行き届いてる感じだから、きっと家柄もいいよな。だから、社長令嬢と婚約してそう」

「もしもそうだったら、ペトロはどうする?」


 ただの想像なので本気にすることはないのだが、認めたくないペトロはちょっと不快になる。


「……嫌かも」

「私も嫌だな」

「でも。その人と結婚しないと、親の会社が潰れるとか言われたら? そしたらユダは、家を守ることを選ぶ?」


 親を裏切るか、恋人を裏切るか。これもただの想像だが、究極の選択を訊かれたユダはペトロの手を取り、迷うことなく答える。


「その時は、婚約破棄してきみと駆け落ちするよ」

「本当にそんなことできる?」

「できるよ。家がどうなろうが親に勘当されようが、きみを選ぶ。私はペトロを裏切らない。それが私の運命だから」

「いざって時に、そんなの冗談に決まってるでしょ、なんて言わない?」

「そんな酷いことしないよ。前に言ったでしょ。大事なことは、絶対に冗談なんかにしないって」


 最初にペトロに「好きかもしれない」と言ったあと、真っ直ぐに「好きだよ」と思いを伝えてくれた。ペトロの答えを待つあいだも、両思いになってからも、その誠実さは変わらず嘘はない。きっとこれからも、ユダは偽ったりすることはないだろうと、ペトロは何も疑わない。


「じゃあ、信じる。記憶が戻っても、勝手にどっか行くなよ?」

「うん。約束する」


 二人は指切りの代わりに、結ばれた愛を確かめるように抱擁した。

 強く優しく抱き締められるペトロも、ユダの背中に回した腕に少しだけ気持ちがこもる。


(ユダが側にいてくれないと、オレはまた、誰にも頼れなくなりそうだから……)




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